顔面神経麻痺は様々な原因で生じ、Bell 麻痺やRamsey-Hunt症候群といわれるヘルペスや水痘などのウイルスが原因で生じるものから、脳腫瘍の手術の後に生じるもの、外傷の後に生じるものなどがあります。
ウイルスが原因で生じるものは薬の治療で治癒するものが殆どですが、脳腫瘍などの手術後に生じるものは難治であるものも多く、薬の治療をしても完全に治らなかったり、異常な動きが出るようになったりする場合があり、それらの症状に応じた治療が必要になります。
 
外科的再建手術には大きく見た目の改善をはかる静的再建術と笑いなど動きのある表情を再建する動的再建術があります。麻痺の残っている部位や程度によって色々な手術方法があり、症状や麻痺からの時期に合わせて術式を選択していきます。

顔面神経麻痺静的再建術

筋膜などを移植して、その筋膜で変形を矯正するように牽引する手術になります。 侵襲が比較的少なく、結果がすぐに得られる特徴がありますが、表情は作れません。 麻痺の治りにくい眉毛部及び下口唇部の手術として行われる頻度が高いです。

顔面神経麻痺静的再建術林礼人:顔面神経麻痺の原因と治療法. アトラス形成外科手術手技, 2011より

部位別顔面神経麻痺手術

眉毛の麻痺

眉毛をつり上げる静的再建術(眉毛挙上術)になります。眉毛の麻痺はなかなか治らず、上まぶたも下垂して視野の制限にもなるため、もっとも行われる術式です。皮膚を切除してつり上げる方法が一般的ですが、特殊な糸や筋膜を使用して行う場合もあります。

まぶたの麻痺

眼を閉じる眼輪筋という筋肉が麻痺してしまうため、眼が閉じられなくなり(兎眼)、眼球が乾燥して、眼の炎症を生じたり、潰瘍を生じたりするため、早めの手術が必要になります。

上眼瞼(うわまぶた)

眼を閉じやすくする為、軟骨を移植して眼瞼挙筋を延長する手術を中心に行っています。側頭筋膜を移行する方法もあります。

下眼瞼(したまぶた)

下眼瞼の変形の修正術はとても大事な要素で、下まぶたを持ち上げる様な手術を行います。筋膜や軟骨の移植を行って修正をする方法を良く行っています。

口の麻痺

口が曲がった形になるので見た目に与える影響も大きく、顔の表情に大きな変化を生じます。再建にはある程度大がかりな手術が必要になりますが、普通にしているときの見た目を再建する静的再建には、皮膚切除を行ったり筋膜での吊り上げなどを行うことが多いです。

顔面神経麻痺動的再建術(笑いの再建)

「笑いの再建」は人間の社会生活を営む上で非常に重要な機能再建といえます。 人への感情の伝達やコミュニケーションにとって"笑顔"は世界の共通言語です。 その"笑い"を再建する為には、神経移植を行って元々存在する顔面表情筋を動かす方法と笑いを再建する筋肉を他の部位から移植する方法の大きく2つの方法があります。笑うという動きを再建出来る術式なので動的再建術と言われます。

顔面神経麻痺動的再建術(笑いの再建)01林礼人:顔面神経麻痺の原因と治療法. アトラス形成外科手術手技, 2011より
麻痺からの期間や状況、症状によって様々な再建方法のなかから最も良いと思われるものを選択していきます。神経移植に伴うものは、手術後実際に再生してくるまでに半年以上の時間が必要になります。

神経移植術

よだれをつくる耳下腺の癌で顔面神経を切除する場合には、欠損部に神経を移植して、再建を行います。移植する神経は下肢から採取を行います。

交叉神経移植術(Cross face nerve graft)

麻痺の無い正常な顔の神経と麻痺している神経を神経移植でつなぐ方法です。原理的にはもっとも理想的な手術法ですが、再生するのに時間がかかり、再生神経の数も少ないので、得られる動きもそれ程強くないのが現状です。効果が得られるのに手術をしてから1年くらいはかかります。

神経移行術

顔の筋肉を動かすのに顔面神経以外の神経を移行して再生を得るようにする方法です。良い結果を得るには麻痺後1年以内(出来れば半年以内)に手術を行うことが必要です。舌を動かす舌下神経や物を咬む咬筋を支配する咬筋神経を移行することが一般的です。顔面神経が自然回復する可能性を残した方法や不全麻痺への方法など様々な状況に応じた方法が使用される様になってきています。

当科では舌下神経の損傷を最小限にする様に舌下神経を縦に二分割して移行する手法を考案しました。
顔面神経麻痺動的再建術(笑いの再建)02Hayashi A, Nishida M, Seno H, Yanai A et al : Hemihypoglossal nerve transfer for acute facial paralysis. J of Neurosurg. 118(1): 160-166, 2013より

