本日、ここにご出席して戴いております皆様のおかげで、順天堂大学は今、正に王道を歩んでいます。今後もゆったりと肩の力を抜いて、しかし現在の状況に安住せずに粛々と正道を歩んで行きたいと思います。大きな節目を迎えた今年、新たにここで私は順天堂人としての文化・風土を提言したいと思います。
一番目に、順天堂に集う全ての方々に、順天堂人らしい礼儀、接遇、マナー、優しさ、思いやる心を持って欲しいということです。医療現場や、患者各位に対してだけではなく、仲間同士、学生にもこのような接遇、礼儀、マナーを持つ順天堂人であって欲しいと思います。
改めて言うまでもなく、順天堂は天保9年(1838年)、学祖・佐藤泰然先生が、江戸薬研堀にオランダ医学塾「和田塾」を開いて以来、「仁」を学是に歩んで参りました。約170年の長きに亘り、わが国の医学をリードしてきたのは、開学以来の学是、教育理念を貫き通す一方で、常に時代の動向、ニーズを迅速・的確に把握し、変化に即応した改革を進めてきた進取の精神によるところが大きいと言えます。
時代の変化は急激です。国内外ともに社会、経済をはじめあらゆる環境が急速に変貌しつつある現代社会の中で、順天堂に集う我々は、常に時代の風を読み解く能力を培うとともに、いま再び、学是「仁」の精神に立ち返り、他をいたわる優しさ、思いやる心を自らの中に温めていくことが求められているのではないでしょうか。
二番目に、健康総合大学に集う者の使命として、地球環境保全に務めることを求めたいと思います。学是「仁」の文字は、「人ふたり」を表していますが、その文字が表す通り、人は一人だけで生きてゆけるものではありません。人間同士、他者との繋がりがあって初めて人として生きていくことが出来るのです。
そしてこの世に存在しているものは、人だけではありません。他を慈しみ、慮る心を人だけでなく、生きとし生けるもの全て、更には自然全体に広げていくことも考えなければなりません。それこそが「仁」の心であります。身近な自然、生きとし生けるものを思いやることによって、自然、そして地球環境を想う順天堂人でありたいと願っています。
省エネ、エコロジーというテーマを掲げましたが、これは単に資源を節約しましょう、自然に与える負荷を小さくしましょうということではありません。人間は自然の一部であるという発想を基点に、人類が未来永劫に幸福に発展していくため、社会活動全般をより自然に優しい方向に転換していこうという思想です。具体的な例ですが順天堂では今後、新しく建てる校舎、病院施設は環境にマッチした最高のエコロジー性能を備えたものにしていきたいと考えています。
三番目に、FD(Faculty Development)です。FDと言うと、ともすれば「教員の能力開発」という狭義の意味で捉えられる傾向がありますが、ここで提案するのはそうした技術的な問題ではありません。順天堂大学の将来、医療と健康の明日、日本と世界の未来を見つめたとき、私たちがいつも心の中に描いていなければならない大きな展望のことであります。教職員だけではなく、事務職員、看護師、技師など順天堂に集う全ての人が、順天堂を想う気持ちを自らの職場で具体化し、実現してゆく過程が正にFDであります。
また、いま学生教育に「優しさ」と「愛」を惜しみなく与えることを提案します。今年の箱根駅伝で順天堂大学を総合優勝に導いたのは、直接には選手たちの血の滲むような努力、駅伝関係者の支援でした。しかし大きな目で見れば、彼らを支えたのは駅伝関係者だけではなく、50年間東京・箱根間を駆け抜けてきた歴代の選手たち、順天堂に集う全ての人々、そして順天堂に期待を寄せる多くの人々の優しさと愛でした。今日の3学部6病院の発展も、大学院研究科における研究成果の増加も、国家試験における高い合格率の維持も、突き詰めていけば、学生に対する大学教職員、同窓生等の優しさと愛、その表現方法としての学生教育・研究活動の充実が育んだものと言えます。
更に順天堂に集う全ての方々に、大学院の充実に向けた意識の向上と、自己評価の実践、他をけなすことなく、互いに褒め称え合いながら、社会人、文化人、或いは教育者、医療人として成長していく他己評価、相互点検を行いながら共に手を携えて歩んでゆく姿勢を求めたいと思います。
最後に教員諸氏には、学生からの評価を受けることに、更に積極的に取り組むことをお願いしたいと思います。順天堂大学に入学してくる学生の満足度は全国私学の中で最も高く、90.8%という結果が出ています。入学後6年経って再びアンケートをとると、98.6%が「この大学に学んで良かった」と答えています。この結果は順天堂の伝統、「教職員と学生の距離が非常に近いこと」に更に磨きがかかっていることを表しています。
そして医学部だけではなく、スポーツ健康科学部も、医療看護学部も学生からの評価を真摯に受け止めて、質の高い教育活動を実践して戴きたいと思います。最近の若い者は、などと揶揄するのではなく、若い人達が一日も早く自分たちのレベルに達するように教育して戴きたいと思います。学生から、順天堂大学の先生方に出会えて良かった、学んで良かった、働いて良かったと言われている今の順天堂の姿が更に光り輝くものになるよう心掛けて下さい。
来年、順天堂は開学170周年を迎えます。この記念すべき年に向けて、順天堂人が、互いに称え合い、高め合いながら、順天堂らしい文化・風土の創造に向けて意欲的に、情熱を持って取り組んで戴くことを希望して、今年の結びの提案とします。
ご清聴ありがとうございました。