リウマチ性多発筋痛症polymyalgia rheumatica, PMR
疾患概念・病態
リウマチ性多発筋痛症(PMR)は、通常50歳以上の中高年者に発症し、発熱や頸部、肩、腰、大腿など四肢近位部(近位筋)の疼痛を主訴とする原因不明の炎症性疾患である。
疫学
- 発症年齢は、50歳代から散見するが、平均70歳前後で高齢者に多く、80歳代もまれではない。男女比は1:2で女性に多いとされる。
- 欧米では、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)の50%にPMRを合併するとされるが、本邦での両疾患の合併例はまれである。
臨床症状
- 筋肉痛
- 頸部から肩、肩甲部、上腕にかけて、また、大腿部から膝など、近位部に筋肉痛が生じる。痛みは軽微なものから、ときに耐えがたい筋肉痛を生じることもある。特に肩甲部の疼痛は頻度が高く、上腕圧痛は特異度が高い。
- 関節痛
- 多くは両側性で、手関節、膝関節などに多い。
- 手指関節が侵されることは稀であり、関節リウマチ(rheumatoid arthritis, RA)との鑑別点になりうる。
- 発熱
- 37℃台程度の発熱から38℃を超えるものまで程度は様々である。発症当初は感冒薬や抗菌薬にて治療を受けるも改善なく、原因不明の発熱として紹介を受けることが多い。
- その他
- 易疲労感や、食欲不振、抑うつ症状、体重減少を認めることがある。
検査所見
- 筋肉痛を訴えるが筋破壊所見はなく、血清クレアチンキナーゼ(creatine kinase, CK)、アルドラーゼなどの筋原性酵素の上昇は通常みられない。
- 赤沈値の亢進、CRP値などの炎症反応の上昇を認める。CRP値は10mg/dlを超える例も少なくない。
- 抗核抗体やリウマトイド因子(rheumatoid factor, RF)のような自己抗体は原則出現しない。
- 超音波やMRI(magnetic resonance imaging)検査では、両側の肩峰下や三角筋下、大腿骨大転子下に滑液包炎を高頻度に認める。
診断・鑑別診断
- 高齢者において発熱、筋肉痛、炎症反応上昇を認めた場合PMRを疑う必要がある。
- Birdによる診断基準が汎用されている(表1)
臨床症状
もっとも頻度が高いのが血栓症であり、血栓症が起こる血管の太さや部位はさまざまである(表1)。そのほかに血小板減少、溶血性貧血、心臓弁膜病変、頭痛・痙攣発作、精神症状なども認められることがある。
表1.リウマチ性多発筋痛症の診断基準(Birdによる)
- 両側肩の痛み および/または こわばり
- 初発から症状完成まで2週間以内
- 初診時、血沈40mm/時以上
- 朝のこわばり(頚、肩甲骨、腰帯)1時間以上
- 年齢65歳以上
- うつ状態 および/または 体重減少
- 両側上腕の圧痛
判定
上記3項目以上、または上記1項目+臨床的・病理学的な側頭動脈の異常→probable PMR
補足
・PMRに特異的な所見はなく除外診断が必要で、本基準のみで確定することは出来ない。
・PMRの診断をさらに確実にするために、プレドニゾロンによる診断的治療が有用である。
また2012年EULAR/ACRより超音波検査の項目を含んだ暫定的な分類基準が提唱された(表2)。その完成度には賛否あるが、これらの項目について評価することは診断の一助となる。
表2.2012年EULAR/ACR リウマチ性多発筋痛症暫定分類基準
超音波検査未実施 | 超音波検査実施 | |
---|---|---|
45分以上持続する朝のこわばり | 2 | 2 |
臀部痛または股関節の可動域制限 | 1 | 1 |
リウマトイド因子、抗CCP抗体が陰性 | 2 | 2 |
肩関節、股関節以外に関節症状がない | 1 | 1 |
超音波検査所見 | ||
| ― | 1 |
PMRと分類:超音波検査実施→合計4点以上、 超音波検査未実施→合計5点以上 | ― | 1 |
鑑別すべき疾患と鑑別のポイント
- 感染症
症状により適切に画像検査や培養検査を行う。 - 悪性腫瘍
できる限り治療前に全身的な悪性疾患の検索を行う。ただし症状が強い場合、PMRとしての治療を先行させる場合がある。 - 関節リウマチ
特にRFや抗CCP抗体が陰性である血清反応陰性関節リウマチとの鑑別に苦慮する場合がある。PMRとして治療開始後にRAが顕在化する場合があり注意が必要である。 - 多発性筋炎
近位筋の疼痛を主訴とする疾患として鑑別が必要である。多発性筋炎では筋原性酵素の上昇がみられPMRと異なる点である。 - 血管炎症候群(顕微鏡的多発血管炎や結節性多発動脈炎など)
好発年齢が高齢であり、発熱や炎症反応上昇がみられ鑑別が必要である。
ANCA関連血管炎ではMPO-ANCAやPR3-ANCA値が陽性であり、血管炎の場合肺障害や腎障害など臓器障害を呈するが、PMRは筋痛以外臓器障害を認めない。 - 線維筋痛症(fibromyalgia, FM)
線維筋痛症では全身の筋痛を訴えるが、特有の圧痛点が存在する。炎症反応は正常でありPMRとの鑑別点である。
治療
- プレドニゾロン(prednisolone, PSL)換算10~20mg/日のステロイド投与で多くは早期に改善する。早ければ投与開始翌日、遅くとも3日程度で症状の改善をみる例が多い。
- まれに反応が悪く、ステロイドを増量する場合がある。
- 治療の反応が良好であれば、2~4週毎に10%、すなわち2~2.5mg程度、10mgからは4週毎に1mgずつ慎重に漸減する。
- ステロイド減量中に再燃することがあり、再燃時はステロイド投与量を1.5~2倍へ増量する。
- ステロイド離脱も可能な疾患であるが、再燃例では5mg/日程度の維持量投与が必要となることがある。
- 巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)合併例では、失明の危険もあるためステロイド大量投与が必要となることがある。
予後
- 多くは治療に反応し予後良好である。
- 高齢者に多い疾患のため、特にステロイドの維持投与が必要な場合は、感染症や骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折合併などが予後に影響を与える。