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順天堂大学医学部附属順天堂医院 呼吸器外科
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 原発性肺がん

肺がんについて

 肺がんは空気の通り道である気管、気管支、肺胞までの粘膜(上皮)等に発生するがんです。日本における肺がんによる死亡者数は、1998年におよそ5万人に達し、胃がんを抜いてがん死亡原因の第1位となり、がん死亡者の約20%を占めるようになりました。
この増加傾向は、あと10年前後は続くものと推定されており2015年には12万3千人に達すると考えられています。男女別に見ると男性では胃がんを抜いて1位。女性は胃がん、大腸がんに次いで3位です(平成14年)。世界的に見ても肺がんの患者数は、増加傾向にあります。特に40歳以降の喫煙者の男性に多く見られ、好発年齢は50歳〜60歳代が最も多く、次いで70歳代となります。アメリカ、イギリスや北欧諸国等、早くから喫煙対策にとり組み、喫煙率の減少に成功した国々では、肺がんの罹患率は減少傾向にあるようです。
 肺は組織学的には、多くの細胞から成る臓器であり、そこに発生するがんも数多くの種類があります。その中で、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん、小細胞がんの4種類が代表的なものであり、この4者で肺がんの組織型の大多数を占めます。そして、この4種類の肺がんはその発生する部位(肺の中枢側か末梢か)成因(喫煙との関連の深さ)、発育や転移のしかた、抗がん剤や放射線照射に対する反応等が異なり、それぞれの特性を理解することが、検診や治療の方法を考える上で大切なこととなります。

a)扁平上皮がん:比較的太い中枢の気管支に発生することが多く、喫煙との関連が深い。肺の中枢側に発生することが多いため、早期には心臓や大血管の陰影と重なり、胸部X線写真での発見が困難です。痰の定期的な検査などが早期発見につながり、早期に発見された場合には他の3つの型より治療成績が良いと考えられる。

b)腺がん:末梢の肺野に発生しやすい。喫煙との関連は比較的うすく、女性に多いとされています。非喫煙者にも多数発生するとされています。肺がんの中で最も多い組織型であり約40%を占め、増加傾向です。近年増加している理由として、フィルター付タバコとの関連が疑われています。このタイプは、最近CTによって非常に早い時期(非浸潤がん:転移等をしない)に見つかるようになってきています。この時期のがんであれば小さな手術で十分治ると考えられています。

c)大細胞がん:肺の区域では、扁平上皮がんと腺がんの中間くらいの部位に発生するものが多く、肺がんの10%くらいを占める。抗がん剤や放射線療法の効果が出にくい(効きにくい)ため治療成績は扁平上皮がんや腺がんより悪い。

d)小細胞がん:扁平上皮がんと同様に喫煙との関連が深いと考えられており、肺の中枢側に発生するものが多い。肺がんの10〜15%を占め、がんの発育・転移共非常に、はやいのが特徴です。しかし、抗がん剤や放射線治療に対する反応は他の3つの肺がんと比べて良好であり、集学的治療の効果が期待されます。

肺がんの治療法について

肺がんの治療方法は、その進行の程度(stage)と組織型によって異なります。進行の程度は
a)原発腫瘍の大きさや拡がり(T)、
b)リンパ節転移の程度(N)、
c)他臓器への転移の有無(M)の3つの因子を組み合わせて分類しています。(TNM分類)
  • T1:3cm以下
  • T2:3cmより大きいが周辺臓器の浸潤無し
  • T3:周辺臓器の浸潤あり
  • T4:重要臓器(心臓、椎体、気管、大血管)等への浸潤または、がん性胸膜炎
  • N0:リンパ節転移無し
  • N1:肺門部リンパ節転移
  • N2:同側縦隔リンパ節転移
  • N3:反対側縦隔、鎖骨上リンパ節転移
  • M0:遠隔転移なし
  • M1:遠隔転移あり
Ia期(T1NM0) がんの大きさが3cm未満であり、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です。
Ib期(T2N0M0) がんの大きさが3cm以上で、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です。
IIa期(T1N1M0) がんの大きさは3cm未満であり、がんが原発巣と同じ側の肺門のリンパ節に転移を認めますが、他の臓器には転移を認めない段階です。
IIb期
(T2N1 or T3N0M0)
がんの大きさは3cm以上であり、がんが原発巣と同じ側の肺門のリンパ節に転移を認めますが、他の臓器には転移を認めない段階です。あるいは、原発巣のがんが肺を覆っている胸膜・胸壁に直接及んでいますが、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です。
IIIa期(T3N1 or N2) がんが直接胸膜・胸壁に拡がっていますが、転移は原発巣と同じ側の肺門リンパ節まで、または縦隔と呼ばれる心臓や食道のある部分のリンパ節に転移していますが、他の臓器には転移を認めない段階です。
IIIb期(N3 or T4) がんが直接縦隔に拡がっていたり、胸膜へ転移をしたり(胸膜播種といいます)、胸水が溜まっていたり、原発巣と反対側の縦隔、首の付け根のリンパ節に転移していますが、他の臓器に転移を認めない段階です。
IV期(M1) 肺の他の場所、脳、肝臓、骨、副腎などの臓器に転移(遠隔転移)がある場合です。

