インタビュー

2019年06月25日

開発シーズを持つ企業や研究者をワンストップに支援。順天堂大学のオープンイノベーション事業

組織内外のアイデアを有機的に統合させ、価値を創造する「オープンイノベーション」。2019年7月、順天堂大学はオープンイノベーションプログラム「GAUDI(Global Alliance Under the Dynamic Innovation)」をスタートさせます。「GAUDI」を推進する順天堂大学革新的医療技術開発研究センターの飛田護邦准教授に、取り組みの内容と今後の展開をお聞きしました。

国内トップクラスの「臨床力」と医療の知見が集まる「地の利」

これまでの日本で附属病院を持つ大学に求められたものは、「教育」「研究」「臨床」の3本柱でした。ところが時代の流れとともに、国は大学発のベンチャー企業を増やす方針を固め、大学にも実用化に資する「研究開発」を求めるようになりました。順天堂大学もまた、自らの強みを活かしながら「研究開発」に力を入れており、さらに力強く推進するためにオープンイノベーション「GAUDI」を発足させます。

では、順天堂大学の強みとは一体何か?――その答えは「臨床力」です。

順天堂の6附属病院全体の病床数は3,400床以上。年間の外来患者数300万人超、入院患者数100万人超、難病・希少疾患の患者さんの数も15,000名以上に上り、大学病院の「臨床力」としては国内トップクラスです。

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さらに、本郷・湯島地区に位置する地の利も見逃せません。新しい医薬品や医療機器を生み出すには、医薬品メーカーや医療機器メーカーなど企業との協働が必要ですし、時には他大学や学外の研究機関との連携も求められます。その点、本郷・湯島地区は大小さまざまな医療機器メーカーが400社以上あり、東京大学をはじめとした複数の大学とも隣接しています。まさに、企業や内外の大学の研究者が持つイノベーションのシーズ(種)を集めるには最適な場所にあるのです。

 

開発シーズの社会実装を目指して、企業や研究者にワンストップの支援を提供

GAUDI」の支援の流れは次のとおりです。

まず、順天堂大学新研究棟A棟3階に設置したオフィスに開発シーズを持つ企業や研究者にお越しいただき、実用化の可能性が高いシーズについて、今後の研究開発構想について意見交換をします。世の中に開発シーズを持つ企業や研究者は数多く存在しますが、「医師とコンタクトを取れる機会が少なく、研究開発が進められない」、「研究を進めたいが資金がない」といった悩みを抱えているケースが少なくありません。「GAUDI」はそんな企業や研究者と順天堂の医師及び医療従事者とを結びつけ、研究開発構想を議論し、一緒に資金調達を行い、研究開発体制を整えて、順天堂の大規模プラットフォームを利用した医師主導治験やシステム・アプリケーション等の検証実験を実現させます。その先には製品化・事業化があるわけですが、順天堂大学ではこの一連の支援を革新的医療技術開発研究センターにてワンストップで行う計画です。

大学では企業との連携により寄付講座や共同研究講座が開設されることがよくありますが、「GAUDI」ではこうした講座が開発したシーズを引き継ぎ、臨床試験を通じて社会実装により速く送り出していくことを目指した取り組みです。

 

開発シーズをスムーズに臨床試験へ。学外のエキスパートとも連携

革新的医療技術開発研究センターが設置されているのは、本郷・お茶の水キャンパスに新築された研究棟(A棟)の3階。学内外の開発シーズは、まずここへ持ち込まれます。すぐ下の2階には、研究戦略推進センターと臨床研究・治験センターがあり、隣接する順天堂医院と渡り廊下でつながっています。さらに4階~12階には順天堂大学の様々な講座、研究室が軒を連ねます。

研究戦略推進センターは学内の基礎研究の支援を担当。開発シーズが臨床試験へと進めば、臨床研究・治験センターが連携し、隣接する順天堂医院を使って一気に試験を進めることができます。

さらに特徴的な点は、「GAUDI」では学外のエキスパートが複数参加し、協力しながら開発支援を進めること。その顔触れは、知的財産に詳しい国際特許事務所、臨床試験を支援する企業(CRO)、資金調達やマーケティングを担当するシンクタンクなど。学外のリソースを活用してフルサービスを提供するこの形が、従来の大学内オープンイノベーションにはなかった取り組みといえます。

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革新的医療技術開発研究センター(本郷・お茶の水キャンパス A棟3階)

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研究戦略推進センター(本郷・お茶の水キャンパス A棟2階)

 

