講演1:大腸がん外科治療の最前線

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質疑応答

1.検査

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便潜血検査で大腸がんが見逃される確率はどれくらいですか。
便潜血陽性の中で,二次検診(注腸検査,内視鏡検査)を行った症例の約3%に大腸がんが見つかります.一方,大腸がんがあっても便潜血反応で陽性を示さない場合(偽陽性)は,約30%と言われています.便潜血反応検査を毎年受けていると,大腸がんに罹って死亡するリスクを約60-70%減少させると推計されています.
血液検査では、がんについてどんな情報が得られますか。
腫瘍ができると健康なときにはほとんど見られない特殊な物質が腫瘍からつくられ、血液中に出現してきます.この物質を「腫瘍マーカー」といいます.腫瘍マーカーの値が基準以上を示したときには,がんがあることが推測されることがありますが,腫瘍マーカーが陽性だからといって必ず癌があるわけではなく,炎症や喫煙によっても上昇します.大腸がんの補助的な診断に用いられ,大腸がんに関連しやすい腫瘍マーカーにはCEAとCA19-9があり,陽性率はCEAが25-70%,CA19-9が10-50%です.また,大腸がんでは腫瘍からの出血により貧血を認めることがあり,血液検査で貧血を指摘され,大腸がんが見つかることもあります.
年1回内視鏡検査をすれば、がんは早く発見されますか。
1年に1回内視鏡検査をすれば,がんが早く発見される可能性は高いと考えられます.しかし,がんがどのくらいの早さで発育するのかについて十分にわかっていません.また,大腸がんで手術を受けた患者さんが,術後にどのくらいの間隔で内視鏡検査を行ったらよいかについても,報告によって1-5年の開きがあります.大腸がん治療ガイトラインでは,術後1-2年の間隔を推奨しています.
内視鏡の検査はカプセルの内視鏡ではできないのでしょうか。
現在では,小腸に対するカプセル内視鏡検査が行われており,保険診療が適応されるのは,貧血などで原因不明の小腸出血が疑われる場合となります.カプセル内視鏡は1秒間に2枚ずつ写真撮影を行うカメラを内蔵し,食道・胃・大腸などの消化管の写真を撮影できます.しかし,小腸以外の臓器内部は全方向の撮影ができないため、現段階では診断には応用できません.しかし,今後の技術の進歩によって、将来的にはカプセル内視鏡で大腸や胃の検査が可能になるでしょう.
ポリープを切除した翌年も検査をする必要がありますか。また、ポリープ切除後はどれくらいの頻度で検査を受ければ良いのですか。
ポリープを取った場合には,翌年に内視鏡検査を行うのがよいと思います.内視鏡検査の間隔に関して規定されているものはありませんが,1-2年の間隔がよいと考えます.また,内視鏡検査の結果によっても検査の間隔が違ってくる場合がありますので,担当医と相談して下さい.

2.病態

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なぜ、大腸がんの死亡率は他のがんに比べて低いのですか。
大腸がんの罹患数は,死亡数の約2倍であり,これは大腸がんの生存率が比較的高いことを示しています.また,早期癌はほぼ100%治り,膵がんや肺がんなどに比べるとたちのいい癌と言えます.大腸がんの生物学的特性とともに早期発見・治療が重要となってきます.大腸がんの検診である便潜血反応検査の普及と内視鏡検査技術・診断の向上が挙げられます.
痔やポリープが"がん化"することはありますか。また、確率はどれくらいですか。
痔は良性の疾患といわれており,痔が悪化して悪性腫瘍になることはまずありません.しかし,10年以上治療をしないで放置されている痔瘻では,まれにがん化するものがあります.痔瘻の部位が硬くしこりのようになったり,分泌物が変化した場合には専門医を受診して下さい.
 大腸にできるポリープはがん化することがありますが,大腸ポリープの全てが がんになるわけではありません.小さなポリープはがんにならずにそのまま変化がないことがほとんどですが,2cm以上の大きさの大腸ポリープでは、半分はがん化しているといわれています.大腸のポリープには,腺腫,過形成ポリープ,炎症性ポリープがあります.この中で,がん化する可能性のあるポリープは,腺腫です.また,大腸粘膜の広い範囲にわたって100個以上のポリープの見られるものを、ポリポーシスといいます.ポリポーシスの場合は放置すると,殆ど100%癌化します.特にポリポーシスには遺伝的要素が強いため,発見された場合には本人だけではなく,家族も専門医に相談することをお勧めします.
大腸がんから骨に転移することは多いのですか。
大腸がんの骨転移は、大腸がん転移の1~2%の頻度で、全体からみれば転移頻度の少ない臓器です.大腸がんが骨に転移すると,徐々に骨が溶けて破壊され、崩れて周りの組織を圧迫します.その結果,しびれや麻痺,痛みなどの症状が出現します.また、転移した骨は骨折しやすく、骨折をきっかけに転移が見つかることもあります.
直腸がんの再発について、説明をお願いします。
直腸がんの初発再発部位とその再発率は,①局所8.8%,②肺7.5%,③肝7.3%,④吻合部0.8%となっています(大腸がん治療ガイドラインの資料より).直腸の存在している骨盤内の局所再発が多く,次に肺・肝転移に注意する必要があります.
外科的治療をするとがん細胞が体内にちらばり、その結果転移することはないのですか。(手術によってがん細胞をばらまくことにはなりませんか)
手術直後には少量の癌細胞が血液の中に認められることがあります.しかし,これらの微小な細胞が血管壁を超えて転移巣を作ることは容易なことではなく,数日後には血液中からも消失します.外科医は,お腹の中や血管の中に癌細胞をばらまかないように手術操作に心がけています.また,手術侵襲に伴う免疫能の低下は,腫瘍の転移を制御する力も低下させるため,できるだけ体に負担のかからない低侵襲な手術を行うことも重要です.
リンパ管は全身にはりめぐらされて、リンパ液が体内をめぐっているのに、リンパ節を部分的に除去する意味を教えてください。
腫瘍にも細かいリンパ管があり腫瘍近傍のリンパ節,しいては体全体のリンパ節に繋がっています.大腸がんでは進行癌になると約20%以上に腫瘍近傍のリンパ節に癌の転移を認めます.従って,手術の時に,腫瘍に関連する範囲のリンパ節(所属リンパ節)を一緒に切除して,リンパ節の転移がさらに遠隔のリンパ節に癌が広がらないようにしています.