 組織型別では、小細胞がんが発育、転移共に他のがんに比べて非常に速く、又放射線や抗がん剤に対する感受性がよいことから、小細胞がんと非小細胞がんの2つに分けて治療方法を考えます。
1)小細胞がん:基本的には全身化学療法を行うが、stageIでは外科手術を先行させ、この後に全身化学療法を行う場合もある。StageII〜IVでは外科手術の適応ではなく、放射線療法と化学療法を行う。
2)非小細胞がん:stageI〜IIIAまでが外科手術の適応となる。術後に化学療法を追加することの有用性が最近示されてきている。StegeIIIB、stageIVでは基本的には外科手術の適応はなく、放射線療法と化学療法を行うことになる。
 患者さんの全身状態や肺機能、治療に対する考え方等も合わせて決められるものであり、主治医と良く話し合うことが重要です。

順天堂大学の取り組み

 当科で最も頻度の高い疾患は肺がんで、手術は毎年100例以上を手がけています。手術は胸骨正中切開下の拡大手術から低侵襲な胸腔鏡手術まで両極端の手術をルーチンに行っている、世界でもまれな施設です。当科でも手術全体としては低侵襲化が進んでいます。ひとつには胸腔鏡(胸を開けずにカメラで見る)でカバー・応用できる手術が増えたからです。これは私達外科医の胸腔鏡手術に対する技術習熟が向上したことと、光学機器や周辺機材が進歩したことが大きいと思われます。胸腔鏡手術は肺、縦隔の良性腫瘍や気胸等が良い適応ですが、当科では肺がんの手術をはじめほとんどの呼吸器手術で胸腔鏡を応用しています。標準的な肺がん手術(開胸)も胸腔鏡を応用することで5cm(胸腔鏡下肺切除)から20cm(以前は30〜40cm)以下の切開で行えます。その結果、平均入院期間は9日と非常に短くなっています。患者さんの状態、病気の進行度などで手術の危険性は大きく変わりますが、重症な患者さんを避けることなく、手術成績を尚一層安定させるべく努力をしていきたいと思います。また、進行肺がんに対する治療成績は、外科・内科・放射線科等の治療法の進歩にもかかわらず、まだ40年以上前とほとんど変わりません。大きな危険と労力を伴う外科治療に対しては、消極的な施設が増えてきています。特に有名な大施設にその傾向が認められます。私たちは積極的に拡大手術を行い、その良好な成績を報告してきました。
 呼吸器疾患全般の手術方法、肺がんに対する外科的治療戦略は世界的にもこの20年間に大きく変貌しています。はたして、新しい試みが全て呼吸器疾患の外科治療成績向上に貢献しているのか不明瞭な部分もあります。私たちは当教室の足跡を十分に検討し、新世紀にふさわしい呼吸器外科の治療戦略の模索に日々精進しています。

当科における原発性肺がん手術療法

 C-stageIの小細胞肺がんおよびC-N3γ or M1を除く非小細胞肺がんを対象とする。手術にあたっては、がんの告知と2週間以上の禁煙を条件とする。
Second Opinionは積極的に認める。(国立がんセンター病院など)

