乳がん患者さんを「真のチーム医療」で支える"順天堂医院乳腺センター"

乳がんについて

日本人女性の9人に1人が乳がんに
~60代の患者さんも増加中です~

日本人女性がかかるがんの中で、もっともり患数が多く、9人に1人がかかるといわれている乳がん。乳がん患者数は欧米では減少傾向ですが、日本では増加傾向にあり、その原因は正確にはわかっていません。また、乳がんになりやすい年代は、以前は40代がもっとも多かったのですが、最近では高齢化とともに60代の乳がん患者さんも増えています。
 
がん化する(癌細胞に変化する)のは主に母乳が流れる管である乳管の壁を形成している乳管上皮細胞であることが多く、10年程度かけてゆっくりと乳管内を伸展し、やがては乳管の壁を破ってその外に浸みだし、いわゆる"しこり"を形成していくと言われています。主な症状は乳房の胸部的な硬さ(しこり)や乳房の皮膚のひきつれやくぼみ(えくぼ様)、乳房の形の左右非対称化の進行(もともと左右差があったとしてもそれが更に目立ってきたり、もともとなかった左右差が現れたり)、乳頭からの血性分泌物やただれなど。乳がん検診では、早期に発見されることが多いですが、患者さんご自身でも発見できる可能性のあるがんのひとつです。

乳腺科001

治療法

局所療法(手術・放射線治療)・全身療法(薬物療法)が2本柱
~患者さんとともに最適な方法を選択します~

治療法はがんの進行状況(ステージ)や身体の状態、本人の希望、年齢などを考慮して、患者さんと患者さんを支える医療チームで検討し、選んでいきます。
標準的な治療法には以下の2つがあります。
1)局所療法…火種を抑える
① 手術
② 放射線治療
2)全身療法…飛び火を抑える
・薬物療法

主な手術のご紹介

乳房部分切除術

がんの範囲が乳房の狭い範囲に限局されており、「乳房を残したい」と希望される患者さんに行います。残された乳房の中で再発が起きる確率を下げるために、術後に放射線治療を行います。また、がんが大きい場合は、術前に薬物療法で腫瘍を小さくしてから手術を行うこともあります。

乳房切除術

がんが広範囲に広がっていたり、同一乳房に複数のがんが見つかった場合にはこの術式をお勧めしなくてはなりません。がんがある側の乳房をすべて取り除くため、患者さんの中には喪失感に悩まれる方もおられます。そのため、当科では乳房再建術もご提供しています。乳房再建術には、自分の腹部や背部の組織を移植する自家組織再建術と、人工物(保険承認されたシリコンインプラント)を使って再建する人工乳房再建術があります。当科は、形成外科と協力して、自家組織再建術と人工乳房再建術の両方をハイレベルで行える国内でも数少ない科でもあります。
遺伝性の乳癌卵巣癌症候群に対するリスク低減乳房切除術(発症前予防目的)±乳房再建も積極的に行っています。

腋窩(えきか)リンパ節は、①経過観察か②センチネルリンパ節生検か③郭(かく)清(せい)を

①原発巣が非浸潤癌という超早期のがんであり、範囲が狭い場合は、腋窩リンパ節は経過観察のみとなります。②乳癌が早期がんであり、超音波などで腋窩リンパ節が腫れていない場合、がん細胞から一番近いリンパ節だけを手術中に病理診断する方法をセンチネルリンパ節生検と呼びますが、この手技のみで、それ以上の操作を加えない(術後に放射線をかける場合がこれに相当)か、または2mm以上の転移を認めたときのみ、周囲のリンパ節も切除する"郭清"をする場合と、③術前明らかに腋窩リンパ節転移を認めた場合に行う"郭清"という手術手技があります。

齊藤先生_手術中

診療体制

乳腺科集合写真2.1

診療実績

1.手術加療

がんの切除から乳房再建まで、あらゆる手術に対応
順天堂大学医学部附属順天堂医院では、乳がん患者さんのあらゆるニーズに応えるため2006年に、大学病院としては国内で初めてとなる乳腺科、放射線科(診断部と治療部)、形成外科、病理診断部、化学療法室、看護相談室、がん治療センターなどが密接に連携した乳腺センターが開設されました。

