常染色体優性多発性のう胞腎(Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease:ADPKD)

どのような病気

病気の進行に伴い両側の腎臓に多数ののう胞(液体を含む袋)が発生し、年齢とともに増加・増大し、腎臓の機能が徐々に低下する病気です。60歳までに約半数の患者さんが末期腎不全に至ります。診断基準は表1に示すとおりです。


表1

疫学

遺伝性腎疾患の中では一番頻度の高い疾患であり、日本における患者さんの数は約31000人と推定されており、これは約4000人に1人の割合に相当します。

症状や合併症

1)腎症状

多くは腫大する腎臓に由来します。急性の腹痛についてはのう胞の感染や腎実質への感染、尿路結石、のう胞出血などが原因となります。慢性の腹痛は、より腎腫大が進行した例が多く腎被膜の進展や血管系の進展が原因となります。また腎腫大による重量増加から脊椎や筋肉への負担となり、一見関連がないとも思われる部位の痛みに関連することもあります。腰痛や腎腫大に由来する消化管圧迫による腹満感、食欲低下、消化管通過障害、低栄養状態になることもあります。
ADPKDの患者さんにおいては約半数で生涯1回以上ののう胞感染を経験するといわれています。血液や尿路からの感染が多いです。抗菌薬や解熱鎮痛剤などを使用して治療をおこないます。難治性の場合は感染巣部分にチューブを挿入して膿(うみ)を体外に誘導して排泄したり、すでに末期腎不全まで進行して尿が出ない患者さんついては腎摘除術も考慮されます。


多発性のう胞腎のCT画像

2)高血圧症

ADPKDの患者さんは、腎機能が低下する若年から高血圧症を発症することがあります。高血圧を伴う患者さんについては、降圧治療によりたんぱく尿と腎サイズを減少させ、腎機能障害進行を抑制する可能性があり、腎機能や高血圧症の程度に合わせて治療をすることが勧められます。


3)尿異常

尿が赤いことで気づかれることがあります(肉眼的血尿)。約30-50%の症例に認めるとされています。蛋白尿を認めることもありますが、0.3g/日を超える例は20%未満です。大量の蛋白尿を呈する場合は、その他の疾患を合併している可能性などを考えます。


4)腎機能障害

最初に起こる腎臓の機能的障害は尿の濃縮力低下です。ただし、多飲や多尿を訴えない限り気づかれないことが多いです。のう胞により腎腫大が進行すると、腎臓での濾過する力(糸球体濾過量:GFR)が低下していきます。40歳ころよりGFRが低下しはじめ、低下速度は平均4.4-5.9ml/分/年といわれています。末期腎不全に進行すると腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)が必要になってきます。


5)他臓器ののう胞

肝のう胞が最も多い腎外病変です。そのほか、精巣、膵臓、くも膜にものう胞ができることがあります。 肝のう胞は多くの方は無症状ですが、肝臓全体が大きくなるとお腹が張ったり、痛かったり、呼吸が苦しくなるのなどの症状が出る場合があります。その場合は肝臓専門医と相談して治療を検討します。


6)頭蓋内脳動脈瘤

脳動脈瘤とは、脳内の動脈にできた異常な膨らみ(こぶ)のことです。破裂すると、脳出血 (くも膜下出血) を起こし、生命に関わる恐れがあります。ADPKDの患者さんでは、一般の方より脳動脈瘤ができる割合が高く約7倍のリスクがあります。定期的に検査が行われ、脳動脈瘤が見つからなかった場合でも数年に1回の定期検査が必要となります。
動脈瘤が見つかった場合、保存的治療、外科的治療(クリッピング手術・コイル塞栓術)など治療方法がありますが、どのような治療方法の選択がよいかは脳神経外科専門医に相談して決定します。前述の通り、ADPKD患者さんは高血圧を合併することがあるため破裂のリスクを低減するためにも、厳格な血圧コントロールをおこない、適度の飲酒に留めるなどの指導をおこないます。


7)心臓弁膜症

僧帽弁閉鎖不全症は合併頻度の高い疾患であり、約21%に認められます。進行すると心臓や肺に負担がかかり息切れ、呼吸苦やむくみなどの心不全症状、不整脈が出現する場合があります。多くの患者さんは弁置換を要することは非常に少ないです。


8)その他

大腸憩室、鼠径ヘルニア、尿路結石などが合併することがあります。

治療

ADPKDに対する治療

本症に対する、根本的な治療は今のところありません。のう胞が大きくなることを抑制しながら腎機能の悪化を抑制する可能性がある薬剤としてトルバプタン(サムスカ®)があり、当科でも適応のある患者さんに対して本剤による治療をおこなっております。適応基準は「総腎容積が750ml以上であること」と「総腎容積の増加率が概ね1年あたり5%以上あること」となります。開始にあたっては入院が必要となります。水分摂取困難、電解質異常、eGFR15ml/分/1.73m2未満、肝機能障害、妊娠している方などには使用できません。
日常の塩分制限に加えて、必要に応じて降圧剤を使用して血圧コントロールを行います。難治性の場合などは、いくつか薬剤を組み合わせて130/80mmHgを目標として治療をおこないます。

末期腎不全に進行すると、腎代替療法(血液透析腹膜透析、腎移植)が必要となります。ADPKDそのものの治療ではなく廃絶した腎機能を助けるものとなります。詳細は他項(血液透析腹膜透析各項)を参照してください。

腎腫大による圧迫症状や、鼠径ヘルニアなど腹腔内圧上昇に伴う合併症、制御が困難なのう胞出血などに対する外科的治療としては、のう胞に細い針を刺して中の液体を吸引する①腎のう胞穿刺吸引療法があり、この方法ではのう胞内の液体を吸引した後、のう胞の縮小効果を維持するためにエタノールなどの薬剤を注入することもあります。また、腎臓への血流を遮断する②腎動脈塞栓療法があります。これはすでに透析治療、腎移植を受けていて、尿量が1日500mL未満の方が対象となります。腎への血流を遮断するためのう胞や腎臓そのものが小さくなる効果があります。③その他腹腔鏡や開腹による腎摘除術も適応のある場合は考慮されます。

国の難病に指定されており、一定の重症度を満たす場合(*)、申請することで医療費助成の対象となります。詳細は都道府県の担当窓口(保健所など)にご確認ください。申請に必要な書類は難病指定医が作成する必要があります。



(*)
A.CKD重症度分類ヒートマップが赤の部分の場合
B.腎容積750mL以上かつ腎容積増大速度5%/年以上
CKD重症度分類ヒートマップ
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

難病情報センターのサイト  http://www.nanbyou.or.jp/entry/146