systemic sclerosis, SSc

疾患概念・病態

全身性強皮症(SSc)は皮膚および各種臓器の線維化と血管内皮細胞増生による血流循環障害を特徴とする疾患である。硬化の程度や進行の経過は個々の患者により多様であり、この観点から強皮症は大きく2つに分類される。つまり、典型的な症状を示す「びまん皮膚硬化(diffuse)型全身性強皮症」と「限局皮膚硬化(limited)型全身性強皮症」である。前者の皮膚硬化は全身におよび、発症より5~6年以内は進行することが多く、自己抗体として抗Scl-70抗体(抗トポイソメラーゼI抗体)や抗RNAポリメラーゼⅢ抗体が検出される場合に多い。後者は皮膚硬化の範囲が手指に限局することが多く、進行性はほとんどないか緩徐で、自己抗体として抗セントロメア抗体や抗U1-RNP抗体が検出される場合に多い(表1)。なお、「限局性強皮症(Morphea, モルフェア)」は皮膚の特定部位のみに硬化が起こる別の病気であり、前述の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」とは異なるものである。

病因は未だに不明であるが、次の3つの病態が関与していることが知られている。(1)線維芽細胞の活性化(その結果、膠原線維が多量に産生され、皮膚や内臓の硬化が生じる)、(2)血管障害(その結果、レイノー症状や指尖部の潰瘍などが生じる)、(3)免疫異常(その結果、自己抗体が産生される)。
病理像の特徴としては、病期初期には真皮層に浮腫性変化が観察され(浮腫期)、進行すると、真皮層の膠原繊維束が太くなり緊密化する硬化局面を形成(硬化期)し、硬化局面が拡大進行していく場合と、一旦硬化した局面が菲薄化し、萎縮してくる場合(萎縮期)がある。

疫学

本邦での全身性強皮症患者は2万人以上いると予測されている。
男女比は1:12であり、30~50歳代の女性に好発する。レイノー症状があっても、皮膚硬化が軽度の全身性強皮症を含めると患者数は数倍以上になるものと推定される。

診断・鑑別診断

これまでは1980年の米国リウマチ学会の分類基準が広く用いられていた(表2)。2013年に改訂され、各項目のポイントの合計点による分類基準が提唱されている(表3)。わが国では2003年の厚生労働省研究班の診断基準がある(表4)。

臨床症状

  1. レイノー症状(98%)(写真1
    寒冷刺激で手指が蒼白~紫色になる症状で、初発症状として最も多い。
  2. 皮膚硬化(100%)
    手指腫脹からはじまり、手背、前腕、上腕、躯幹と体の中心部分に進む。全例で皮膚硬化が躯幹まで進行するわけではなく、diffuse型では時に躯幹まで硬化が進行するが、limited型では躯幹までの硬化はまれである。
  3. その他の皮膚症状
    毛細血管拡張(64%)、色素沈着(56%)、色素脱失(27%)、皮膚の石灰沈着(25%)、爪上皮(爪のあま皮)の黒色出血点、指尖部虫、喰状瘢痕、指尖部潰瘍などがみられる。
  4. 逆流性食道炎(58%)
    食道下部の硬化を生じ、食道蠕動低下によって生じる。
  5. 肺線維症(55%)
    最も重要な臓器合併症である。悪化により空咳や呼吸困難が生じ、酸素吸入を必要とすることもある。diffuse型で比較的多く見られる。
  6. 口腔症状
    舌小帯短縮,肥厚(44%)、開口障害(26%)がみられる。
  7. 強皮症腎クリーゼ(5%)
    腎血管の障害により、その結果腎血管性高血圧が生じ、時に急激な経過で腎不全に至る。また血清学的にMPO-ANCAが陽性の際は、急激に腎機能の悪化を招くことがあり、非高血圧性腎クリーゼと呼ばれる。
  8. その他の症状
    手指の屈曲拘縮(37%)、関節炎(29%)、心電図異常(23%)、ミオパチー(19%)、吸収不良(8%)、肺高血圧症(5%)、心外膜炎(3%)、偽性イレウス(3%)、便秘、下痢、右心不全などが起こることがある。

