肺高血圧症とは

肺高血圧症は、右心室から肺に流れる血管(肺動脈)の圧が異常に上昇する病気です。リウマチなどの膠原病・慢性心疾患・COPDや間質性肺炎などの呼吸器疾患・肺動脈内の慢性血栓などを要因として発症しますが、原因がはっきりしない「特発性」と呼ばれる一群もあります(表1・肺高血圧症分類をご参照ください)。各群によって治療方法は異なりますが、進行すると心不全を併発して命を落とす重篤な疾患です。代表的な初期症状には、労作時の呼吸困難、易疲労感、失神、動悸、咳嗽があげられますが、いずれも他の病気でもしばしば認められる症状であり、肺高血圧症が見落とされて診断が遅れることもあります。診断には、心電図・胸部超音波検査・胸部造影CTなどを用いますが、最終的な確定診断のためには、肺動脈圧を直接測定する右心カテーテル検査が必要となります。

肺高血圧症の治療

肺動脈性肺高血圧症(1群)は、かつては肺移植や特殊な注射製剤しか治療方法のない時代もありましたが、近年になり多くの内服治療薬が開発されています。内服の肺血管拡張薬を何種類か組み合わせて投与することによって、予後は著しく改善しました。4群にあたる慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対しては、内服薬治療以外にも、バルーンカテーテルを用いて血栓の詰まった部位を拡張する治療も有効です(バルーン肺動脈形成術:BPA)。BPAに関しては、当院の循環器内科と協力しながら治療を行います。外科的に血栓の除去が可能と考えられた場合には、手術(肺動脈血栓内膜摘除術:PEA)の経験が豊富な他施設と連携して治療を行うこともあります。肺動脈性肺高血圧症(1群)と慢性血栓塞栓性肺高血圧症(4群)は、厚生労働省の指定難病に含まれており、然るべき申請をすることによって公費負担で治療を受けることが可能です。呼吸器疾患に伴う肺高血圧症(3群)については、原因となる呼吸器疾患の治療や酸素療法の導入によって、症状の改善が期待できます。状況によっては肺動脈性肺高血圧症(1群)の治療薬である選択的肺血管拡張薬を投与することもあります。さらに、海外では間質性肺疾患に伴う3群肺高血圧症に対する吸入肺血管拡張薬の有効性が報告されており、本邦でも使用に向けての臨床試験が行われています。

当院の肺高血圧症診療の特徴として、充実した院内連携が挙げられます。肺高血圧症の患者さんを診る機会の多い呼吸器内科・循環器内科・膠原病内科がより良い肺高血圧症治療の実現を目指して、密に連絡をとりあって診療を行っています。

様々な検査をしても原因のわからない呼吸困難が持続する場合は、肺高血圧症が隠れている可能性があります。ご自身の症状で思い当たる方は、是非当科に御相談ください。
表1 肺高血圧症の分類(一部略)
1群 肺動脈性肺高血圧症
特発性、遺伝性、薬剤性、膠原病合併 など
肺静脈閉塞性疾患 など
2群 左心性心疾患に伴う肺高血圧症
3群 肺疾患/低酸素血症に伴う肺高血圧症
COPD、間質性肺疾患、睡眠呼吸障害 など
4群 慢性血栓塞栓性肺高血圧症
5群 その他の疾患に伴う肺高血圧症