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ミトコンドリアで脳梗塞・認知症治療法を開発

世界有数の神経学講座が進める
隠れ脳梗塞への画期的アプローチとは

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代表研究者(左)

服部 信孝

大学院医学研究科神経学 教授

研究者(右)

宮元 伸和

大学院医学研究科神経学 准教授

2020年11月にNewsweek誌にて発表された「世界の優秀な病院ランキング(World’s Best Specialized Hospitals 2021)」の神経学分野で国内1位、世界でも10位に選出された順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下、順天堂医院)の脳神経内科。その中でパーキンソン病研究と並んで最先端の研究が行われているのが、脳血管障害の分野です。同科のグループが進める「ミトコンドリア・ダイナミクス」に着目した研究テーマ「機能的ミトコンドリア制御による虚血性脳白質病変の制覇」について、研究代表者である宮元伸和准教授が解説します。

順天堂神経学講座は臨床・研究とも世界トップレベル!
究極のキュアを目指して挑戦を続けます(服部信孝)

順天堂大学医学部神経学講座は「すべては患者さんのために」を合言葉に、世界有数の臨床レベル・基礎研究レベルを維持しています。とりわけ神経難病であるパーキンソン病や、生活習慣病に伴う脳血管障害という2大疾患に日々チャレンジしているのが、我々神経学講座のスタッフです。今後も究極のキュアを目指した治療と研究を続け、トップランナーであり続けたいと考えています。

順天堂神経学講座は臨床・研究とも世界トップレベル!
究極のキュアを目指して挑戦を続けます(服部信孝)

未病の人の脳にも潜む「隠れ脳梗塞」。「いかに防ぐか」ではなく、「いかに元に戻すのか」に挑戦

順天堂医院脳神経内科には、脳梗塞の患者さんが年間250~300人程度来院されます。私は臨床医として脳血管障害の患者さんを診療していますが、元気に暮らしておられる方であっても、高血圧症や高コレステロール血症などにより動脈硬化が生じて細い血管が詰まり、ご本人に自覚がない小さな脳梗塞=「隠れ脳梗塞」が起きていることがよくあります。こうした患者さんの脳をMRIで撮影すると、ほとんどの場合、大脳の中に「白質病変」と呼ばれる白く映る部分が見られます。従来の治療は、この「白質病変をいかにして防ぐか」、つまり「隠れ脳梗塞をいかにして防ぐか」でした。しかし私たちは今、「白質病変をいかにして元の健康な状態に戻すか」という壮大な課題にチャレンジしています。この課題解決に向けて着目したのが、細胞内の小器官である「ミトコンドリア」です。

ミトコンドリアが移動し、他の細胞を活性化させる「ミトコンドリア・ダイナミクス」とは

学生時代に生物の授業で「ミトコンドリア」について習った記憶がある方は多いでしょう。ミトコンドリアは私たちの体内で赤血球を除くすべての細胞に存在する小器官です。ミトコンドリアの機能の一つは、各種の細胞が様々な働きをするために必要なエネルギーを産生することであり、私たちはこのエネルギーにより生命を維持し、日々の活動を続けることができます。私たちの研究グループは、正常なミトコンドリアが細胞を超えて異常なミトコンドリアをもつ細胞に移動し、ミトコンドリアの機能異常によりエネルギー産生能が落ちた細胞を蘇らせる生命現象(これを「ミトコンドリアダイナミクス」と呼んでいます)があることを発見し、2020年に科学ジャーナル誌『Glia』に発表しました。
私は脳の白質病変の解消を目指すため、脳神経組織の様々な細胞におけるミトコンドリアに着目しました。脳には神経細胞とグリア細胞があり、グリア細胞にはアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアという細胞があります。これらの細胞の中にももちろんミトコンドリアが存在し、「移動する」ことが近年わかってきました。そこで私たちは、グリア細胞のうち、アストロサイトとオリゴデンドロサイトにターゲットを絞り実験を続けています。

研究の先に描く夢は。
健常なミトコンドリアを投与する、あるいは、移動させる新たな治療法の開発

この研究内容を医師仲間や研究者に話すと、「ミトコンドリアが移動する」という点に驚かれる方が少なくありません。実際、ミトコンドリアダイナミクスと脳梗塞を関連づけて研究する機関は、現時点では順天堂大学だけだと思います。
脳梗塞などの虚血性脳障害の一番の問題点は、エネルギー制御です。脳の血管が詰まり、充分な血液、すなわち酸素や栄養が供給されなくなることにより、エネルギーが枯渇することが一番の問題なのですが、エネルギー産生器官であるミトコンドリアを、患者さんに投与すれば細胞が生き残れる可能性があります。ただしミトコンドリアでは、酸素を用いてエネルギーを産生する際に人体にとって毒である活性酸素も産生されるため、そこは慎重にチェックしなくてはなりません。
あくまでも私の考えですが、機能が低下し形態をしっかり保っていないミトコンドリアが他の細胞へ移ると、移動先でかえってダメージを与えてしまう可能性があります。一方で、健常なミトコンドリアを障害のある細胞に移動させることができれば、細胞はエネルギーを獲得し、再び活性化することができるのではないか、と考えています。つまり、この研究を進めていけば、ミトコンドリアを投与する、あるいは、移動させる新たな治療法が開発できるかもしれません。あらかじめ健常なミトコンドリアを集めておき、発症したときに投与する。あるいは体内の健常なミトコンドリアの移動をコントロールする薬剤を開発し、それにより患者さんを治療できる…。現時点ではまだまだ夢の段階ですが、本研究の先にそんな未来を描いています。

脳梗塞だけでなく、多くの神経難病や認知症の超早期治療に貢献できる可能性も

ミトコンドリアダイナミクスを利用した治療法がもし開発されれば、恩恵を受けるのは脳梗塞の患者さんだけではありません。多発性硬化症や神経髄膜炎もそうですし、ミトコンドリア異常により発症する遺伝性パーキンソン病も治療が可能になるかもしれません。ほかにミトコンドリア自体に異常があるミトコンドリア脳筋症やアレクサンダー病などの難病の治療法も見つかる可能性があります。さらには患者さんが急増する認知症もその対象です。完全に認知症になってしまうとなかなか難しいのですが、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)であれば改善できるかもしれません。こうした超早期の診断と治療により、多くの日本人がかかる病気を未然に防げる可能性があるのです。

脳梗塞発症後の患者さんを救いたい!臨床での想いが研究のモチベーションに

もともと私は脳神経内科医として、脳梗塞の患者さんを数多く担当してきました。現在の医療の現場では、一度脳梗塞を起こしてしまうと、血栓溶解療法なら発症から4.5時間以内、血栓回収療法なら6時間以内に治療を開始した患者さんしか改善させる方法がありません。つまり、超急性期を逃してしまうと、その後は脳梗塞を広げない治療へと切り替わり、症状の改善につなげることがなかなか難しくなるのです。患者さんを治して差し上げたいのに、どうにもできない現状があることに、いつも医師として忸怩たる想いを抱き続けてきました。そのため、「超急性期を過ぎた患者さんに効果的な治療法をご提供したい」という想いが常にあり、そこが研究のモチベーションでもあります。
もし将来的にミトコンドリアダイナミクスを活かした治療法が開発されれば、発症してしまった脳梗塞も治せるようになるかもしれません。実現すれば患者さんにとって何よりの福音ですし、ご家族のご負担も減り、国の医療介護費の軽減にもつながります。そんな夢を描きながら、日々臨床と研究に励んでいます。

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