poryarteritis nodosa

疾患概念・病態

従来、1866年にKussmanual 等により報告された結節性動脈炎の中に本疾患は包括されていたが、結節性動脈周囲炎は中・小型の両者の血管炎を含む概念であったため、後に結節性動脈周囲炎は、中血管炎が病変の主座である結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa)と小血管が病変の主座である顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis)に分離されて、現在ではそれぞれ独立した疾患概念として区別されている。Chapel Hill Consensus Conference (2012年 改訂) では、主に中型動脈に罹患する壊死性中血管炎(Medium Vessel Vasculitis, MVV)として定義されている。
特定のウイルス(B型肝炎ウイルスなど)や薬剤が発症に関連するとの報告もあるが、病因は現在も不明であり、顕微鏡的多発血管炎と異なり抗好中球細胞質抗体との関連性は無いとされている。

疫学

2006年に結節性多発動脈炎と顕微鏡的多発血管炎の両者を合わせた患者数が5159例と報告されている。本邦では結節性多発動脈炎と顕微鏡的多発血管炎の比率は1:20程度とされているので、結節性多発動脈炎は250例程度と推測される、比較的まれな疾患である。結節性多発動脈炎の平均発症年齢は55歳であり、男女比は3:1程度である。
適切な治療が施されない限りは予後不良であり、未治療の場合は1年以内の死亡率は67%とされている。死因は腎不全が最も多く、ついで脳血管障害、心不全となっている。しかしながら、治療を積極的に行えば寛解に至る事は十分可能であり、5年生存率は80%程度である。

診断

診断に関しては、2006年に厚生労働省より策定された結節性多発動脈炎の認定基準(表1)または1990年にアメリカリウマチ学会で作成された分類基準が広く使用されている(表2)。
確定診断のためには、可能であれば罹患血管の生検が診断の確定に有用である。組織学的には、フィブリノイド変性を伴う壊死性血管炎が認められる。ただし、罹患血管の種類により生検が難しい場合があり診断に苦慮する場合も多い。

臨床症状

結節性多発動脈炎は全身の血管炎であるため、症状は多彩である.炎症による全身症状と罹患臓器の炎症・虚血・梗塞による臓器障害の症状が組み合わさって出現する。
 
1)全身症状
  1. 発熱
  2. 体重減少
  3. 全身倦怠感
2)臓器障害
  1. 腎障害:腎動脈狭窄による腎血管性高血圧
  2. 中枢神経症状:脳梗塞、脳出血
  3. 心症状:冠状動脈病変による心筋梗塞,伝導障害,心外膜炎など
  4. 呼吸器症状:間質性肺炎
  5. 消化器症状:消化管穿孔や腸管動脈梗塞など。胆嚢,膵,虫垂などが個別に傷害されることもある。
  6. 末梢神経症状:単神経炎,あるいは多発性単神経炎
  7. 皮膚症状:皮下結節、結節性紅斑、紫斑、網状皮斑(リベドー)、難治性皮膚潰瘍など。血管炎所見が皮膚のみにみられる病態を皮膚型(cutaneous PAN)と呼ぶが,全身性の病型とは異なる疾患とされている。
  8. 関節・筋肉症状:関節・筋肉の痛みやこわばり。変形や骨破壊を示すことはない。
  9. 眼症状:ぶどう膜炎,虹彩炎,上強膜炎,及び眼底出血など。

頻度としては、関節・筋症状(80%)、皮膚症状(60%)や神経症状(50%)が多いが、脳梗塞、心筋梗塞、腸管動脈梗塞、消化管穿孔などは生命予後に関わる重篤な合併症であり、充分な注意が必要である。

検査所見

  1. 血液検査
    赤沈亢進やCRPの上昇、白血球および血小板の増多、IgGやIgAなどの免疫グロブリンの上昇、C3やC4などの補体価の高値など、一般的な炎症を反映する所見を呈するが、本疾患に特徴的なバイオマーカーはない。顕微鏡的多発血管炎などと異なり抗好中球細胞質抗体の陽性率は低い。
  2. 画像所見
    結節性多発動脈炎の特徴は中・小型動脈に炎症に伴い,小動脈瘤や狭窄,閉塞を多発性に生じることである.特に腹部大動脈分岐の腎,腸間膜および肝動脈領域に多く,血管造影により確認することができる.さらに,最近ではMRA(magnetic resonance angiography)、造影CTスキャン、CT-angiography(CTA)、動脈超音波検査など血管壁の異常を確認する事も可能である。

