インタビュー

2020年02月14日

診療実績日本一! 最先端の関節治療を提供する順天堂のPRP外来

患者さん自身の血液から血小板を取り出し、患部に注入するPRP(多血小板血漿)療法。アスリートのひざ・ひじなどの故障や、加齢とともに増える関節炎などに効果的な治療法として、大きな注目を集めています。順天堂医院整形外科・スポーツ診療科の齋田良知准教授がPRP療法を紹介した前回の記事から1年あまり。その後の反響や研究の進展について語ります。

予約殺到のPRP外来。約60%が関節痛から解放へ!

2018年4月にTV番組でPRP療法が紹介されて以来、私たちのPRP外来は予約でいっぱいの状況が続いています。大変心苦しいのですが、新規患者さんの来院予約は常に半年以上先まで埋まっており、既存の患者さんの診療だけでも多忙を極めています。

この1年間の診療実績は、注射件数レベルで約5,000件。1人の患者さんが23回とPRP注射を打たれるため、患者数はこれより少なくなります。

ちなみに、5,000件というPRP療法実績数は国内第1位。

患者さんは日本全国から来院され、私が担当した方も北は北海道・利尻島から南は沖縄・宮古島まで。台湾からの患者さんもいらっしゃいました。

PRP療法で効果がある方は、関節痛の患者さん全体のおよそ60%。関節の変形が軽い患者さんの場合は約70%に効果がありますが、軟骨が擦り減り、骨と骨の間の隙間がなくなっている患者さんの場合は約50%ほどです。50%を多いと見るか少ないと見るか、人により評価の分かれるところです。

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「患者さんは日本全国から来院され、私が担当した方も北は北海道・利尻島から南は沖縄・宮古島まで。台湾からの患者さんも」

研究の成果を臨床に応用。「PRPのカスタムメイド」が進む!

PRP注射の回数は3回が目安で、3回打つと効果がある人・ない人に分かれます。その原因を調べるため、個々の血液中の物質がどのように治療効果に影響を及ぼすのか、研究を進めています。この研究テーマ「スポーツ外傷・障害に対する多血小板血漿療法の治療効果規定因子の解析」は2019年度から3年間、科研費基盤Bの対象にもなりました。

それ以前の研究では、同じ血液から作るPRPでも製法により効果が異なることに着目。その研究成果を臨床に応用し、現在、当院では以下の3種類のPRPを使い分けています。

①白血球が少ないPRP

②白血球が多いPRP

③白血球が多いPRPを脱水処理したもの

白血球には炎症をわざとひき起こし、不要な組織を壊していくリモデリング作用があり、そこから血小板が組織をつくり替え、患部を修復していきます。そのため、白血球が多いと炎症を起こし過ぎてしまう可能性があり、なるべく関節の中に注射したくないケースもあります。そこで②を脱水処理し、抗炎症効果を高めたPRP③を使うのです。

①と②はスポーツ外傷の治療によく使います。①は関節の軟骨が擦り減っている患者さんに向いていますし、②は難治性のアキレス腱炎などに適しています。

一方、ご高齢者に多い関節炎には、①と③を用います。③は抗炎症効果が高まるので、ひざに水が溜まった方などに向いていると考えています。

1年前は①と②しかありませんでしたが、直近の研究の成果が③を生み出しました。「PRPのカスタムメイド」はますます進んでいます。

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ますます進む「PRPのカスタムメイド」

患者さんの声から生まれた幹細胞液性因子の最新研究

PRPは血液の細胞や血小板を中心にした細胞治療です。現在、世界中で盛んに研究されている再生医療も、脂肪・骨髄・滑膜由来の幹細胞を使う細胞治療です。

そこで私たちの最新研究では、細胞ではなく細胞から出る液体、つまり液性因子を利用した治療法の開発に取り組んでいます。幹細胞を培養すると、そこからさまざまな物質が分泌されます。その中には、傷んだ組織を修復する因子や炎症を抑える因子がたくさん含まれており、これを治療に使うことはできないか?そう考えて、動物実験を進めているところです。

細胞を培養するにはコストもかかりますし、管理も大変です。さらに細胞自体が他人の人体に及ぼす影響も未知数です。一方、液性因子であれば免疫反応が少なく、低コストで、管理もクオリティの担保もしやすいのです。

例えば10個の胎盤があり、そこから採取した間葉系幹細胞を培養した場合、それぞれから出る因子には個人差があります。それらの発現パターンを解析したうえで製剤化して保存しておき、患者さんの病態に応じて必要と考えられる成長因子を多く含むロットを選択することで、患者さんにとってピンポイントな治療が可能になるはずです。

