低侵襲医療の取り組み(Minimally invasive surgery)

大きな創で行われていた開腹手術も、最近では小さな開腹創による手術や腹腔鏡による手術に変わってきています。また、大腸疾患の診断に用いられていた大腸内視鏡検査も、治療の一端を担いその適応範囲も広がりつつあります。当科で大腸疾患に対して行う手術治療は、組織あるいは臓器の切除を目的に行う手術が多くを占めますが、そのアプローチ法から切除、縫合、創部の閉鎖に至るまで、より患者さんのからだにやさしい手術を目指して取り組んでいます。とくに、腹腔鏡を用いた手術(腹腔鏡手術)は、腹壁の侵襲(開腹創)を極力少なくして、腹腔内に到達し大腸の手術を行います。通常の開腹手術に比べ創が小さいため、手術後の疼痛も少なく、早期の回復、退院が可能です。
また、従来は手術が行われていた疾患の中には、大腸内視鏡切除により,手術による開腹創もなく、疼痛もなく治療を終了できるものもあります。当科の低侵襲治療は腹腔鏡手術と内視鏡切除が主ですが,腹腔鏡手術は1993年から取り入れ,その症例数も徐々に増加しています。昨年(2010年)は腹腔鏡手術と内視鏡切除を合わせたものを低侵襲治療とした場合,大腸がん治療の72%を低侵襲治療で行っています。

大腸悪性疾患 治療症例数の推移

腹腔鏡下大腸切除術(Laparoscopic Surgery)

腹腔鏡下大腸切除術は、1991年に世界で最初の症例が報告されました。本邦では1993年に報告され,その後手術器械の開発や手術手技の向上に伴い普及してきました。当院では、1993年からこの手技を導入し、現在までに約600例の患者さんに行ってきました。鏡視下手術は、導入当初に比べると目覚しい手術器具の改善や手術技術の進歩が見られ、手術を受ける患者さんも年々増加し、昨年は約109例の手術を行いました。また、当初は良性疾患や早期の大腸がんが中心でしたが、進行がんや直腸がんの患者さんに対しても行っています。大腸癌研究会のプロジェクト研究会で2008年2月からスタートした、『直腸がんに対する腹腔鏡手術』の臨床試験にも参加しています。この研究は,「腹腔鏡下大腸切除研究会」参加施設で腹腔鏡下直腸がん手術30例以上の経験者が手術を行い、直腸がんに対する腹腔鏡下手術の安全性と有用性を明らかにすることを目的とした試験です。
患者さんにとって、傷が小さい、回復が早い、痛みが少ないというメリットが最大限生かされる、安全な手術になるように取り組んでいます。

腹腔鏡下大腸切除術
  • 当科では、大腸がん全体で年間約200例の手術を行っており、その中で腹腔鏡を用いた手術は、年々増加し、昨年は134例の患者さんに手術を行いました。
  • また、大腸がん以外にも、症例によっては腹腔鏡を用いて治療を行うこともあります。
  • 症例によって一様ではありませんが、腹腔鏡下大腸切除術を受けた患者さんの術後在院期間は7~9日となっており、通常の開腹手術よりも早期の退院が可能です。
  • 大腸がんにはさまざまなステージ(病期)のものがあり、それに対して最適な治療法を選択する必要があります。私たち大腸・肛門外科での腹腔鏡下手術の適応は、以下のようになっております。

    腹腔鏡下大腸切除術の手術適応

    占居部位 盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸・直腸S状部(RS)・
    上部直腸(Ra)、下部直腸(Rb)・虫垂・肛門管
    深達度 SS(漿膜下層),SE(漿膜表面の露出)までのもの
  • 従来の開腹手術では、大きく腹部に皮膚切開を行っておりました。それと比較して、腹腔鏡下手術では小さな(5~10mm程度)筒と切除する腸管を取り出す小開腹創で手術を行うため、美容上も優れ、社会復帰も早いものとなります。

グラフ:大腸癌手術症例数の推移
図:占居部位別 腹腔鏡下大腸切除術 症例数

ロボット支援下大腸手術(Robot-assisted surgery)

 da Vinciシステムによるロボット支援下手術はアメリカで開発された手術で腹腔鏡下手術の欠点を克服した多関節のアーム(鉗子)と、立体視・拡大視効果でより安全で緻密な手術が可能な手術です。現在日本では泌尿器科領域のみの保険収載となっていますが、欧米では消化器外科領域で多く利用されており、本邦においてもda Vinciシステムを使用した消化器外科領域の手術が導入され拡がりつつあります。当科でも臨床研究としてda Vinciシステムによる手術を2015年5月から症例を選定し導入しており、より緻密で機能温存を目指した手術に取り組んでおります。

