インタビュー

2020年02月10日

迫りくる大災害の「想定外」に備える! 世界基準の医療機関BCMを浦安病院が推進

近い将来、発生が予想される大地震。かつてない勢力で日本列島に上陸する台風。身近で起きる水害......災害時にも病院が必要な医療を提供していくために、順天堂大学医学部附属浦安病院(以下、浦安病院)では他の医療機関に先駆けた取り組みが進んでいます。浦安病院のBCM(事業継続マネジメント)運営委員会で統括者を務める同院救急診療科・岡本健教授と川島徹事務部長に、災害時の医療機関の事業継続について話を聞きました。

岡本 健 教授   
順天堂大学医学部附属浦安病院救急診療科/医学部救急・災害医学研究室
1986年大阪大学医学部卒業、医学博士(1992年)。専門は、救急医学、外傷外科、災害医学。

川島 徹 事務部長
順天堂大学医学部附属浦安病院事務部
東日本大震災時(2011年3月)、健康管理室課長。同年10月に、事務部次長。2014年9月より、事務部長。
2011年に厚生労働大臣表彰。
2009年日本DMAT隊員登録(業務調整員)

医療関係者がBCMエキスパートの国際認定資格を取得。世界標準の事業継続マネジメントのモデルケースに!

自然災害、パンデミック、コンプライアンス違反、スキャンダルなど、組織の存続を脅かす危機的事態に対応し、組織の事業を速やかに復旧・再開させるための手順「BCP(事業継続計画)」。近年相次ぐ大災害を受けて、BCPを策定済みの企業も増えつつあります。しかし、実はその大半が、実際の危機発生時に計画どおりに機能しないと危惧されています。

そこで浦安病院では、日常的なインシデントから大地震まで、起こりうるあらゆる脅威に対して組織のレジリエンスを高める「BCM(事業継続マネジメント)」に着目。BCMの運営を外部に委託するのではなく、岡本教授と川島事務部長がBCMの専門教育を行う国際NPO法人DRI(Disaster Recovery Institute)社の講習を受講。国内の医療関係者としては初めて、それぞれCBCP(Certified Business Continuity Professional)、ABCP(Associate Business Continuity Professional)というプロフェッショナル認定資格を取得。院内のBCM統括者としてBCMを推進しています。

「DRI社は米国ニューヨークに本部を持ち、世界100か国以上で15,000人以上の認定資格者が活躍する、この分野の世界的権威。国内でも大企業約150社の認定資格者が養成されていますが、国内の医療機関で資格者がいるのは当院だけです」と語るのは、岡本教授です。

「DRI社にとっても、医療版のBCMはこれまでに経験がなく、今後広めていきたい分野です。そのため当院のBCMがそのモデルケースとなるべく連携を深めているところです」(岡本教授)

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災害時の医療機関を襲う特殊な状況とは?

医療機関のBCPは、一般企業に比べて特殊な面が少なくありません。

まず、災害発生直後から多数の傷病者を受け入れたり、DMAT(災害派遣医療チーム)を派遣するなど、通常時を上回る臨時業務が発生します。さらに時間経過とともに必要とされる医療の量・質が変化します。例えば、発生直後の急性期ではけがや低体温症などの患者さんが大多数ですが、その後は長期の避難所生活者に対する慢性疾患の診療や感染症の対応など公衆衛生が中心になります。また、一般企業はニーズの少ない業務を一時的にストップすることが可能ですが、医療機関では災害直後であっても血液透析やインシュリン注射が必要な患者さんなど、少数例だからという理由で治療を中断することはできません。他にもスキルや経験を持つ人的資源、医薬品・医療器具などの物的資源、患者情報や被災地情報などの情報資源が不可欠であり、普通の企業よりもはるかに負荷がかかります。

「それでも、患者の命を預かる医療機関では、"BCPを作ったものの機能しなかった"では済まされません。そのため、院内でもBCM講習会や勉強会を定期的に開催し、全職員にBCM教育の徹底を図って、病院の"文化"にしたいと考えています」(岡本教授)

全職員挙げて「リスク評価」を実施。病院機能評価で最高「S」ランクを獲得!

BCMにおいては、BCPは一度作成したからといって終わるものではなく、PDCAサイクルのもとに定期的に更新する成果物のひとつに過ぎません。2018年12月、浦安病院は、同様にBCMの基本項目のひとつで、BCP作成過程に必須となる「リスク評価」を実施しました。全部署にアンケート調査を実施。徹底的にリスクを洗い出したところ、「入院患者の転倒・転落」、「震度6以上の大地震」など、56種類ものリスクが確認されました。そこで川島事務部長を中心に、全リスクの中から特に優先度の高い17のリスクを選定。現場でヒアリング調査を行い、「どのような対策が必要か」「コストはどれぐらいかかるのか」など現状を確認し、対策の強化に努めています。

「優先すべき17のリスクについては、今回41項目の強化策が提案されました。BCPを絵に描いたモチで終わらせてはなりません。しっかりとBCMに基づいたステップを踏み、ブラッシュアップしていく必要があります」(川島事務部長)

