広尾学園高等学校(2024年9月2日)
広尾学園高等学校×順天堂大学 夏の研究相談会開催!
-研究医のリアルを語り合う会-
台風10号がようやく去ったばかり、二学期がはじまったばかりの2024年9月2日午後。順天堂大学 本郷・お茶の水キャンパスに、広尾学園高等学校の医進・サイエンスコースの生徒さん約20名が集まりました。
簡単なイベントポスターと先生からのお知らせをもとに、参加を決めてくれた生徒さん。事前アンケートでは参加を決めた理由についてこんな声が寄せられていました。
- 研究医と言う人たちがどのような動機で何を研究しているのか知らないので興味を持った。
- 医者と研究者の両方のお話を聞くことができる機会は滅多にないので、今後どちらの方面に進むか、それとも両方進むという選択肢をとるのか、判断の材料にしたいです。
上記のように、臨床医と研究医の違いや医師の実際の働き方(もっといえば生き方)を知りたいという生徒さんの声は多く、今回のイベントは、研究医に近い働き方をしている医師のキャリアパスの具体例を聴き、生徒さんがそれぞれ進路を選択するうえで、自分の将来像をよりクリアに思い浮かべてもらうことを目的に開催の準備が進められました。
会の企画とモデレーターを人体病理病態学講座の小倉加奈子教授が、老化・疾患生体制御学講座の山下由莉助教が講演を担当しました。あわせて、医学教育研究室・皮膚科学講座の小川尊資先任准教授より、順天堂大学医学部の入試選抜様式のひとつである「研究医特別選抜」について、その設立の趣旨や魅力について説明がありました。
■診療・研究・教育の3つの役割を担う大学の医師たち
直前に参加を決めて駆けつけた数名の生徒さんを含め早々に参集したこともあり、予定の14時開始を少し早めて会をスタートしました。「質問を必ずする、と決めて、主体的に会に参加すること。受け身ではなく会を一緒に作り上げていく、という姿勢を持つことが大事ですよ」という小倉教授からのオープニングメッセージを受けて、広尾学園の生徒さんたちの集中力のボルテージは何段階もあがります。
さらに小倉教授からは、大学に所属する医師の多くが、診療・研究・教育の3つの役割を担っていること。ただし、その3つの役割にかけるエネルギーや時間は、各教員によって異なること。医学研究とひとえにいっても統計学的な研究からインタビューに基づく質的なものまで、遺伝子レベルで病態を解明するものから患者さんなどのインタビューやアンケートをもとにしたものまで、テーマも手法もさまざまであることなど、これから山下先生の話を聞くうえでの前提知識が提供されました。
■面白がることが原動力
続いて、いよいよ山下助教の講演へ。山下先生は、順天堂大学が、医学界を担う医学研究のエリートを育成することを目的に設置した、「基礎研究医養成プログラム」に所属した初代の医学生であり、高校生時代、どんなふうに自分の将来像について考えていたのか、なぜ医学部に進学し、医学部在学中はどんな経験を重ねてきたのか、等々、研究医としての立場に至るまでの具体的なキャリアパスを話しました。
現在は、老化・疾患生体制御学講座に所属し、人体の機能や構造、ひいては疾患のメカニズムに関与する細胞外マトリックスを主なテーマとして研究を行いながら、脳神経内科医として患者さんの診療にもあたり、充実の日々を送る山下先生。「とにかく面白がって、何でも臆せず挑戦してみる」重要性をtake home messageとして最後に生徒さんに示しました。
山下先生の講演後は、たっぷりと時間をとって質疑応答へ。広尾学園の生徒さんは次々と手を挙げて、山下先生に実に様々な質問を投げかけます。
「診療と研究はどういうふうにバランスを取っているのですか」
「研究のモチベーションを保つにはどうしていますか」
「研究医になるうえで、高校時代にどんなことを経験しておいた方がいいですか」
「論文の読み方について教えてください」
研究医と臨床医の違いや研究医の仕事の内容についてほとんど知らなかった生徒さんでしたが、山下先生の話を聴いたことで、積極的に具体的で本質的な質問をし、気づけば、質疑応答の時間は講演時間以上に。山下先生の話をさらに深掘りして理解しようとする粘り強い姿勢が頼もしい生徒さんでした。
■巨人の肩に乗る
研究医について理解が深まると憧れも強くなり、自ずと気になるのが順天堂大学医学部の入試要綱。ここで、医学教育のエキスパート、小川尊資先任准教授の登場です。
巨人の肩に乗って世界の真理を眺められることを夢見て、多くの研究者は昨日の失敗から立ち直り、日々研究室へと足を運びます。Google Scholarのサイトを提示しながら話し出す小川先生。
医学研究論文がひとつ報告される過程には、数十の論文が参考に、参考論文それぞれにもまた数十の論文が参考にされている…。医学研究は、まさに“巨人の肩”、先人たちの知恵と努力の積み重ねの上にあります。臨床医が患者さんに処方する薬に代表される様々な診療の武器は、基礎研究医の地道な研究のもとに開発されたものばかり。研究医による基礎研究がなければ、臨床医は満足に患者さんの診療を行えないと小川先生は続けます。
そういった理念や危機感のもと、順天堂大学医学部がいったいどういう教育方針を掲げて、様々な医学教育カリキュラムを展開しているか、その詳しい内容について説明が続きました。特に、山下先生が選択された「基礎研究医養成プログラム」の概要や入試要綱にある「研究医特別選抜」について詳しく説明しました。
今回集まった広尾学園高等学校の生徒さんは、日頃より様々なテーマの研究を行っており、もともと研究マインドの高い生徒さんが多く、研究医特別選抜や基礎研究医養成プログラムにも興味津々の様子。小川先生の説明の後も、様々な質問が飛び交い、会の終了後も個別で相談をしてくる生徒さんが後を絶ちませんでした。
医学研究のエキスパートが今日集まった生徒さんの中から誕生するかもしれない。そんな予感しかない充実の研究相談会となりました。