検査所見

  1. 抗核抗体
    抗核抗体は大多数の例で陽性となる。抗Scl-70抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体が疾患特異抗体であり、前述した臨床的病型と密接に相関する。これらの抗核抗体は、症状に先立って出現し、1人の患者では通常1種類の抗体のみ陽性になる。また経過中に陰性化したり、他の抗体が新たに出現したりすることは少ないため、出現する症状や予後の予測に有用である。一方、力価が変動することも少ないため、疾患活動性の指標とはならない。
  2. その他の血液検査
    KL-6やSP-Dは間質性肺炎の、BNP、NT pro-BNPは肺高血圧のスクリーニングに有用である。
  3. キャピラロスコピー(毛細血管顕微鏡)
    より早期に診断・治療する目的で、爪郭部の毛細血管に特徴的な形態学的異常を観察する。また血管障害の重症度や活動性の評価にも有用である。
  4. 胸部X線・CT、呼吸機能検査、心臓超音波検査
    間質性肺炎や肺高血圧症のスクリーニングや評価に有用である。胸部X線・CTでは下肺野の間質性変化、呼吸機能検査では拘束性障害と拡散能の低下を認める。
  5. 食道造影
    抗コリン薬を用いない食道造影で造影剤の停滞がみられる。
  6. スキンスコア(TSS: modified Rodnan total skin thickness score) (表5
    母指と示指の指先で小さくつまんだ感じ(small pinch)と、末節指腹で大きくつまみ上げた感じ(large pinch)を、0-3点、17カ所で採点(最大51点)する。
    手指はPIPとMCP関節の間をつまむ。一つの部位で硬化に違いがある場合は最大のスコアを採用する。採点17カ所は、手指、手背、前腕、上腕、大腿、下腿、足背(ここまで左右)と顔、前胸部、腹部である。
    全身性強皮症診療ガイドラインによる皮膚硬化における重症度分類を表6に示す。

治療

それぞれの臨床症状・病態に対して以下の治療が用いられる。
 
  1. 血管病変(末梢循環障害)に対する疾患修飾薬
    強皮症の血管病変進行の阻止と、血管のリモデリングを指向してエンドセリン受容体拮抗薬、プロスタグランジン製剤、Ca(カルシウム)拮抗薬、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、抗酸化薬としてニコチン酸トコフェロール、抗血小板薬が用いられる。
  2. 線維化病変に対する疾患修飾薬とその適応
    線維化病変の進行を阻止する目的で、種々の治療が試みられている。しかし、現在のところ効果的な確立された治療法はない。線維化病変は不可逆的であるので早期の治療がポイントとなる。適応となるタイミングの目安としては、diffuse型で発症から3年以内、diffuse型で皮膚硬化が進行性(数か月から1年以内に範囲、程度の進行あり)、活動性の肺線維症を認め、肺機能が保たれている場合(%VC>60%)などである。ステロイドやシクロホスファミド、タクロリムス、メトトレキサート、シクロスポリンAなどが用いられる。
  3. その他の多彩な臓器病変に対して
    手指潰瘍、壊死に対して、PGE1、リポPGE1、ベラプロスト、ボセンタン、ニフェジピン徐放剤などが用いられる。また逆流性食道炎や食道潰瘍の上部消化管障害に対しては、プロトンポンプ阻書薬、ヒスタミンH2拮抗薬、モサプリド、ドンペリドンなどが用いられ、下痢、イレウス、吸収不良症候群などの下部消化管障害に対しては、モサプリド、ジメチコン、六君子湯などが用いられる。肺血管性肺高血圧症に対しては、PDE5阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、エンドセリン受容体拮抗薬、プロスタグランジン製剤が用いられる。強皮症腎に対して、ACE阻害薬あるいはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬が用いられ、皮下および異所性石灰化に対しては、ジルチアゼム 、コルヒチン、エチドロン酸ニナトリウムが用いられる。またそう痒感、乾燥症状などの皮膚症状に対して、白色グリセリン外用などが用いられる。

予後

  • 皮膚症状主体で臓器病変が進行しないかぎり予後は良好である。一般的には内臓病変の少ないlimited型の予後は良好とされているが、10年生存率は70%程度とされ、皮膚以外の臓器病変が進行する症例は比較的予後が悪い。
  • 生命予後を規定する重篇な病態・臓器病変として以下がある。
急性/亜急性に進行する間質性肺炎
肺高血圧症
強皮症腎による腎不全
MPO-ANCA関連血管炎の合併による腎不全
TMA(thrombotic microangiopathy:血栓性微小血管障害症)
心外膜の石灰化による心不全
心基液大量貯留による心タンポナーデ
重症不整脈
極度の末梢循環不全による四肢切断
消化管の偽性閉塞ないし吸収不全による低栄養
  • 明確な有効性のエビデンスをもつ疾患修飾性薬物が存在しないため、ときとして治療抵抗性の症例もあり治療に難渋することもある、これらの進行を認めた場合は個々の病態に応じて速やかに何らかの治療により病状の進展を抑制する必要がある。

参考文献

近藤啓文:強皮症の病態と最新治療.北里医学 37:95-104, 2007.
竹原和彦:強皮症.綜合臨抹 56:667-672,2007.
桑名正隆:強皮症(全身性強皮症).Medical Practice 23:669-673, 2006
難病情報センターホームページhttp://www.nanbyou.or.jp/entry/236
高崎芳成:医薬ジャーナル 39:3244-3250, 2003
Clements P, Lachenbruch P, Siebold J, White B, Weiner S, Martin R, Weinstein A, Weisman M, Mayes M, Collier D. Inter and intraobserver variability of total skin thickness score (modified Rodnan TSS) in systemic sclerosis. J Rheumatol. 1995 22:1281-1285.

