スポーツは、平和と開発を促し、寛容と相互理解を育むとして、国連は「開発と平和のためのスポーツ(Sport for Development and Peace;SDP)」の活動を実施・奨励しています。この中で注目されているのが、障がい者に対する活動です。経済的、物質的に乏しい開発途上国において、障がい者に対する支援は多くありません。そこで、ザンビアの非政府組織(NGO)であるNOWSPAR(ナウスパと読む)では、国連のSDP活動を支持・実践しています。このような趣旨のもと、NOWSPARは、障がい者の擁護と社会進出を支援している団体であるMiracle Disable Groupとパートナーシップを結び、共にプロジェクトを実施しています。今回は、Miracle Disable Groupが活動の拠点としているジョージコンパウンドといわれる地域を訪問した際のことをご紹介します。
NOWSPARは、2012年からMiracle Disable Groupとパートナーシップを結び、スポーツを通した「Kicking AIDS OUT (HIV/AIDS教育プログラム)」、「GOAL(女の子のエンパワーメントプログラム)」「Girl Powerプログラム(ジェンダーに基づく暴力撤廃プログラム)」の実施や、スポーツ用品の寄贈、スポーツ指導員の派遣等を行っています。
Miracle Disable Groupは、約300名のメンバーから構成されており、障がい者が地域社会で阻害を受けないように、障がい者を守るためのルールつくりを検討し、障がい者のためのプロジェクトを実践し、障がい者の擁護と社会進出を支援している団体です。Miracle Disable Group は、都市部から車で約30分離れたジョージコンパウンドと呼ばれる低所得層が集まる政府無計画居住区で活動を行っています。ジョージコンパウンドは賃料や物価が安いことから、多くの障がい者が暮らす地域の1つとなっています。
Miracle Disable Group代表を務めるミンデゴさんにお話を聞くことができました。彼女自身も障がいを持っていますが、障がい者にとって、NOWSPARのような外部団体と一緒にスポーツをするということは、大変大きな意味を持つそうです。基本的に開発途上国で暮らす障がい者の方々は、バリアフリーの町づくりが発展していないことから、公共の交通機関を利用できず、ましてやタクシーを手配するお金もないため、自分たちの生活圏の外に出る事はできないのです。そのため、大変狭いコミュニティでの生活を余儀なくされています。
NOWPSARのスタッフとして、日本人の私がジョージコンパウンドを訪問した際は、大変な歓迎をしてくれました。ここに暮らす障がい者たちは、NOWSPARのスタッフがジョージコンパウンドを訪れることで、新しい人に出会い、ネットワークを広げることができます。
また、健常者と同じスポーツ、身体活動を行うことで、地域社会に受け入れられやすくなります。重度な障がいを持っていて、一緒にスポーツができなかったとしても、同じスポーツを観戦すれば、会話を弾ませることができます。ジョージコンパウンドでは、障がい者と健常者が一緒にスポーツを楽しむことが、NOWSPAR やMiracle Disable Groupの活動のおかげで当たり前になっているように感じました。
ジョージコンパウンドで生活する20代の健常者の男性2人にもインタビューをすることができました。彼らは、ミンデゴさんやMiracle Disable Groupのメンバーによる活動に、勇気を与えられていると話してくれました。低所得地域では、若者の失業率が非常に高く、働き盛りだけれど職に就けない若者が増えているという現状にあります。インタビューに応じてくれた2人も失業中でした。彼らは、ミンデゴさんのように障がいを抱える女性がスポーツを通して地域を活性化している姿に大変影響を受け、自分たちが地域のためにできることが必ずあるはずだと、NOWSPARとの関わりについて積極的に質問をしてくれました。若く機動力のある彼らが、NOWSRER、Miracle Disable Groupの活動を通して、アクションを起こしてくれることを期待します。
低所得地域に住む障がい者の生活は、決して整っているとはいえません。日常的に使用する車いすや松葉杖などといった医療機器も不足しています。彼らが使用している機器・用具類は全て古いもので、さらに、障がい者アスリートが競技スポーツをするための用具などにいたっては、まったくないといっていいでしょう。このような地域では、まずは、スポーツを通して、障がい者の社会進出を促し、障がい者がスポーツや身体活動に触れる機会を創出していくことが先決です。ジョージコンパウンドのような地域からこそ、パラリンピックに出場するような選手が輩出されれば、健常者や障がい者、すべての人に活力を与え、本当の意味での「スポーツを通した共生社会の創造」が実現するのではないでしょうか。スポーツは、そうした力を持っているのです。

米国・フランクリンピアス大学経営学修士課程(MBA) 2014年修了。2014年スウェーデンの女子プロサッカーリーグでプレー。
2015年1月から6月までザンビアの女性スポーツNGO(非政府組織))NOWSPARにおいてインターンシップ。