東京五輪・パラリンピックを5年後に控え、日本における女性コーチの在り方を考える「女性スポーツリーダーシップカンファレンス2015」は2月14日、多数の方にお集まりいただき大盛況のうちに終了しました。欧米で先行する女性コーチやリーダーに向けた取り組みを、プログラムの責任者から直接伺って世界の流れを知り、その後、日本を代表する女性トップコーチたちがパネルディスカッションするという刺激的な内容でした。
パネルディスカッションで第一生命陸上部の山下佐知子監督は、31歳で監督に就任して以来「子供を持つという選択肢はなかった」とした上で「この考え方は女性として普通じゃなかったと、今になって気がついた」とおっしゃいました。
日本には家庭を顧みず仕事をするという働き方があります。いわゆる「男社会」の思考でスポーツの世界も同じです。女性がコーチとしてキャリアを積むとき、この考え方に知らず知らずのうちに縛られてきました。仕事をするのに性別は関係なく、女性コーチも「指導をしたいから指導しているだけ」なのですが「女だからできない」とは言われたくないという思いもある。それが家庭を持ち母になることを躊躇させることにつながっていたのかもしれません。
でも、何かを諦めるなんて、もうやめていいと思いませんか?
シンクロナイズドスイミングの五輪銅メダリストでメンタルトレーナーとして活躍する田中ウルヴェ京さんは客席から「ライフワークバランスというと、日本人は仕事と家庭を天秤にかけるものだと考えてしまう。でも、そうではなくて相乗効果を持つということです」と発言されました。仕事を持ち、妻と母の役割も果たすとき、それぞれが30%に減ってしまうのではなく、100%が3つ、つまり300%になるという考え方です。「様々な顔を持つから、重みが出てくるし、人としての迫力があるのです」
パネリストのひとり、杉山芙沙子さんがロールモデルでしょう。主婦だった芙沙子さんが娘でテニスの元トッププレーヤー、愛さんの指導を始めたのは40代になってから。愛さんはそのときのことをよく覚えていました。スランプで自分を見失っていた愛さんが「ママには私が進む道が見える?」と尋ねたところ「見えるわよ」と力強く簡単に答えたというのです。愛さんのコーチとなった芙沙子さんは細やかな心配りで精神的な成長をサポートしました。現在も20歳の女子選手を指導していますが、その際「多忙なので海外遠征には一緒に行けない」と条件をはっきり伝えています。それでも選手は芙沙子さんの指導を仰ぎたいと頼んだそうです。
コーチとして実力を付け活躍する一方で、プライベートも充実させる―
夢ではなく実現させましょう。
今回のカンファレンスで紹介していただいた米国と英国、それにカナダのプログラムに共通していた項目は「自己の確立」「コミュニケーション力の向上」「スキルアップ」「ライフワークバランス」「男女の共生」「ネットワーキング」―といったことでした。「自己を確立して自信を持った女性コーチがコミュニケーション力と指導技術を上げる。そして、仕事と家庭の両立をはかり、男性を味方に付ける。さらに仲間と結びつき情報交換をする」。成功へのシナリオといっていいでしょう。
今年9月、私たちは「女性コーチアカデミー」を創設します。欧米の仲間たちが作ったシナリオを参考にしつつ、繊細で和を尊ぶといった日本人女性の特性をいかに引き出すか。これがプログラム作りの大きなテーマです。新しいスポーツ文化の創設ともいえるプロジェクトにどうぞご期待ください。
文責:女性スポーツ研究センター(JCRWS)