胸骨正中拡大リンパ節郭清
  1. C‐StageIA、C-T4 or N3 or M1および、T3のうち骨性胸壁浸潤例は除く
  2. 70歳以下のリスクのない症例で、標準開胸手術とのSDMによるInformed Consentが得られた症例
  3. 5年以内のがん治療歴(多発がん)、術前治療症例は除く。
  4. 左肺がんはND3α(下葉切除は胸腔鏡を併用し腋窩開胸を追加しない)
  5. 右肺がんは上葉原発のみ、右頚部郭清を伴うND3γを行う。右中or下葉原発例は除く

胸腔鏡下肺葉切除
  1. C-T1N0M0-StageIAで標準開胸手術とのSDMによるInformed Consentが得られた症例。
  2. 75歳以上のリスクのある症例または多発がんかつC-StageIで、Informed Consentが得られた症例。
  3. 高度胸膜癒着例、完全不全分葉例は除く。
  4. ND2aまたは縦隔リンパ節生検を行う

胸腔鏡下肺部分切除手術
  1. リスクの大きい症例(1秒量1000ml以下、虚血性心疾患合併、透析患者等)かつC-StageIで、Informed Consentが得られた症例。
  2. 75歳以上または多発がん症例のC-StageIAの扁平上皮がんまたは直径2cm以下で、胸腔鏡下肺葉切除とのSDMによるinformed consentが得られた症例。
  3. C-StageIAかつ1cm以下で、胸腔鏡下肺葉切除とのSDMによるInformed Consentが得られた症例
  4. リンパ節郭清は行わず、生検のみとする

標準開胸手術
  1. 上記以外は原則として、前側方開胸による肺葉切除とする。
  2. 縦隔リンパ節郭清は75歳未満はND2bを行う
  3. リスクのある症例または75歳以上はND2aとする

Shared Decision Making(SDM)によるIC
  1. 提示する成績は1996年9月以降の当院の成績を公表。
  2. 国立がんセンターと三井記念病院の報告を情報提供する。

肺がん切除例の5年生存率(国立がんセンター)
  • IA:C=72.2%  p=80.1%
  • IB:C=45.2%  p=59.9%
  • IIA:C=41.9%  p=57.2%
  • IIB:C=38.1%  p=47.8%
  • IIIA:C=25.4%  p=24.0%
  • IIIB:C=25.1%  p=13.0%
  • IV :C=22.9%  p=0.0%
 

非小細胞肺がんの術後補助化学療法

はじめに
 肺がんをはじめがんの治療は早期発見、早期治療が治癒への道である。しかし、肺がんは、発見が遅れることが多く、罹患率、死亡率も全国一で治りにくいがんと考えられている。非小細胞肺がんの中で比較的早期といわれる臨床病期IBでさえも、切除後の5年生存率は50%前後であり(2002年呼吸器外科学会全国集計)、決して満足のいく成績ではない。手術後の再発は、遠隔転移が多いことから外科的切除のみでは不十分であると考えられる。そのため、切除後の遠隔転移制御の方法として、全身療法である化学療法を外科治療に併用することが検討され、多くの施設で臨床試験が試みられている。

術後補助化学療法の現況
 非小細胞肺がん切除例に対する術後補助化学療法に関しては、1960年代から多くの臨床試験が行われてきたが、2002年末まではその有用性が証明されていなかった。しかし、2003年のIALT(The International Adjuvan Lung Cancer Trial Collaborative Group)の報告以来、術後補助化学療法は有用であるという方向に変わり、その後さまざまな試験が報告され、現在、欧米において、術後補助科学療法は、病理病期IB/II非小細胞肺がんの標準治療として認められつつある。本邦においても2005年肺がん学会編集の肺がん診療ガイドラインにおいて、グレードCからBに格上げされ、術後補助科学療法が推奨されるようになってきた。 (肺がん診療ガイドライン グレードA:行うよう強く勧められる。 グレードB:行うよう勧められる。 グレードC:行うよう勧めるだけの根拠が明確でない。グレードD:行わないよう勧められる。)

当科における術後補助化学療法の方針
 これまで、当科では患者さんの意志を第一に尊重する治療方針を貫いてきました。そのため、まず患者さん自身により術後補助化学療法を行うかどうかを決定していただかなくてはなりません。

当科における術後補助化学療法の方法
 @経口抗がん剤の2年間の内服投与
 A入院または外来通院による点滴抗がん剤の投与
 B経過観察
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