筋肉は裏切らない! がん でも運動してイイんです

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・運動のがんの予防・治療・予後の改善に関する報告

運動のがん予防に関する報告

多くの研究が、心疾患や糖尿病などの他の生活習慣病だけでなく、複数のがんに対しても、運動と発症リスクの低下との関連を示しています。したがって、がんも生活習慣病の1つとして捉えることができます。

複数の研究を取りまとめた報告では、膀胱がん、乳がん、大腸がん、子宮がん、食道がん、胃がん、腎がんにおいて、活動的に体をよく動かす人達は、あまり動かない人達と比べて、がんの発症リスクが1221%低いことが報告されています。有酸素運動と筋力トレーニングの効果をまとめた報告では、全てのがん死亡リスクが、有酸素運動の習慣がある人達で11%、筋トレの習慣がある人達で17%、両方の習慣がある人達で28%、運動習慣のない人達と比べてリスクが低いという結果が出ています

一方で、筋トレに関しては「やればやるほど良い」ともいえない可能性があり注意が必要です。筋トレの実施時間と全てのがんの死亡リスクとの関係をまとめた研究では、筋トレの時間が週に30分から90分程度のときに、リスクが最も低く、週に130分を超えると、運動を全くしない人よりも逆にリスクが高いという意外な結果が示されています²。その理由ははっきりとは分かっていませんが、「長時間やる人ほど、使用重量が大きく体に強い負担をかけすぎているのではないか」などの可能性が考えられます。過度の筋トレは、心疾患死亡率や総死亡率の上昇とも関連することが報告されており、がん予防の観点に限らず注意が必要です。

 

運動のがん治療のサポート、促進に関する報告 

 運動にはがん治療をサポートする効果が期待されています。米国臨床腫瘍学会(ASCO)のガイドラインでは、「がん治療中の患者に対して、治療にともなう副作用軽減(倦怠感、心肺持久力・筋力の低下、QOLの低下、うつ・不安症状など)のため、積極的な治療中における有酸素性運動・筋力トレーニングを推奨すべきである」とされています3。実際にこれらの副作用の軽減が確認されています。がんと診断されると、体をいたわるために安静にしたくなるかもしれません。しかし、できる範囲で体を動かすほうが、結果として体をいたわることにつながります。「お大事に」から「お元気に」へ。

副作用の軽減などによって治療の遂行率が向上すれば、治療効果の改善につながると考えられます。肺がん患者を対象とした研究では、呼吸機能低下により手術高リスクと判断された患者に対し、呼吸訓練と有酸素運動からなる術前運動リハビリテーションを実施した結果、手術適応と評価される割合が22.2%から59.1%へ増加しました。実際に54.6%が手術を受け、術後合併症および1年生存率は手術低リスク患者と差がなかったことが報告されています4

膵臓がんの術後化学療法においても、従来の完遂率約53%に対し、筋力トレーニングと有酸素運動を組み合わせた運動を実施した研究では、93%という完遂率が報告されています5。術後の生存率は、化学療法のどれだけ実施できたかと強く関連することが知られています。

また、副作用の軽減だけでなく、運動は炎症、酸化ストレス、免疫機能など、がんの発生や進行に関わる体内の環境に良い影響を及ぼす可能性が報告されています6.7

 

運動のがん治療の予後改善に関する報告

がん治療を終えた方に対する運動の推奨として、国立がん研究センターの「がんサバイバーシップガイドライン」では、倦怠感、抑うつ、持久性体力・筋力、QOLの改善との関連が認められることから、「週150分以上の中強度以上の運動」が推奨されています。

治療後の予後に関しては、化学療法終了後のStage Ⅱ–Ⅲ大腸がん患者を対象とした研究において、「普通歩行~早歩き3045分を週34回程度」の運動の継続を指示した群では、比較対照群と比べて5年無病生存率が高く(73.9 vs 80.3%)、8年生存率も高い(83.2 vs 90.3%)ことが報告されています8

また、がんと診断された後の身体活動量とその後の経過との関連を調べた研究では、乳がん、大腸がん、前立腺がんにおいて、身体活動量が多い人は、少ない人と比べて死亡のリスクが約4050%低いことが報告されています9。ただし、この結果には、病状が比較的軽く、体力が保たれていた人ほど体を動かしやすかった可能性も含まれます。それでも、これまでの研究を全体としてみると、体を動かしている人のほうが経過が良い傾向は一貫して示されています。そのため、無理のない範囲で体を動かすことは、やはり大切であると考えられます。

 

注1:運動とがん治療成績の改善との関連を示す研究は複数ありますが、これらは運動単独の効果を示すものではありません。標準治療を適切に行った上での補助的効果として解釈する必要があります。

注2:がんの種類や病状により、運動が適さない場合があります(例:血液のがんでの激しい有酸素運動、骨転移や骨病変がある場合の病変部位に強い力がかかる運動)。必ず主治医と相談の上実施してください。注3:ここでは一般的なガイドラインと代表的な研究結果を紹介しています。運動の効果はすべてのがん患者さんに一律に期待できるものではなく、がん種、病期、全身状態、併存症、治療内容などにより異なります。

 

1.Med Sci Sports Exerc. 2019 Jun;51(6):1252-1261.

