Rapidly progressive glomerulonephritis

急速進行性糸球体腎炎の定義・概念

 厚生労働省進行性腎障害調査研究班と日本腎臓学会で「腎炎を示す尿所見を伴い数週から数ヶ月の経過で急速に腎不全が進行する症候群」と定義されている疾患で、国の指定難病の1つです。
腎臓の濾過装置である糸球体に炎症がおこる病気を糸球体腎炎とよび、蛋白尿や血尿が出現します。その糸球体腎炎のうち、数週から数か月の短い期間に急速に腎機能が低下する病気を急速進行性糸球体腎炎といいます。急速進行性糸球体腎炎は糸球体腎炎の中でも最も重症な腎炎の1つのため、無治療であれば多くの場合末期腎不全に至る可能性が十分にあり、また命に関わる危険性の高い病気でもあります。

急速進行性糸球体腎炎の疫学

小児から高齢者まで幅広い発症がみられますが、中高年に多く、性別はやや女性に多い傾向があります。急速進行性糸球体腎炎は遺伝することはありません。
急速進行性糸球体腎炎は日本での腎臓病のうち約7%(2015年調査)、透析治療を行っている患者さんの0.9%を占めており、透析導入の原因第5位の病気でもあります(2017年末調査)。

急速進行性糸球体腎炎の病因

急速進行性糸球体腎炎にはいくつかのタイプがあり、それぞれ異なった原因で起こると考えられています。代表的な原因としては、白血球という血液の細胞の1つである好中球が所有している酵素に対する抗体と呼ばれる蛋白(抗好中球細胞質抗体、ANCA)や、糸球体の基底膜に対する抗体(抗糸球体基底膜抗体)など自己抗体(自分の身体を攻撃してしまう免疫の蛋白質)との関連性が明らかとなっています。これらの免疫系の異常が関係し、腎臓を含めた全身の小型の血管に強い炎症が起こることが原因と推察されています。

急速進行性糸球体腎炎の症状

腎臓の症状としては、目に見える血尿が出現すること、蛋白尿による尿の泡立ちや尿量が減少することがあり、さらには急速に腎臓の機能が低下します。全身の症状としては、貧血や炎症反応の上昇から微熱・だるさなど(風邪をひいたような症状)の出現、むくみ、関節痛、筋肉痛、疲れやすさ、食欲低下の他、短期間での体重減少などがみられます。進行するにつれ、吐き気、息苦しさ、血痰(痰に血が混じる)、血便(便に血液がまじる)、皮膚の出血、皮疹、手先のしびれ、意識の低下などが出現することもあります。しかしながら、時に自覚症状なく健康診断や人間ドックの尿検査異常で偶然発見されることもある病気ですので、症状がなくとも尿検査異常を指摘されたときは再検査を行うことが重要です。

急速進行性糸球体腎炎の検査所見、診断

急速進行性糸球体腎炎の多くに尿検査で血尿、蛋白尿の他、炎症の強い尿所見を認めます。血液検査では急速に進行する腎機能低下を反映して血清クレアチニン値の上昇、全身性の炎症反応の上昇を認めることがあります。 タイプによっては、胸部レントゲン検査で異常を認めることがあります。

自覚症状や尿検査所見、腎機能の低下などから急速進行性糸球体腎炎と診断した場合には、原因究明のために速やかに腎生検を行います。腎生検の所見は、たくさんの糸球体に半月体(激しい炎症を反映した細胞の増殖する構造物)が観察され、壊死性半月体形成性糸球体腎炎とよばれています。腎生検によって、原因究明だけでなく、腎生検時点で腎炎が発症したばかりのものか進行して時間が経過したものかを判断することができ、治療方針の決定を左右する結果も得ることができます。

急速進行性糸球体腎炎の治療

病気の種類や腎臓の障害の程度、年齢など患者さんの状態を総合的に考慮して治療方法を選択しますが、原因の多くは、免疫の異常のために腎臓のみならず全身に強い炎症を起こしていることから、免疫反応をいち早く抑えることが必要です。
基本的には副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬などの点滴、内服薬を使用しますが、炎症が強い場合にはステロイド大量療法の点滴や、血液の成分を一部交換する治療(血漿交換)を行います。腎臓の機能が回復しなければ血液透析を行うこともあります。

食事療法としては、蛋白質や塩分を制限した食事が必要です。また腎臓の機能が低下し、尿量が減少している時には飲水量の調節が必要となることもあります。 早期に発見し治療開始すれば病気の進行を止めることができます。また、一時的に血液透析が必要となったとしても、他の治療により血液透析を中止できることもあります。しかしながら、発見が遅れてしまうと永久的に血液透析が必要となります。また肺からの出血を合併したりすると、酸素投与や人工呼吸器による管理が必要になることもあります。

日常生活の注意点

退院後は引き続き定期的な通院が必要で、診察と検査(血液検査や尿検査)は必ず受けてください。入院中の治療で副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤などを処方された場合は、服薬を自己中断してはいけません。急速進行性糸球体腎炎は、一旦よくなった後に病気が再び悪くなることがあります(再燃)。病気が再燃した場合には、早期に発見し入院での治療を行うことが必要です。
またステロイドの内服による合併症、特に感染症の予防やその治療が大切となります。