治療

  1. 寛解導入療法
    ステロイド:プレドニゾロン(prednisolone, PSL)0.5~ 1mg/kg/日(40~ 60mg/日)を重症度に応じて経口投与する。腎、脳、消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン5~1g/日、3日間連続)を行う。後療法としてPSL 0.5~0.8mg/kg/日の投与を行う。
    重症例、ステロイド無効例:シクロホスファミド(cyclophosphamide, CY)点滴静注療法(intermittent pulse intravenous cyclophosphamide therapy, IVCY:500mg~ 1000mg/日を4週間間隔,計6回をめやすに行う)又はCY 経口投与(0.5~ 2mg/kg/日)を行う。なお、CY は腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う。IVCY は経口CY に比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている。その他の免疫抑制薬としてアザチオプリン(azathioprine, AZ)、メトトレキサート(methotrexate, MTX)も用いられる。重症例では病態に応じて、血漿交換療法や血液透析を併用する場合もある。
  2. 寛解維持療法
    初期治療による寛解導入後は,再燃のないことを確認しつつステロイドを漸減し維持量(5~10mg/日)とする。ステロイドや免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない。CYは3~6ヶ月間投与し、その後寛解維持薬として、より副作用の少ないAZに変更し、半年間~1年間投与する。
感染症対策
結節性多発動脈炎の免疫抑制療法中には、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウィルス(cytomegalovirus, CMV)感染症、真菌感染症などの感染症の予防と早期発見、治療が重要である。ニューモシスチス肺炎の予防にはST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤)の1 錠/日を連日投与または2 錠/日を週2~3日の経口投与を行う。
ニューモシスチス肺炎の発症が疑われた場合は、ST合剤(9~12錠/日)内服または点滴静注(5mg/kg/day)、副作用でST合剤が使用できない時はペンタミジン点滴静注やアトバコン1500mg /日の内服を行う。
またCMV 感染症に対してはガンシクロビル点滴静注(腎機能低下例では減量必要)やガンマグロブリン療法にて治療を開始する。その他、深在性真菌症(アスペルギルス感染症、カンジダ感染症等)に対しては,アムホテリシンB、イトラコナゾール、ミカファンギンなどの抗真菌剤を投与する。

表1 結節性多発動脈炎の認定基準

主要症候
  1. 発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヶ月以内に6kg以上)
  2. 高血圧
  3. 急速に進行する腎不全、腎梗塞
  4. 脳出血、脳梗塞
  5. 心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全
  6. 胸膜炎
  7. 消化管出血、腸梗塞
  8. 多発性単神経炎
  9. 皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑
  10. 多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下
組織所見 中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在
画像所見 腹部大動脈分枝(特に腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞
(厚生労働省特定疾患難治性血管炎分科会 2006年)
 
* 確実(definite):主要症候2項目以上と組織所見
* 疑い(probable):主要症候2項目以上と血管造影所見、または、主要症候のうち1.を含む6項目以上
* 参考となる検査所見:白血球増加(10,000/uL以上)、血小板増加(40万/uL以上)、赤沈亢進、CRP強陽性
* 鑑別:顕微鏡的多発血管炎、肉芽腫性多発血管炎(ウェゲナー肉芽腫症)、好酸球性肉芽腫性多発血管炎(アレルギー性肉芽腫性血管炎)、川崎病血管炎、膠原病(SLE、RAなど)、紫斑病血管炎
*【参考事項】
  1. (1) 組織学的にⅠ期変性期,Ⅱ期急性炎症期,Ⅲ期肉芽期,Ⅳ期瘢痕期の4つの病期に分類される。
  2. (2) 臨床的にⅠ,Ⅱ病期は全身の血管の高度の炎症を反映する症候,Ⅲ,Ⅳ期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。
  3. (3) 除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが,特徴的な症候と検査所見から鑑別できる

表2. アメリカリウマチ学会による結節性多発動脈炎分類基準(1990年)

  1. 体重減少: 発病以降に4kg以上の体重減少。ただしダイエットや他の原因によらない
  2. 網状皮斑: 四肢や体幹に見られる斑状網状パターン
  3. 精巣痛、圧痛: 精巣痛、精巣圧痛。ただし感染、外傷その他の原因によらない
  4. 筋痛、脱力、下肢圧痛: 広範囲の筋痛(肩、腰周囲を除く)、筋力低下あるいは下肢筋肉の圧痛
  5. 単あるいは多発神経障害: 単神経障害の進行、多発単神経障害または多発神経障害
  6. 拡張期血圧>90mmHg: 拡張期血圧90mmHg以上の高血圧の進行
  7. BUNあるいはCr上昇: BUN>40mg/dlまたはCr>1.5mg/dl。ただし脱水や閉塞障害によらない
  8. B型肝炎: 血清HBsAgあるいはHBsAbの存在
  9. 動脈造影での異常: 動脈造影にて内臓動脈に動脈瘤あるいは閉塞を認める。ただし動脈硬化、線維筋性異形成、その他の非炎症性機序によらない
  10. 小あるいは中型血管の生検にて多形核白血球を認める: 動脈壁に顆粒球、あるいは顆粒球と単核球の存在を示す組織学的変化

* 確実(definite):主要症候2項目以上と組織所見