2.Br J Sports Med. 2022 Jul;56(13):755-763.

  1. J Clin Oncol. 2022 Aug 1;40(22):2491-2507.
  2. EClinical Medicine. 2020 Nov 30:31:100663.
  3. J Am Coll Surg. 2022 Dec 1;235(6):848-858.
  4. Nat Rev Cancer. 2017 Sep 25;17(10):620-632.
  5. Oxid Med Cell Longev. 2022 Feb 18:2022:2097318.
  6. N Engl J Med. 2025 Jul 3;393(1):13-25.
  7. Med Sci Sports Exerc. 2019 Jun;51(6):1252-1261.

手軽に実施できる筋トレ、有酸素運動

がん患者さんおよびがん治療中・治療後の方の適切な運動強度・運動量は、がんの種類、ステージ、合併症の有無、さらに個々の体力レベルによって異なるため、一概に示すことは困難です。一般的なガイドラインとしては、アメリカスポーツ医学会(ACSM)では、治療中・治療後を含め、がんと診断された方に対して、「中強度の有酸素運動を週3回以上(130分以上)、筋力トレーニングを週2回以上(1種目あたり815回を2セット以上)」を推奨しています。このガイドラインを1つの目安として、主治医とご相談の上、体調をみながら実施してください。

なお、ここでいう「中強度」とは、「ややきつい」と感じる程度の強さです。少し息が弾みますが、会話はできるくらいが目安となります。

体調と相談しながら無理のない範囲で実施することが重要ですが、慎重になりすぎて運動量や身体活動量が極端に低下することは避けたいところです。体力レベルの低下はQOL(生活の質)の低下と関連し、さらに治療の継続性や生命予後にも影響する可能性があります。

ここでは、手軽に実施できる運動方法を動画で紹介します。運動はホルモン応答や脳血流の増加を通じて、精神面の改善効果も期待できます。さあ、始めましょう。その一歩が、明日の希望につながります。

 

有酸素トレーニング:「“ややきつい”を目安に」

 体調と相談しながら、できることから始めましょう。普段の生活の動作よりも少し強い負荷をかけることが、身体適応を促す刺激になります。これを過負荷の原理といいます。

ウォーキングは手軽に始めやすい運動です。休み休みでも良いので、少し早歩きをしてみる、大股で腕を振って歩いてみる、といったところから始めてみましょう。運動の強さは、「ややきつい」と感じるくらいを目安にすると良いでしょう。ご自身の体力や体調に合わせて無理なく行ってください。

家で行う場合は、その場足踏みが実施しやすいです。腕を大きく振ったり、膝を高くあげたり、少しテンポを速くすることで負荷をあげられます。その逆をすれば負荷を下げられます。自転車漕ぎは、身体にかかる運動負荷に対して、体感する強度が低めで行いやすい運動です。小型で手ごろな価格の製品も増えています。テレビの前においてそれをみながら、気づいたら30分ほど漕げていたりしますよ。

 

筋力トレーニング:「息はあげずに、筋肉にはしっかり刺激を与える」

筋トレは、「息があがる」ような全身の負担を抑えながら、鍛えたい筋肉にしっかり刺激を与える方法が、実践しやすく効果的です。筋肉の力を抜かずにややゆっくり動作を繰り返す「スロートレーニング」は、息を上げずに負荷を高められるテクニックの一つです。

筋力トレーニングに限らず、最初から張り切りすぎることはおすすめできません。身体が馴れていない状態で強い負荷をかけると、激しい筋肉痛が起きやすいからです。まずは動きを覚えるくらいからはじめて、徐々に負荷を高めていきましょう。慣れてきたら、もう反復できない、もしくはその少し手前まで(あと13回できるくらい)頑張ってみてください。動作中は息を止めずに、「吐きながら上げる」ことを心がけましょう。

 

サーキットトレーニング:「心肺機能に負荷をかけながら筋トレを行う」

筋トレは、息はあげずに筋肉にしっかりと刺激を与える方法が実施しやすくおすすめです。ただし、体力に余裕のある方は必ずしもそれに従う必要はありません。しっかりと息をあげて行う有酸素運動の要素を含んだ筋トレ法に挑戦しても良いでしょう。