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また、災害時に気になるのは人員の確保ですが、浦安病院は同じ浦安市内に住む職員が800人以上に上ります。メールや緊急連絡網を使って参集訓練を実施したところ、3時間以内に約900人の職員が病院に集結。およそ1500人の全職員のうち、6割が3時間以内に出勤できることがわかり、非常時の人員対策も万全です。

こうした取り組みが評価され、浦安病院は公益財団法人日本医療機能評価機構による病院機能評価における「効率的・計画的な組織運営」の項目において、最高の「S」ランクを獲得。「独自のBCMが、地域の基幹病院としての役割・機能を可能な限り維持していくことを目指している」と高い評価を受けました。さらに今後はDRI社が認証する「レジリエント(強靭で復活力のある)な組織」の証明「REAP」や、事業継続の国際標準規格ISO22301の取得も目指しています。

災害に「想定外」はつきもの。あえて想定することで、非常時に備える

このように着実にBCMの取り組みが進む浦安病院ですが、川島事務部長は「想定外の事態に備えることが重要」と強調します。

例えば東日本大震災の際、浦安病院は地震発生後4分で災害対策本部を設置。約1時間後には全館のライフラインを確認し終え、災害用テントを設置するなど、あれほどの大災害にも関わらず日頃の訓練どおりに対策が進みました。ところが、建物は無傷なのに想定外の「断水」が発生。結果的に上水道は復旧するまで3日間、下水道に至っては11日間を要しました。

断水中の浦安病院が使用できる水は貯水槽に残留した約300tのみ。そこで行政から1日40~50tの給水を受ける一方で、徹底した節水対策を実施。普段なら1日300tを使用するところを、血液透析や入院患者さんの飲料水など優先度が高い用途の185tに集約。水を使う器具の洗浄や滅菌は順天堂東京江東高齢者医療センターに依頼するなど、緊急の対応を行い難局を乗り越えました。

さらに、各地に記録的な豪雨をもたらした2019年10月の台風19号を受けて、これまでは想定していなかった台風水害も急遽、優先リスクに追加。「近隣の川が氾濫し、地下1階が水没した」と想定した机上訓練を予定しています。

「当初は当院周辺のハザードマップ上、浸水害のリスクを想定していませんでしたが、気候変動により状況が変わりつつあります。何が起きるのか。どんな対策が必要か。訓練には全部署のリーダーが参加し、知恵を出し合う予定です」(岡本教授)

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順天堂大学浦安病院DMAT隊が被災地へ緊急出動!

岡本教授は救急災害医学が専門で、阪神・淡路大震災も経験。2008年に浦安病院へ着任後は、川島事務部長と二人三脚で災害時の医療体制の充実に努めてきました。順天堂大学浦安病院DMAT隊(以下、浦安病院DMAT隊)の活動もそのひとつです。

DMAT隊は医師・看護師・業務調整員が5名程度でチームを組み、被災地へ派遣されます。浦安病院DMAT隊の正式隊員は、医師5名・看護師5名・業務調整員3名の計13名。さらに千葉県限定DMATとして、5名近い隊員が登録され、2020年現在、およそ40名の隊員が災害時に被災地で医療活動ができる体制を整えています。

岡本教授は医師として、川島事務部長は業務調整員として日頃から訓練に励み、東日本大震災では浦安病院DMAT隊が福島空港の広域搬送業務を担当。津波が原因で低体温症となった被災者を福島空港⇒羽田空港⇒都内の病院へと搬送する際の医療業務を担当しました。さらに発災から1か月程度、浦安病院DMAT隊員を中心に5名ずつ1週間交代の医療救護班を編成し、激甚な被害があった宮城県南三陸町などに派遣して医療救護活動を行った実績があります。

災害危険地域にあるからこそ本気で災害医療に取り組む

2019年9月の台風15号の被害では、停電で機能停止に瀕した千葉県市原市の療養型病院へ急行。現地で災害対策本部を立ち上げ、自家発電燃料の軽油を確保したり、暑さで熱中症になった患者さんを転院させるなどのミッションを遂行しました。お2人の言葉からも、災害医療にかける意気込みが伝わってきます。

「DMATはどこかで震度5強以上の地震が起きると、いつ何時でも私たちの携帯電話に連絡が入る仕組みです。隊員はただちに3日分の着替えと飲食料を持って病院に向かい、出動命令に備えて待機します」(川島事務部長)
「浦安市は首都直下地震の震源地に近く、東日本大震災で液状化を起こした地域でもあり、災害危険地域に当たります。東日本大震災で職員自ら被災を経験したこともあって、普段から災害への意識や危機感が高いのです。日本全国に数多くのDMATが存在しますが、当院は本気で災害医療に取り組むDMATであることを、ぜひ知っていただきたいです」(岡本教授)

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順天堂大学医学部附属浦安病院

千葉県浦安市富岡2丁目1番1号 TEL:047-353-3111(代表)

昭和59(1984)年、千葉県浦安市に開院した順天堂大学医学部附属病院。平成7(1995)年からは、浦安市・市川市における高規格救急車の導入による救急医療も引き受けている地域の中核病院です。環境医学研究所も併設され、研究体制の強化を進めています。

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