表1 全身性強皮症の病型


びまん皮膚硬化型:diffuse cutaneous(dcSSc) 限局皮膚硬化型:limited cutaneous(lcSSc)
皮膚硬化の範囲 全身の皮膚や臓器の線維化・硬化 肘、膝の遠位にとどまる(顔は硬くてもよい)
自己抗体の種類 抗トポイソメラーゼⅠ抗体(抗SCl-70抗体) 抗セントロメア抗体

抗RNAポリメラーゼⅢ抗体 抗U1-RNP抗体
皮膚硬化の進行 発症して1~2年 長期にわたり軽度の変化
全身症状 指の腫脹、関節痛、筋肉痛、疲労感などの症状とともに、消化管、肺線維症、心筋障害、腎障害などの内臓間質の線維化と循環不全を中心とした内臓病変を発症することが多い。 CREST症候群といわれるcalcinosis(皮下石灰沈着)、Raynaud現象、esophageal dysmotility(食道蠕動低下)、sclerodactylia(指の皮膚硬化)、teleangiectasis(毛細血管拡張)などの病像を示すことが多い。
関節の拘縮 頻度が高い 少ない
おもな死因 肺線維症、心筋梗塞 肺高血圧症

表2 1980年米国リウマチ学会分類基準

大基準
中手指節関節か中足趾節関節より近位に及ぶ皮膚硬化の存在,
または
小基準
1)手指または足趾に限局する硬化(指端硬化症)
2)指尖の陥凹瘢痕か手指の萎縮
3)両側肺基底部の肺線維症
のうち,2つ以上を満たすものを強皮症とする.

表3 2013年分類基準(米国/欧州リウマチ学会)

項目 score
1 両手指のMCP関節より近位の皮膚硬化 9
2 手指の皮膚硬化:腫れぼったい指(2点)、PIPからMCPまでの皮膚硬化(4点)(高得点をカウント) 2または4
3 指尖部病変:指尖部潰瘍(2点)、指尖部陥凹瘢痕(3点)(高得点をカウント) 2または3
4 毛細血管拡張症 2
5 爪郭部の毛細血管異常 2
6 肺動脈性肺高血圧症、および/もしくは間質性肺疾患 2
7 レイノー現象 3
8 抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼI(Scl70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体 3
* 手指硬化のない場合、類似する疾患(腎性全身性線維症、全身性斑状強皮症、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、紅痛症、ポルフィリン症、硬化性苔癬、移植片対宿主病、糖尿病性手関節症など)には適応しない
* 合計9点以上で全身性硬化症と分類する
* 2013 classification criteria for systemic sclerosis: an american college of rheumatology/european league against rheumatism collaborative initiative. van den Hoogen F et al. Arthritis Rheum. 65:2737-47, 2013 / Ann Rheum Dis. 72:1747-55, 2013

表4 2003年 強皮症・診断基準(厚生労働省)

大基準
手指あるいは足趾を越える皮膚硬化*
小基準
1)手指あるいは足趾に限局する皮膚硬化
2)手指尖端の陥凹性瘢痕、あるいは指腹の萎縮**
3)両側性肺基底部の線維症
4)抗トポイソメラーゼI(Scl-70) 抗体または抗セントロメア抗体陽性
大基準、あるいは小基準1)及び2)~4)の1 項目以上を満たせば全身性強皮症と診断

* 限局性強皮症(いわゆるモルフェア)を除外する
** 手指の循環障害によるもので、外傷などによるものを除く

表5  二段階つまみ法による皮膚硬化スコア(modified Rodnan TSS)

スコア 皮膚硬化 小さく
つまみ上げる
大きく
つまみ上げる
大きくつまみ
上げた時の
皮膚の厚み
0 なし できる できる 厚くない
1 軽度 できる できる 厚い
2 中等度 できない できる さらに厚い
3 高度 できない できない -

表6  本邦における皮膚硬化における重症度分類(全身性強皮症診療ガイドライン) 


0(normal) 1(mild) 2(moderate) 3(severe) 4(very severe)
TSS= 0 1月9日 10月19日 20-29 30

写真1.レイノー現象

写真1.レイノー現象