疾患概念・病態

1987年に英国のGeorge Frederic Still医師が小児の慢性関節炎で、発熱、皮疹、リンパ節腫脹、肝脾腫、全身リンパ節腫脹、サーモンピンク疹などの全身症状を特徴とする小児疾患を報告し、1971年にBywaters医師がこれによく似た臨床症状を呈する患者を成人スティル病(adult Still's disease: ASD)として報告した1。16歳未満発症の小児例は、現在では 全身型若年性特発性関節炎(systemic juvenile idiopathic arthritis: sJIA)と表現され、sJIAが成人に移行した症例と、16歳以上ではじめて発症した成人発症スティル病(Adult onset Still's disease: AODS)を併せて成人スティル病(adult Still's disease: ASD)と呼称している。
病因は不明であるが、遺伝的要因に感染などの環境要因が加わることで発症することが考えられている。環境要因としてはウイルス感染や細菌感染が関与している可能性が報告されており、血清IL-1,IL-6,IL-18等の上昇が認められることから、マクロファージや好中球の異常活性化が存在すると考えられる2

疫学

わが国で行われた全国疫学調査では、わが国の推定罹患患者総数は4760人、推定頻度は39/100万人であった。関節痛は83.1%に認められ、関節痛を有する患者の44.4%に関節炎が存在した。罹患関節では手関節(27.0%)、膝関節(27.0%)、肩関節(15.8%)の順であった。関節炎は11.7%に関節リウマチ様の骨破壊性変化を認めた2)。平均発症年齢は46±19歳で、男女比は1:2.57と女性にやや多かった3)4)

診断・鑑別診断

診断はYamaguchiらの分類基準を用いて診断する(表1)5。ASDは症状が非特異的であり、血清学的マーカーは明らかではないので診断には苦慮する場合が少なくない。分類基準に明記されているように、発熱の原因となる他の疾患の除外を行う必要があり、感染症(EBウイルス、パルボウイルスなど)、悪性腫瘍(特に悪性リンパ腫)、自己免疫/自己炎症疾患(全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、家族性地中海熱、高IgD症候群など)、その他サルコイドーシスなど除外することが重要である。

表1:成人スティル病分類基準:Yamaguchiらの基準(1992年)

大項目
発熱(39度以上、1週間以上)
関節痛(2週間以上)
定型的皮疹
白血球増加(10000/µl以上)および好中球増加(80%以上)
小項目
咽頭痛
リンパ節腫脹あるいは脾腫
肝機能異常
リウマトイド因子陰性および抗核抗体陰性
*計5項目以上(大項目2項目以上)で診断する
*除外項目:感染症、悪性腫瘍、膠原病

臨床症状

臨床症状は発熱、皮疹、関節痛がASDの3徴として知られている。発熱は約90%に認められ、39度以上に達する弛張熱が連日起こり、日内変動の大きな波状熱を呈することが多い。皮疹は60%以上に認められ、リウマトイド疹またはサーモンピンク疹とよばれる掻痒を伴わない紅斑で、典型的には解熱とともに消退する。またケブネル現象を認めることがある。関節痛は約80%に認められ、移動性かつ複数の関節に非対称性に生じることが多い。また末梢関節炎が持続し、関節リウマチのように骨性強直を来す場合もある。その他の主要な臨床症状としては筋痛、咽頭痛、リンパ節腫脹、脾腫を来す。また薬剤アレルギーを約20%に認め、比較的起こしやすいことが知られている1。重篤な症状として、マクロファージ活性化症候群(macrophageactivatingsyndrome:MAS)や播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)を合併することもある。

検査所見

成人スチル病診療ガイドライン2017年版ではASDの診断、鑑別に有用な検査所見として、血清CRP上昇、赤血球沈降速度亢進、白血球数(10,000/µg以上)、好中球数(80%以上)、血清フェリチン(基準値上限の5倍以上)、肝逸脱酵素上昇、血清IL-18上昇が特徴的検査所見として提案されている6。また、マクロファージ活性化症候群や播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)が生じた場合は血球減少、血清LDH著明高値、血清中性脂肪高値、DICで特徴的な凝固異常(血中FDP高値、血中Dダイマー高値、PT-INR延長、フィブリノーゲン低値)が認められる。抗核抗体、リウマトイド因子などは陰性であり、いわゆる膠原病的マーカーは存在せず、自己免疫性疾患と考えられる。

治療

治療としては臨床症状、および病態の改善を目的とした副腎皮質ステロイド全身投与が推奨されている。ステロイドの投与量については重症度に応じて0.5から1mg/kg/日が一般的である7)。ステロイドの治療は奏功することが多いが、減量過程や維持療法中に再燃することも少なくない。治療抵抗例や再燃例には免疫抑制薬や生物学的製剤が使用される。免疫抑制剤としてはメトトレキサート(MTX)やシクロスポリン(CyA)を使用する。ガイドラインではMTXは強い推奨であるが、CyAはMTXが禁忌で使用できない症例に対して弱い奨励とされている6。経口免疫抑制薬で効果不十分の場合は生物学的製剤も検討され、本邦では抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)がASDに対し保険適応を有する。本邦では保険適応ではないが、抗TNF阻害薬(エタネルセプト、インフリキシマブ)の使用例の報告もある1。sJIAにわが国では保険適応のある抗IL-1抗体(カナキヌマブ)はアメリカと一部のヨーロッパの国でAOSDに使用されて有効性が示されており、わが国においても現在、IL-1βを標的とした治療薬であるカナキヌマブの治験が進行中である。またIL-18を阻害するbinding protein(IL-18BP:tadekinig alfa)やIFN-γ阻害薬なども臨床試験が進められている8

予後

ASDの生命予後は良好で、死亡例はまれであるが、炎症が制御できずMASからDICや多臓器不全へと進展するとした場合には予後不良である。
 
1)Asanuma YF, et al: Nationwide epidemiological survey of 169 patients with adult Still's disease in Japan. Mod Rheumatol 25: 393-400, 2015.
2)三村俊英:成人スティル病. 特集厚生労働省指定難病の診断基準と重症度. 分子リウマチ治療10: 24-26, 2017.
3)Bywaters EG:Still's disease in the adult. Ann Rheum Dis 30: 121-133,1971.
4)Gerfaud-Valentin M, et al. Adult-onset Still's disease. Autoimmun Rev. 13(7):708-22,
2014
5)Yamaguchi M, et al:Preliminary criteria for classification of adult Still's disease. J.
Rheumatol. 19:424-430,1992
6)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班(編):成人スチル病診療ガイドライン 2017年版. 診断と治療社. 2017.
7)Fautrel B: Adult-onset Still disease. Best Pract Res Clin Rheumatol 22: 773-792. 2008.
8)Gabay C et al. Ann Rheum Dis 77(6): 840-7. 2018.

更新日:2022年7月1日