ロボット支援下大腸手術

大腸内視鏡検査と内視鏡治療(Endoscopic therapy)

大腸内視鏡検査は、残念ながら「つらい検査」であるという認識が持たれています。実際、少なからず苦痛を伴う検査ではありますが、大腸がんが増えているわが国の現状では、避けて通れない検査のひとつです。つらい検査になるか、ならないかについては、大腸の長さや走行には個人差があるため、検査を受けてみなければわかりません。しかし、定期的に検査を受けていただく必要がありますので、初めて受けた大腸内視鏡検査がつらくて、「2度と受けない!」と思わせてしまうことは本意ではありません。できれば、思ったより苦痛がなく、「これだったら、また次も受けてみても良い。」と感じていただく必要があります。そのためには、内視鏡の技術を磨くことはもちろんですが、技術だけでは、どうしてもカバーできない場合があります。そこで、少しだけ「薬の力」を借りて、苦痛を軽減するようにしています。この薬の力で苦痛を軽減することを、セデーションと呼んでいます。
セデーションは麻酔ではありませんので、まったく苦痛が無いということではありませんが、眠っている間に検査が終わってしまう場合がほとんどです。当科では、原則としてセデーションを併用した大腸内視鏡検査を行っています。検査後は、約1時間、安静室で休んでいただいた後に、セデーションの影響が残っていないかを確認してから、お帰りになっていただいております。

EMR

現在、大腸内視鏡検査は年間1400~1500例の検査を行っています。さらに、年間 約300例(約800病変)の大腸ポリープ切除などの内視鏡的処置を行い、約45例の大腸がんを含みます。
当科での内視鏡的治療の中心はEMR(内視鏡的粘膜切除術:Endoscopic Mucosal Resection)と呼ばれる手技で、現在我が国で広く行われている内視鏡的治療のひとつです。

ESD

また、大きな腫瘍を一括で切除するESD(内視鏡的粘膜下層剥離術:Endoscopic Submucosal Dissection)という治療法も取り入れています。

大腸の壁は薄く、大腸のESDは難易度が高く穿孔する危険性があるとされています。現在まで穿孔による腹膜炎で手術した例はありませんが、これからも細心の注意を払って行いたいと思います。外科で行う治療なので、もし、穿孔などの偶発症が生じてしまった場合も迅速に対応することが可能です。

切らずに治す痔の治療

日本人の約3人にひとりは痔があると言われています。痔の症状は、はじめは排便時に軽度の出血や痛みを伴いますが、入浴でおしりの血行を良くして、排便時に力まないなどの工夫に加えて、坐剤や軟膏を使うことである程度良くなります。しかし、ひどくなると痔が肛門の外に脱出してくるようになり、日常生活に支障をきたすようになります。この場合、手術を含めた治療が必要になることがありますが、痔は良性の疾患であるため、できれば切らずに治したいと思うのは当然です。そこで、当科では症状に応じて、内痔核の日帰り治療として、内視鏡的内痔核治療を行っています。
内視鏡で行う内痔核治療には,内痔核に硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸を注射する治療(ALTA療法)と,内痔核の根元をゴム輪で結紮する内視鏡的内痔核結紮術があります.現在はALTA療法を主に行っています.この注射療法は、特に脱出する痔に有効とされています。当科でも2006年4月から、内痔核の日帰り治療として、この硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸による注射療法を開始しております。 この治療は、治療効果がすぐに現れ、注射した翌日には脱出はみられなくなることが特徴です。

注射

内視鏡的内痔核結紮術は、内視鏡の先端に食道静脈瘤の結紮用のゴム輪を装着し、透明フード内に内痔核を引き込み、内痔核の根元をゴム輪で結紮します。結紮された内痔核は、数日後に脱落します。

ゴム輪結紮による内痔核の結紮療法は従来から行われている手技ですが、内視鏡を用いることにより、内痔核を内側(直腸側)からと外側(肛門側)から治療ができる利点があります。主に直腸内で内視鏡スコープを反転して結紮を行うため(図a,b,c)、痛みはなく、原則的に麻酔は行いません。

ゴム輪
(図a,b,c,d)

内視鏡的内痔核結紮術の主な合併症には肛門痛と出血がありますが、いずれも、数日で軽快しています。
内視鏡的内痔核結紮術の治療効果は、約9割の症例に効果が認められ、外来での治療としては有効な手技と考えています。

硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸による注射療法,内視鏡的内痔核結紮術は、すべての内痔核に行える治療ではありませんが、症状に応じて、適切な治療法を選択しますので、お気軽にご相談ください。