肺がんというとなかなか治りにくいというイメージが一般的にはあると思います。がんセンターのホームページによると、2021年のがん死の死亡数は、男性では肺がんが1位、女性では大腸がんが1位、肺がんが2位、男女の合計では肺がんが1位です。そして、2019年のがんの罹患数は、男性では前立腺がんが1位、肺がんが4位、女性では乳がんが1位、肺がんは3位です。つまり罹患数に対して死亡数が多く、治りにくいということになります。一方で、近年はCT検査の普及に伴い、早期で発見される方も非常に多くなっております。実際には、日本全国前向きに調査された試験では、2cm以下の臨床病期IA期の患者さんの5年生存割合は90%以上でした(Lancet. 2022 Apr 23;399(10335):1607-1617. doi: 10.1016/S0140-6736(21)02333-3.)。肺がんと診断された、または肺癌を疑うと診断されたからと言って、諦める必要はなく十分に治る可能性があります。

この20年間で外科的手術の技術、機器は格段に進歩しました。従来の胸腔鏡下手術、開胸手術に加え、当院ではロボット手術にも力をいれており、身体への負担を出来る限り軽減することに努めてます。呼吸器外科領域におけるロボット手術の手術件数は全国1位(2022年のデータ)です。また当院では肺の温存手術にも力を入れています。人体には一般的に、右肺には上葉、中葉、下葉、左肺には上葉、下葉が存在し、5つの肺葉のうち一つをとる肺葉切除が一般的な術式でした。当院でも、2008年は80%ほどが肺葉切除でしたが、近年では肺葉切除は50%ほどで、肺を温存する縮小手術(肺区域切除、肺部分切除)を積極的に行うことで、術後の早期快復を実現してます。これらの術式は一律ではなく、エビデンスに基づき、患者さんのがんの状態と全身状態、社会生活を考えて決められてます。

ガイドラインでは、肺癌の手術適応は臨床病期I期とII期になります。III期の患者さんには放射線化学療法が一般的ではありますが、そのような治療を受けることが出来ない患者さんも多くいらっしゃいます。例えば、高齢者の方ではそのような治療が難しいことがあります。また間質性肺炎を併存新患にお持ちの方も難しくなります。そのような患者さんには、手術を含めた治療が可能な場合もあります。また、臨床病期III期でも、局所のみで周囲臓器に浸潤傾向を示す(例えば大動脈など)、局所進行肺癌では外科的切除が有効な場合があります。当科では縮小手術だけでなく、このような拡大手術に関しても積極的に行い、全国でも多くの経験を持ってます。そして、ガイドラインにあてはめることが出来ないような患者さんへも諦めない治療を提供するように努めております。

この10年間で、薬物療法(抗がん剤、分子標的薬、免疫療法)は革新的な進歩をとげております。これまでは治療が難しかったIII期、IV期の患者さんへも呼吸器内科と綿密な連携をとりながら、治療を提供することができるようになってきてます。

早期肺癌から進行肺癌まで、そして併存疾患を多く抱える方まで対応できる体制が整っておりますので、是非当科受診を検討してみてください。