その一例として、国立がん研究センターが、乳がんの治療をおえた方を対象に実施した「Habit-B」という運動プログラムがあります。habit-Bでは、下半身を中心とした全身を大きくつかった筋トレを20秒間行い、10秒間休憩するサイクルを8回繰り返します。体力レベルに応じて、運動内容を少しずつ調整しながら進めていきます。このプログラムでは、心肺持久力と脚筋力、つまり有酸素運動と筋トレの両方の効果が得られたことが報告されています。

ここでは、Habit-Bの考えを参考にした、息のあがる全身の筋トレプログラムを紹介します。できる人はチャレンジしてみましょう。

 

※いずれの運動も、ご自身の体力と体調に合わせて無理のない範囲で実施してください。特に最初のうちは徐々に負荷をあげて運動に体を馴れさせることを意識しましょう。

 

※動画準備中

・有酸素トレーニング:「“ややきつい”を目安に」

・筋力トレーニング:「息はあげずに、筋肉にはしっかり刺激を与える」

・サーキットトレーニング:「心肺機能に負荷をかけながら筋トレを行う」

お知らせ

8/30(日)に早稲田大学国際会議場にて市民公開講座を開催します(入場無料)

17回国際運動免疫学会シンポジウム において、「がんと運動ワーキンググループ」による市民公開講座「がんでも運動してイイんです」を開催します。入場無料・事前申し込み不要です。ぜひ会場へお越しください。

プログラムには質疑応答の時間も設けております。時間の許す限り、参加者の皆さまからのご質問にお答えします。

シンポジウム ポスターJPEG

※上記ポスターは是非印刷してご使用ください。

「がんと運動ワーキンググループ」メンバー

(順不同)

岡田健一・永滋教・益子太郎・藤野里夏(東海大学医学部消化器外科)、永富良一(東北大学大学院医工学研究科)、門間陽樹(医薬基盤・健康・栄養研究所)、小熊祐子(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター)、澤田亨(早稲田大学スポーツ科学学術院)、大江隆史(NTT東日本関東病院)、篠田裕介(埼玉医科大学医学部リハビリテーション科)、五木田茶舞(埼玉がんセンター整形外科)、華井明子(千葉大学情報データサイエンス学部)、田尻寿子(県立静岡がんセンター)、瀬戸口芳正(みどりクリニック)、苅田達郎(東京都都立大久保病院)、越智英輔(法政大学生命科学部)、 奥松功基(リオールジム)、西畑卓(株式会社ルネサンス)、谷本道哉(順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科/発起人・連絡窓口)

大江 隆史

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NTT東日本関東病院 院長 手外科センター長

岡田 健一

岡田先生 - コピー

東海大学医学部医学科外科学系消化器外科学教授

膵臓・胆道疾患センター長

取り組み:難治がんである膵癌において、集学的治療に併用する運動療法の意義について研究しています。

奥松 功基

奥松先生 - コピー 

リオールジム(代表)

スポーツ医学博士。専門はがん経験者向けの運動サポート。聖路加国際病院と8年間共同研究し、築地と銀座でがん経験者向けのパーソナルジムを運営。

五木田 茶舞

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埼玉県立病院機構埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所) 整形外科長・診療部長

澤田 亨

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早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授

これまでに、有酸素能力とがん死亡の関係をコホート研究によって調査しています。

篠田 裕介

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埼玉医科大学病院リハビリテーション科 教授

田尻 寿子

田尻先生 - コピー 

県立静岡がんセンター リハビリテーション室 技師長

治療の影響で運動しづらい場合に、安全・安心に運動・活動

性を上げる方法について検討しています。

谷本 道哉(発起人・連絡窓口)

谷本web

順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 教授

安全で効果的な筋力トレーニング法について、生理学・力学的側面から探求しています。

永富良一

永富先生 - コピー 

東北大学大学院医工学研究科 名誉教授

体や心の健康と運動の関係をあらゆる角度から探求しています。

西畑 卓

西畑(株式会社ルネサンス がんリハビリ事業研究担当マネージャー) - コピー

株式会社ルネサンス がんリハビリ事業研究担当マネージャー

門間 陽樹

門間先生 - コピー 

医薬基盤・健康・栄養研究所 身体活動研究センター 室長

がんを含む非感染性疾患の罹患・死亡リスクと筋力トレーニングに関するシステマティックレビュー&メタ解析の結果を発表し、厚生労働省から公表されている「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では筋力トレーニングの推奨事項を取りまとめました。

外部リンク

ロコチャレバナー

日本がんサポーティブケア学会 

Exercise Oncology ワーキンググループ

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