インタビュー

2020年05月27日

1分1秒でも早く患者さんのもとに駆けつけ、その「命」と「心」を救いたい。

2004年4月からドクターヘリの運航を開始した、順天堂大学医学部附属静岡病院。出動累計回数はすでに1万件を超え、海や山などリゾート地の多い静岡県東部の救急医療を支えています。 年々増え続ける出動件数の裏には、どのような活動があるのか? 順天堂大学医療看護学部を卒業し、現在静岡病院でフライトナースとして活動する小髙さんに、大学での学びをはじめ、フライトナースの仕事や現場で求められる役割について、話を聞きました。

子供の頃に思い描いた、
理想の看護師像を求めて順天堂大学へ。

私は小学生の頃、脚の病気にかかって2度の手術と入院を経験しました。学校で友達と遊ぶことも、大好きなバスケットボールをすることもできない毎日。1ヶ月以上親元を離れ、つらい入院生活の中で唯一嬉しかったのが看護師さんたちとのコミュニケーションでした。頻繁に病室に顔を出して親身に接していただいたことがとても嬉しく、いつか恩返しをしたいと思ったのが看護師を志したきっかけです。10歳の頃に抱いたその時の気持ちは、その後一度も揺らぐことがありませんでした。
数ある看護学校の中でも順天堂大学 医療看護学部をめざした理由は、教育理念に掲げられた「仁」にあります。「仁」という言葉には優しさや思いやりといった意味も含まれており、身体のみならず「心を癒す看護」は、自分がなりたいと願っていた看護師の理想像そのものでした。だからこそ、看護を学ぶなら順天堂大学しかない、と入学を決意したのです。

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医療看護学部での学びで特に印象に残っているのは2年次に受けた「病院実習」です。私が担当についたのは、がん患者さん。毎日病院の枕元に通う私に後学のため、と苦しい胸の内を色々と打ち明けてくださいました。その患者さんには感謝の気持ちしかなかったのですが、実習の最終日に挨拶に伺ったら、逆に患者さんから感謝の言葉をいただいてしまいました。
「あなたのおかげで気が滅入ることがなかったわ。ありがとう!」
看護師としてできたことは全くありませんでしたが、「心を癒す看護」の本質はここにあるのだと実感することができた体験でした。

豊富な知識と看護技術。
緊急時の的確な判断力に憧れ、フライトナースへ。

救急看護という分野に興味を持った理由は、家族の"もしも"の時に力になれると思ったからです。学生のうちから「BLS(一次救命処置)」の資格を取得したり、救命救急サークルに所属して放課後に心臓マッサージの練習などをしていました。
救急は体力勝負です。だからこそ若いうちに経験を積もうと考え、卒業後は順天堂大学医学部附属静岡病院に入職。救命救急センターに配属されて、ICUやCCU、救急外来で救急看護に携わりました。そこで、周囲のフライトナースの先輩方の豊富な知識と看護技術、緊急時における的確な判断力に憧れて、フライトナースを志ざすようになったのです。先輩方に試験対策や実技の練習をつきあっていただいたこともあり、入職から7年目にフライトナースになることができました。

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ドクターヘリとフライトナースが
求められる救急医療の役割とは?

現在、静岡病院 救命救急センターでフライトナースの資格を持つ看護師は10名(2020年2月取材時)。私たちフライトナースは、ドクターヘリで患者さんのもとにいち早く駆けつけ、現場で初期治療を施し、適切な医療機関へ搬送するのが仕事です。院内であれば看護師だけではなく、他の専門職員と協力して「チーム医療」で対応できますが、ヘリに搭乗できる限られた人数ではそれができないため、フライトナースは医師が治療に専念できるようにひとりで周囲の環境を整え、患者さん本人やそのご家族の精神面のケアを行わなければなりません。現場の状況から"何を優先して、誰がどのように動くのか"ということを素早く判断して、救急隊員や消防隊員などに協力を依頼するのもフライトナースの重要な役割となっています。
実際の現場では医師がものすごい熱量を持って患者さんの治療にあたります。私もその熱量に負けないようにサポートをしていますが、事故や災害の現場では、サポートばかりに意識を向けていると二次災害につながってしまうので、そうした事態を避けるためにも常に視野を広く持つように心がけています。
最近では外国人旅行客の搬送も増えてきました。怪我の重大さや緊急性をわかりやすく伝えるのが難しいこともあります。少しでも相手の不安な気持ちに寄り添えるよう、スマートフォンの翻訳アプリなどを使って、できる限り細かいニュアンスが伝えられるように工夫しています。

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ドクターヘリ運航対策室での様子

現場へ向かうドクターヘリの機内から、
すでに活動が始まっている。

主な活動範囲は伊豆長岡を中心に半径約50㎞。静岡県東部の救急医療をドクターヘリが支えています。ドクターヘリの出動要請は各市町村の消防本部から入るのですが、その時に無線で得られる現場の情報はごくわずか。現場へ向かう機内では医師を中心に考えうる限りの怪我や疾患の予測を立て、病院前診療に必要な医療機器のチェックをはじめ、緊急度、優先順位、搬送先などについて打ち合わせを行い、適切な治療を速やかに実行するための準備を整えています。ご家族がいることが予測される場合は、現場での混乱を避けるためにも「私がご家族に説明しますね」など、あらかじめ自分の役割分担を医師に伝えるようにしています。

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出動件数が伸び続けている背景には、
消防との密接なコミュニケーションがあった。

当院のドクターヘリ出動件数は1339件(2019年度実績)。年々出動回数が増え、今では全国2位という高い出動実績を誇っています。静岡県東部に海や山などのリゾート地が多いのも理由のひとつですが、定期的に消防隊の方たちとドクターヘリの活用に関して勉強会などを行い、救急医療に関する知識やお互いの活動に対して理解を深めているところに出動依頼が伸びている理由があります。
フライトのない日は救急外来に勤務しているのですが、私も日頃から患者さんを搬送してくる救急隊員の方たちと信頼関係を築けるように心がけています。そうした日々の積み重ねがあるからこそ、現場で患者さんに点滴の針を刺す際、痛みに耐えかねて暴れてしまっている患者さんの腕を押さえてもらうなど、救急隊員の方に様々な協力を頼みやすいのだと感じています。

学生の皆さんへ

救急の過酷な現場でも、
「心を癒す看護」を忘れずにいて欲しい。

救急の現場はとても過酷です。特に幼いお子さんが絡む事故などは、手が震えてしまうこともあります。くじけそうになったこともありましたが、周囲の先輩方に助けられて壁を乗り越えることができました。そのお陰もあり、今は"自分に出来ることを最大限やり通す"という決意を持って、現場に向かうことができるようになりました。
きっかけはTVドラマでも構いません。ひとりでも多くの患者さんを助けたい、誰かの力になりたいという思いがある方にぜひフライトナースをめざして欲しいと思っています。

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看護部・フライトナース
小髙 優衣

順天堂大学医療看護学部を卒業後、同大医学部附属静岡病院に入職。救命救急センター 集中治療室に配属。先輩フライトナースたちの豊富な知識量と技能、緊急時における的確な判断に憧れフライトナースになることを志し、救急外来勤務を経て、入職7年目となる2018年からフライトナースとして活動を開始。