スポーツをする上で知っておきたいのが、自分の身体のこと。女性の場合は特に、女性特有の身体の機能や特徴をよく理解し、対処する必要があります。そこで今回は、男性との身体の違いや女性ならではの特徴について、鯉川なつえ順天堂大学スポーツ健康科学部先任准教授(女性スポーツ研究センター副センター長)にお聞きしました。
鯉川 なつえ
順天堂大学スポーツ健康科学部先任准教授
同大陸上競技部女子監督。
主な研究テーマは、スポーツにおける疲労の血液生化学的研究および女性トレーニングに関する研究。
競技力アップにかかせない3原則とは
女性でも男性でも、スポーツをする際に目指すのは競技力のアップです。そのために欠かせないものが3つあると鯉川准教授は言います。
「それは『トレーニング』と『栄養』と『休養』です。たくさん練習したらしっかり休養し、栄養を摂る。そして身体が回復したら、また練習する。この良いサイクルを続けることで、女性も男性も、競技力が向上していくのです」
しかし、女性と男性ではこのバランスの取り方に違いがあるのだとか。
「まず、一般的に男性は女性に比べて筋力があり、体力もあるため、疲労からの回復が女性よりも早いのです。また、男性アスリートの場合、練習後はしばらくご飯が食べられなくなるほど、極限まで自分を追い込むトレーニングができるのに対して、女性は自分の身体を防御する力が作用するため、トップアスリートであっても、ご飯を食べられなくなるほど自分を追い込むことは難しいのです。だからトレーニングの強度よりも頻度を上げる方が効率的といえます。また、食事も一般的に女性は1回で食べられる量が少ないので、数回に分ける工夫も必要です。このような男女の違いを理解した上で、『トレーニング』『栄養』『休養』の摂り方とバランスを考える必要があるでしょう」
男女における身体の発達の差
こうした男女の身体の違いは、小学生の頃からすでに見られると鯉川准教授は言います。
「女子と男子では身体の発育速度が異なるのです。具体的には、身長や神経伝達、敏捷性などが伸びる時期が、女子の場合は男子より2年ほど早く訪れると言われています。そのため、スポーツでも高い競技力に達する時期が、女子は男子より2年早くやってきます。ですから、それに合わせてトレーニングの内容も考慮する必要があるというわけです」
こうして発育がピークに達した女子の身体では「月経」が始まります。
「初潮を迎えた女性の身体は、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)といった女性ホルモンの分泌が高まります。そして、女性ホルモンが分泌されると、身体は脂肪を溜め込みやすくなります。そのため、女性の体脂肪率の目安は男性より10%も高くなっているのです」
女性ホルモンの中でも、女性らしい身体の維持に大きく関わるのがエストロゲンです。ところが、一生涯で分泌されるエストロゲンの量はティースプーン一杯分ほどと、とても少ないそう。
「つまり、女性の身体はごく微量な女性ホルモンの変化に大きく影響を受け、月経が来たり来なくなったりするものだということ。しかし、エストロゲ ンも月経も、女性の身体にとって、とても大切な機能です。血行や肌ツヤをよくしたり、骨を丈夫にする機能があるエストロゲンは、言ってみれば『女性の身体を守ってくれる存在』。月経は、エストロゲンが分泌されているという証でもあるのです。こうした女性と男性の身体の違いをしっかり理解した上で、『トレー ニング』『栄養』『休養』のバランスを上手に取って、ぜひ競技力アップにつなげて下さい」
女性ホルモンの中でも、女性らしい身体の維持に大きく関わるのがエストロゲン。生涯で分泌されるエストロゲンの量はティースプーン一杯分ほど。
雑誌やWEBにて、女性の心と身体をテーマに取材や執筆を行う。
著書に「働く女のスポーツ処方箋」(グラフ社刊)などがある。