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2009年3月21日に順天堂大学本郷キャンパス・有山登記念館講堂において、「国際スポートロジー学会」設立に向けた第1回学術講演会が行われた。「スポートロジー」とはスポーツと医学をコアとしながら、様々な関連した学問の深化と統合を目指す画期的な新規学問領域である。講演会では、河盛隆造先生(順天堂大学特任教授)、佐伯年詩雄先生(筑波大学名誉教授)、久保田競先生(京都大学名誉教授)の著名な3名を講師に迎え、それぞれの立場よりスポートロジーに関する極めて興味深いご講演を頂いた。講演会当日は、約400名という多数の参加者を集め会場は満員となり、スポートロジーの注目度の高さがうかがわれるとともに、講演内容もスポートロジーの今後の発展に大きな期待を抱かせるものであった。
国際スポートロジー学会は2011年4月に日本医学会総会の開催に合わせ第一回が開催されるが、その設立に向けた第2回学術講演会は本年12月5日(土)順天堂大学にて開催される予定である。
■小川理事長のごあいさつ要旨
本会は、国際スポートロジー学会設立に向けた第1回の学術講演会です。スポーツをコアとしながら、スポーツ、医学、健康科学、医療、社会学、心理学等々、分化した学問の統合と深化を目指す、スポートロジーという概念を新しく提唱する学問領域であります。今後、本邦発信のこのスポートロジーを学問的に大いに発展性のある領域として開拓してゆこうという趣旨でございます。
私事になりますが、私は2011年4月開催の日本医学会総会の副会頭に就任いたしました。順天堂大学前副学長の青木先生は、これを機会に、いろいろな研究者が、専門の枠を超え、スポーツと医学をコアに自由闊達に語り合える会を設立しましょう、と提案してくれました。そしてスポートロジーという名称のもとに、日本の医学会の中で刮目に値する存在としての旗を掲げよう、それを国際的な学会として発展させてゆこうというはこびとなりました。
この旗を掲げるには、多数の方々にご参集いただき、叡智をしぼりながら、スポートロジーとは何ぞや、ということを2年間ほど語り合い、2011年につなげたいと考えております。本日は、私どもが予測した数を大幅に上回る方々においでいただきました。本当にありがとうございました。
■河盛隆造先生講演要旨
“Sportology for the prevention and treatment of Diabetes Mellitus.”
河盛氏はスポートロジーの概念が誕生した経緯と、現在行っているスポートロジー研究の成果などについて講演した。最初に、“スポートロジー”の概念の誕生は約20年前であり、一部の人々が提唱していたと披露した。「自然科学、社会科学、人文科学を有機的にブレンドし、スポーツを学問にすべきであり、そのためにハードウェア、ソフトウェア、ブレインウェアを総動員するスポートロジーを提案したい」(水野健次郎:私の履歴書、1990年)、を引用し、今こそ、この学問領域が求められていると強調した。河盛氏は30数年にわたる自らの研究、exerciseが及ぼす影響を、体、臓器、細胞、分子レベルで検討してきた内容を順次説明した。特に、exerciseが細胞レベルでオートファジーやアポトーシスに関与するとの最新の知見を紹介、糖尿病をはじめとする生活習慣病の発症予防や早期治療の academic background として、スポートロジーが今後ますます発展すると期待していると結んだ。
■佐伯年詩雄先生講演要旨
「スポートロジー 〜構想の背景と課題〜」
佐伯氏からは、体育学の立場から新たな構想の背景と課題を明らかにするというテーマでご講演して頂いた。従来の体育・スポーツ研究は研究方法の近代化により分化と統合が求められた。学術研究を重視しながら同時に実技力や指導力が重視され、両者が並び立たないという学術評価と実践評価のダブルバインド状況が問題化した。これらの状況から佐伯氏は「生きる身体と人間の運動の乖離」「学術活動の世俗的利害化」という体育学の限界が顕在化したと述べ、運動が人間の自然な活動欲求に合わなくなり、純粋学術活動としての体育学研究の評価が低下した点を問題視した。
この限界を超えるには、スポーツの新たな科学的パラダイム「科学知を生活知にトランスする知的行為」の構築が必要となる。最後に、体育学の限界を背景に、インターディシプリンでなく、マルチディシプリンでもない、トランスディシプリンを目指す活動にスポートロジーの課題と可能性が認められると結んだ。
■久保田競先生講演要旨
「ランニングと脳」
久保田氏にはランニングが脳に与える影響についてご講演をいただいた。まず「ランニングがヒトの脳を作った」という大胆な仮説を提唱された。前頭葉のブロドマン10野はヒトだけに発達した大脳皮質である。この10野は途中で割り込んできた仕事をこなしてから元の仕事に戻る「枝分かれ課題」に使われている。ランニングは「枝分かれ課題」の成績を向上させる。「運動練習で脳の灰白質が増える」という最近の報告をあわせると、ランニングによってブロドマン10野を大きくすることすら可能ではないかと思われた。久保田氏はさらに、「インスリンやグレリンが脳機能を修飾する」という大変興味深い知見を紹介された。スポーツを通じてインスリンやグレリンの反応が変われば、脳も変わる可能性もある。「スポーツがなぜ脳に良いのか」、という問いはスポートロジーの重要なテーマであると感じさせる、魅力と刺激に満ち溢れた講演であった。
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