3.症状

大腸がんの場合、自覚的な初期症状はどういうもの(こと)ですか。
早期癌では,症状はほとんどありません.しかし,進行癌になると出血や便通異常の症状が現れてきますが,大腸の右側に発生する癌と左側(肛門に近い大腸)に発生する場合では,違ってきます.左側大腸癌では,肛門に近いため出血・下血の症状や,便の通過障害による腹痛や便秘などの便通異常は初発症状として現れることが多いです.

4.治療

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手術・化学療法・放射線療法に何を期待していますか。
大腸癌に治療法には,大きく手術療法,化学療法,放射線療法があります.大腸癌の病巣および周囲のリンパ節を取り除く方法として,現在,手術治療が第1選択となる場合が多いといえます.しかし,大腸癌の状況によっては,化学療法や放射線療法を組み合わせたり,その治療の順序を決める必要があります.個々の大腸癌の状態に合わせて,各治療方法の利点を十分に生かすようにすることが重要と考えます.いすれの治療法も以前に比べると進歩してきていますが,さらに体に侵襲が少なく有効性が高いものになることを期待し,努力していきたいと思います.
NK細胞治療についてどのように考えたら良いでしょうか。抗がん治療と併用してNK細胞治療をする価値があるのでしょうか。
免疫療法は,体内の免疫力を高めることにより癌を治療するもので,外科療法,化学療法,放射線療法に次ぐ治療法として最近注目されています.免疫療法にもいろいろありますが,NK細胞を体内から分離し,培養した後に体内にもどす治療がNK細胞療法です.
NK細胞はリンパ球に含まれる免疫細胞の一つで,生まれつき外敵を殺傷する能力を備えているため「ナチュラルキラー(NK)細胞」と呼ばれ,癌細胞やウイルス感染細胞などの異常細胞を発見すると,真っ先に単独で攻撃する細胞です.抗癌剤との併用は可能です.しかし,比較試験などの臨床成績が十分に得られていないため,2009年の大腸癌治療ガイドラインでは,免疫療法に関する記載はありませんでした.
大腸がん+肝転移の治療戦略を教えて下さい。
肝転移は,大腸がんで最も高頻度にみられる転移形式です.同時性に10%,異時性に15%,合わせて約25%の肝転移が大腸がんに合併します.大腸がんの転移が肝に限局し,切除可能な場合には手術治療が効果の高い治療となります.但し,手術を行うと十分な残肝の機能を残せない場合や,肝臓以外の臓器に転移がみられる場合には,化学療法を中心とした集学的治療を行います.肝臓に対する局所療法には,肝動注療法(肝動脈から抗がん剤を肝に注入する)や熱凝固療法などがあります.

講演2:悪性腫瘍に対する低侵襲治療

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質疑応答

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リスクの面から患者や家族にどのようなアドバイスを行っていますか。
血管内治療を代表とする低侵襲治療の多くは、まだ一般の病院で普及しているわけではありません。従って、このような治療を行う目的や得られる効果、合併症の頻度と程度についてご説明してから治療を行っています。さらにこの治療を行わない場合の選択肢についてもご説明しています。(桑鶴)
放射線治療を一度したのですが、局所内に再発した場合も放射線治療はできますか。
放射線治療は病気の周辺の正常な臓器や組織が耐えられるぎりぎりの量の放射線を照射しています。医療では安全を重視しますので、時間が経過しても一度目の治療で受けた正常な臓器や組織のダメージは残っていると考えます。したがって、もう一度同じ場所を治療すると正常な組織や臓器が放射線に耐えられる限界を越えてしまい、重い副作用がでる可能性が出てきます。このため、同一の部位では放射線治療を2回行うことは原則としていたしません。1回目の放射線治療の線量が少ない場合などで2回目の治療が行えることもあります。(笹井)
低侵襲治療において「このような医療機器が実用可能となれば、劇的に手術・治療が改善するのに」と思うような(期待する)機器はありますか。
医療機器に関してはかなり進歩しており満足していますが、治療前に撮影した画像が治療中にもっと良く見えるようになると、治療が行いやすくなります。また、器具では細くて見やすい血管内視鏡が開発されると役立つと思います。さらに外国では使用できる材料が本邦では未承認で使用できないということが今後の課題だと思います。(桑鶴)
今までに治療した患者で印象に残った症例についてお聞かせ下さい。
低侵襲で最大の効果を発揮することを目的にしていますので、がんによる病的骨折を骨セメント投与により治療して、寝たきりの患者さんが翌日には歩行できたことや、狭くなった血管内にステントと呼ばれる筒を留置して血管を拡張することによってむくみがなくなった患者さんなど多くの患者さんが印象に残っています。(桑鶴)
看護師サイドに要望することやコメントがあればお聞かせ下さい。
IVR学会認定IVR看護師制度が確立されており、来年第3回認定試験が行われます。IVRに果たす看護師の皆さんの役割は非常に大きく、特に患者さんの質問や不安の解消に役立っています。院内でのIVRの普及活動や術前術後の看護を積極的に施行していただきたいと思っています。(桑鶴)