当院での乳がんの手術数は500例あまり(2021年度)に達しており、順天堂大学医学部附属浦安病院、同練馬病院、同静岡病院など、附属病院全体では1,000例を超えています。
近年、60代の乳がん患者さんが増加していることから、同順天堂東京江東高齢者医療センターでも乳がんの検査・診療窓口を開設。高齢期にありがちな疾患と同時に、乳がんの治療もワンストップで行える体制を整えています。
診察室

2.治験、臨床試験の参加

臨床試験、治験の参加による新しい治療選択肢の探求
新しい効果が期待される薬が実際に使えるようになるには薬の有効性、安全性を患者さんにご協力いただく治験というプロセスを経なければなりません。当科では腫瘍内科医である渡邉純一郎教授のアドバイスの元、皆様に有効な治療選択肢としての治験や、臨床試験についてご案内しております。治験にご興味のある方はご遠慮なく担当医にお尋ねください。
当院では早期乳癌から進行再発乳癌まで、新しい治療方針を探求すべく、医師主導の他施設共同臨床試験などに積極的に参加するほか、様々な治験にも参加しております。2023年1月現在、当院からは14の治験に参加中です。現在進行している治験情報の詳細につきましては、別途URLからご確認ください。
https://www.gcprec.juntendo.ac.jp/chiken/search/15/55

3.遺伝相談、遺伝学的検査

乳癌診療においては、近年遺伝学的検査を行うことで遺伝性の乳癌になりやすいかを調べるだけでなく(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)、手術検体や生検検体、血液検査などからどんな治療が効果的か(多遺伝子アッセイ、がんパネル検査)、判断の助けとするために遺伝子検査を行うことが増えてまいりました。当院では遺伝学的検査について迅速に対応できるよう体制を整え、当院臨床遺伝外来と連携を取っております。遺伝相談なども含め、担当医にご相談ください。

乳腺センター

乳がん治療に必要な診療科を1か所に集約

乳腺センターでは乳がんの専門医はもちろん、手術後の乳房再建を担当する形成外科、薬物療法(ホルモン療法、分子標的薬、抗がん剤治療)を行う腫瘍内科医の外来、遺伝相談外来、超音波検査などが1か所に集約されているため、医療者同士のコミュニケーションが円滑に行われており、また患者さんの動線が短くすみ、ご負担をやわらげています。

その他の関連診療科(放射線科)や部署(病理部、外来化学療法室、薬剤部、がん治療センター、看護部など)とは、定期的にカンファレンスを行っています。
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チーム医療

患者さんの心と身体を最優先に考え、多職種の医療従事者が力を結集

乳腺センターがもっとも力を入れているのが、乳がん専門医、内科医、放射線科医、病理医、看護師、超音波技師、薬剤師など各分野の医療スタッフと連携をとりながら進めるチーム医療です。

順天堂医院乳腺センターのチーム医療①

~診察後の待合室で看護師がフォローします~

がん告知を受けた後、患者さんはさまざまな反応をされますが、その中でも取り乱された方や不安げな方、ご気分が悪そうな方は診察室を出られた後も看護師が付き添い、必ずお声をおかけしてお話します。「医師には話せないことも看護師には話せる」という方は多く、お話の中に治療方針を決定づける大切な情報が隠れていることも少なくありません。このように乳腺センターでは、医師の目が届かない部分を看護師など他の専門職がカバーしていきます。
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順天堂医院乳腺センターのチーム医療②

~看護師が気づいた問題をチーム全体で共有~

乳腺センターでは月1回看護師主導のカンファレンスを開催しています。カンファレンスでは医師が気づかない問題事例を取り上げ、スタッフ全員で共有。対応策を検討します。カンファレンスで発表するためには、その患者さんの治療履歴や治療法をすべて理解しておく必要があり、看護師が医師と同程度まで病気の理解度を高めることにつながっています。
カンファレンス