私がこうしたことを考えるようになったのは、PRP外来でご高齢の患者さんに接していると、よく「私の血液で効きますか?」と質問されるからです。確かに、ご高齢者の血小板と若い人の血小板では働きが違うでしょう。個人ごとにも違うはずです。

より安全に、より効果的に、PRP療法を展開していきたい――臨床でのそんな思いが研究を突き動かしています。

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「より安全に、より効果的に、PRP療法を展開していきたい」

なぜ効くのか?まだまだ謎が多いPRP療法

研究の一環で、PRP療法によるひざ軟骨の修復具合の検証も行っています。

一般的には「PRP注射を打てば軟骨が増えて、痛みがとれる」と思われがちですが、実際にはわからないことがたくさんあります。

例えば、O脚の人のひざは内側が狭く、外側が広くなっています。そこでPRP注射により内側に軟骨が増えればよいのですが、治療後にMRIで確認すると、体重がかかりにくい外側だけ増えるケースがあります。実験室のシャーレ上では軟骨にPRPを加えると軟骨は増えるのですが、生きて二足歩行している人間の膝関節の中ではそう簡単に軟骨は出来ません。200人を対象とした臨床研究でも同じ結果が見られました。

さらに複雑なことに、MRIでは軟骨が増えても痛みが取れない人がいます。反対に、軟骨は減っているのに痛みがない人もいます。軟骨の増加と痛みの改善には相関関係がなく、PRP療法の治療効果を決めているのは軟骨の増加ではないのではないかと考えています。

臨床で多くの人に効果が見られ、これほどのご支持をいただいているPRP療法ですが、まだまだ謎が多いのです。

臨床から生まれた研究成果を臨床へ還元。より多くの方にPRP療法を!

PRP療法は保険適用外の自由診療ですが、取り扱う医療機関は当院以外にもたくさんあります。数ある医療機関の中でも、順天堂では1回あたりの費用を4万円程度としています。

PRP療法が当初はスポーツでけがをした学生さんやアスリートをおもな対象としていたため、負担軽減のために費用を抑えていました。その後、ご高齢者にも効果があるとわかり、さまざまなリスクのある方が来院されるようになって、リスク対応のため費用を少し引き上げた経緯がありますが、今も費用をできる限り抑えています。負担軽減を図り、より多くの方に治療を受けていただきたいですし、臨床および基礎研究をつづけることでエビデンスを積み重ね、保険診療でPRP療法を行うことが出来るようになればと考えています。

また、PRPの製法の精緻さや注射の打ち方ひとつでも、順天堂は他院より色々な工夫をしていると自負しています。例えば半月板損傷や靭帯損傷の患者さんの場合、注射を打つ部位を変えることで劇的に効くことがあります。こうした臨床研究の成果も、海外の学会で発表していく予定です。

さらに2020年からは脂肪由来の幹細胞を使った治療もスタートします。今後、こうした再生医療の現場はどんどん広がっていくことでしょう。PRP療法は臨床で生まれた疑問から研究を進め、その成果をまた臨床に戻すことができます。研究成果がすぐに患者さんに直結する内容ばかりで、非常にやりがいのある分野だと改めて思います。

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「負担軽減を図り、より多くの方に治療を受けていただきたいですし、臨床および基礎研究をつづけることでエビデンスを積み重ね、保険診療でPRP療法を行うことが出来るようになれば」

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〔2018年9月28日〕《JUNTENDO SPORTS》「イタリア名門サッカークラブにも帯同。選手の成長を支えるスポーツドクター」(齋田 良知)

〔2018年9月28日〕《順天堂CO-CORE》「関節の痛みから患者さんを解放する整形外科のPRP(多血小板血漿)療法」(齋田 良知)


齋田 良知
順天堂大学医学部附属順天堂医院 整形外科・スポーツ診療科 准教授
順天堂大学医学部を卒業後、順天堂大学医学部附属順天堂医院整形外科・スポーツ診療科に入局。自身もサッカー経験があることから、サッカーを中心とした豊富なスポーツドクター歴を持つ。女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)のチームドクターを務め、2016年にはイタリアのサッカークラブACミランに帯同した。2018年現在いわきFCのチームドクターを務める。2018年、一般社団法人日本スポーツ外傷・障害予防協会を設立し、代表理事に就任。