遊離筋肉移植術

顔面神経麻痺の発症から時間が経ち表情筋が萎縮してしまった場合には、他から顔を動かす筋肉を移植して、その筋肉を動かす神経を反対の顔面の神経と吻合することで、笑いの再建を行うことが出来ます。背中の広背筋や大腿の薄筋などが移植筋肉として一般的に使用されます。

側頭筋移行術(Temporal myoplasty)

側頭筋全体を前下方に前進させ鼻唇溝部に移行することで、笑いの再建を行います。側頭筋の筋膜が非常に強靱で、側頭筋の収縮が確実である為、他の術式と異なり術後早期から形態の改善のみられる術式です。動きも確実にみられ、頬部の膨隆も生じ無いなど、様々な利点を有します。

神経移植を併用することで、反対の顔面と同期した笑いの再建を行うことも可能となっています。
顔面神経麻痺動的再建術(笑いの再建)03Hayashi A, Labbé D, et al: Experience and Anatomical Study of Modified Lengthening Temporalis Myoplasty for Established Facial Paralysis J Plast Reconstr Aesthet Surg. . 68(1):63-70, 2015 より

顔面神経麻痺後のリハビリ

マッサージやリハビリを行うにあたってとても大切なことは、顔面神経麻痺のリハビリは筋力を強化する目的で行うのではなく、顔面の不自然な動き(病的共同運動)やひきつれ(顔面拘縮)といった後遺症を予防する目的で行うということで、他の麻痺のリハビリと異なります。ですので、焦らずじっくり行うことが重要で、やり過ぎや低周波刺激などの電気刺激はかえって顔面のひきつれを助長する為禁忌です。
麻痺が生じてから顔の動きが出てくるまでは、筋肉が縮まない様に1日に2回(1回10分程度)筋肉をその方向に伸ばしてあげることや蒸しタオルなどで顔を温めてあげることを行ない、眼を力一杯閉じるなどの強力で粗大な随意運動は行わず、小さくゆっくりとした運動を心がける様にします。

顔面の動きが少し出てきたら、まぶたと口が一緒に動いてしまう病的共同運動を生じない様に、まぶたと口を独立して動かす様に努力することがとても重要になってきます。顔の動きが出てくると早く治りたいという思いから、つい一生懸命になりがちですが、やり過ぎは禁物で、ゆっくりと軽く動かす気持ちで1日2-3回(1回10分程度)焦らずじっくり行っていきましょう。

マッサージメニュー

  1. 顔面表情筋のマッサージ
    (筋肉が萎縮しない様にゆっくりと表情筋の方向に)
  2. 目を大きく開ける練習
  3. 蒸しタオルなどによる温熱療法
  4. 動き始めたら鏡を見ながら目や口を独立して動かす
    (ミラーフィードバック)
  5. 小さくゆっくりとした運動を心がける
    (強力で粗大な運動、低周波刺激などは止めましょう)
マッサージメニュー

顔面神経麻痺の後遺症(病的共同運動・顔面拘縮)や不全麻痺の治療

病的共同運動は、口と眼を動かす神経が混線した状態になっている為、その状態をリセットしてもう一度正しく分布させることが必要です。そこで、ボツリヌス毒素で人工的に麻痺をもう一度生じさせたり、手術で混線の元になっている表情筋を切除したりした上で、表情筋を再教育するためのリハビリを行います。顔面拘縮は表情筋が短縮して固まった様な状態であるため、短縮した筋肉を伸ばすような筋伸張マッサージが重要で、短縮を解除するためにボツリヌス毒素を使用することもあります。
これらの後遺症や不全麻痺への治療は非常に困難とされてきましたが、近年手術も含め様々な工夫が行われ、良好な治療結果が得られる様になってきています。

病的共同運動

ある表情をすると意図しない表情筋まで不随意に収縮してしまう現象で、口を開けると目を閉じてしまうといった形で口輪筋と眼輪筋の間に生じることが多くあります。

顔面拘縮

顔面神経麻痺後に生じる後遺症で、顔の表情筋が常に緊張した状態になって、顔の引きつれを生じる現象です。

ボツリヌス毒素

筋肉が収縮するの必要な神経筋接合部からのアセチルコリン放出を抑えて筋肉の収縮を抑制します。筋肉の異常な収縮が抑制出来る為、顔面神経麻痺の後遺症の治療に用いられます。効果の持続期間は2-5ヶ月程度で、繰り返し投与する必要がありますが、中和抗体が生じて効きにくくなる場合があり、専門的な施設での使用が必要です。