順天堂医院乳腺センターのチーム医療③

~薬剤師が診察に立ち会い、治療薬を説明~

金曜午後の齊藤光江教授の外来では、薬剤師が同席し、抗がん剤やホルモン治療薬など使用する薬の説明を行っています。薬剤師の説明には、薬剤師ならではの薬理学的な内容や薬の相互作用などが含まれていることがあり、患者さんのご理解が深まるのはもちろん、医師自身の知識が増える効果もあるとのことです。さらに薬剤師が薬剤の選択などを通じて治療法に介入することで、より患者さんとって安全で有効な治療法を提供できるようになります。
チーム医療4

チーム医療とは、単に"作業を分担している""看護師に〇〇を任せている"といった底の浅いものではありません。

両手を組む時に指と指が組み合わさるように、時に他職種の仕事の領分に入り込み、異なる職能を持つ医療者が異なる視点で協働し、ひとつの有機体のような組織として患者さんやその家族・パートナーのために動くことがチーム医療のあるべき姿。
当科では患者さんのために"真のチーム医療とは何か"を追究しています。

乳腺センター 齊藤光江教授
齊藤光江教授

さまざまな支援活動

妊娠期の乳がん

妊娠の初期は治療が難しいのですが、中期に入れば手術も抗がん剤も可能なため、今ではがん治療をしながら出産することも当たり前になりつつあります。妊娠継続を第一に考えつつ治療方針を決めていきますので、安心して乳腺センターを受診してください。
ほかに受精卵の保存、卵子の保存、卵巣の保存などにも対応しています。また、東京都若年がん患者等生殖機能温存治療費助成事業で順天堂医院が指定医療機関となったことから、AYA世代の妊孕性(妊娠するための力)を考えるワーキンググループを立ち上げ、婦人科の北出真理教授を中心に活動しています。

乳がん患者さんの授乳

授乳中の女性が乳がんになった場合、「赤ちゃんに母乳を飲ませてしまったが大丈夫だろうか」というご相談をよくいただきます。がんの転移が消化管から起きることはありませんし、仮に赤ちゃんの胃にがん細胞が入っても胃酸でがん細胞は死滅するのでまったく問題ありません。ただし、乳がんの治療のために、薬で母乳を人工的に止める必要があります。
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遺伝相談

遺伝性のがんや遺伝子診断の第一人者である順天堂医院ゲノム診療センターの新井正美教授により、遺伝カウンセラー養成講座を開講。患者さんのご相談に対応できるカウンセラーを院内で養成しており、複数のカウンセラーが診療にあたっております。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

アドバンス・ケア・プランニングとは、人生の最終段階において、どのような医療やケアを望むのか、患者さんを中心にご家族や医療チームが予め話し合い、意思決定をしていくプロセスのことです。乳腺センターでは月1回の看護師主導のカンファレンスで、アドバンス・ケア・プランニングが遅れている患者さんをピックアップし、乳腺センター全体で一人としてACPについて話し合う機会を逸する患者さんがいないようにと努めています。

がん患者の会

乳がん患者さんの患者会にはさまざまありますが、当科では若年性乳がんの患者会を創始して間もなく20年になり、この取り組みや参加方法もご紹介しています。若くして乳がんになられた方は、中高年の患者さんよりも孤独感が強いといわれています。そのため、希望される方には同じ悩みを持つ仲間と出会える場をご用意しています。コロナ禍では、オンラインで意見交換を行っております。
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セカンドオピニオン

当科ではセカンドオピニオンにも積極的に対応しています。外部から相談にいらっしゃる患者さんには主治医との信頼関係の大切さを伝え、最良の選択をしていただけるよう配慮いたします。転居や設備不足などで転院を希望される場合も、ご遠慮なくお申し出ください。
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患者さんへのメッセージ

齊藤光江教授

医療の進歩により乳がんも大半が治る時代になりました。一方、情報過多となり、情報を取捨選択するのが難しい時代でもあります。患者の皆さまには情報の信頼性は、どのように確認できるのかというご説明は勿論のこと、お一人お一人が、何を大切に生活されていらっしゃり、治療で病気を治されたいと思われるのは、ご自身が大切にされたい何かのためでありましょうが、その目標をあらためてご自身で確認して頂くことが、病気や治療のことを検索すること以上に大切ではないかということをご説明申し上げております。

順天堂医院乳腺センターではスタッフ一同が力を合わせて、そのためのお手伝いをさせていただきます。

乳腺センター 齊藤光江教授