学外や海外からの開発シーズも!資金調達や臨床試験も丁寧に支援

一連の研究開発の過程を通じて企業や研究者に寄り添い、コンシェルジュとしてサポートするのも「GAUDI」の特徴です。

GAUDI」にご相談をされる研究者の中には、「熱意はあるけれど資金がない」という人が少なくありません。ところが従来のオープンイノベーションでは自助努力で資金調達するのが一般的で、これでは肝心の研究に集中することができません。そこで「GAUDI」では、ともに資金調達の方法を考えるサービスも提供。公的資金の申請書作成を一緒になって行うことや、「GAUDI」の協力先であるベンチャーキャピタルなどの力を借りることも検討します。

また、臨床試験の支援体制は大企業なら社内に整っているものですが、中小企業やベンチャー企業はそもそも支援体制を整える余裕がありません。大学内も同様で、大企業に比べて人的リソースが少ないため、研究者をサポートできる体制がなかなか整えられないのが実情です。

その点、学内に研究開発支援部門(ARO:Academic Research Organization)が整備されており、「GAUDI」を通じてベンチャー企業や他大学の研究者にも支援を提供できる体制があります。海外の開発シーズも積極的に受け入れており、例えば海外大学の研究者が設立したベンチャー企業が日本で製品を上市することを目指す際に、日本のレギュレーションに従った臨床試験の支援などを行います。

 

誰も見たことがない技術・サービスの新たなチャレンジが始まる

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GAUDI」は現在、試験的な運用を行っている段階ですが、すでに医療機器や再生医療等製品の研究開発案件の支援が始まっています。さらに時代の先端を行くAIなどの相談にも対応しています。

現在、「GAUDI」がご相談を受けている企業の中には、AIを組み込んで病院の機能を向上させるアプリケーションを開発する企業もあります。具体的なご相談内容についてはお話できませんが、想定している案件についてお話させていただくと、例えば、病棟で患者さんのベッドの下にセンサを設置し、脈拍・血圧・体温などのバイタルデータを無線で看護師のタブレット端末へ随時飛ばす製品があるとします。朝夕のバイタルチェックを効率化させ、多忙な看護師をサポートすることができますが、企業が病棟へ直接お話を持ち込んでも、多忙を極める病棟ではとても対応できません。その点、「GAUDI」にご相談いただければ、必要に応じて当センター内に病棟のセットを作り、看護師さんを招いてアプリケーションの機能と役割について説明し、実際に触れていただくことも可能です。また、アプリケーションの導入効果の検証を行う上での試験デザインについての議論を、事前に病棟スタッフを交えて行うことで、現場の理解も深まり、より効果的な検証実験が行えるはずです。

また、医療分野以外の企業から「ライフサイエンス分野にチャレンジしたい」というご要望も届いています。例えば、「土いらずで野菜を栽培できる農業用フィルムを医療に転用できないか」というケースでは、当センターに技術展示をしていただければ、日々研究開発や臨床を行う本学の医師・研究者や「GAUDI」の協力企業・機関の方々の目に触れる機会があります。どこからどんなアイデアが生まれて、どのようなイノベーションが起きるのか――それは誰にもわかりません。

順天堂大学のオープンイノベーションプログラム「GAUDI」は、2019年夏より本格的に始動を開始。今後も世の中に眠る開発シーズを掘り起こし、効率的に社会実装へとつなげ、研究開発の中核拠点を目指していきます。

 

※人または動物の細胞に培養等の加工を施したもので、身体の構造・機能の再建・修復・形成するものや、疾病の治療・予防を目的として使用するもの。遺伝子治療を目的として、人の細胞に導入して使用するもの。 

 


関連情報

順天堂大学 プレスリリース(2019年6月25日)
「順天堂大学がオープンイノベーションプログラムを開始 ~附属6病院の臨床力を活用し、新たな医療技術の早期実用化を目指す~」

順天堂大学 革新的医療技術開発研究センター
レギュラトリーサイエンス・研究倫理研究室室長
飛田護邦 准教授

1999年日本大学松戸歯学部卒業。2008年防衛省海上幕僚監部衛生企画室。2010年日本医科大学大学院医学研究科修了。医学博士。2010年自衛隊横須賀病院歯科診療部第3歯科長。2014年厚生労働省医政局研究開発振興課再生医療等研究推進室再生医療等対策専門官。2016年独立行政法人医薬品医療機器総合機構再生医療製品等審査部審査専門員(臨床医学担当)。2017年順天堂大学革新的医療技術開発研究センター・准教授。2018年より革新的医療技術開発研究センターレギュラトリーサイエンス・研究倫理研究室室長/順天堂医院臨床研究・治験センター研究開発企画室室長/臨床研究コンプライアンス・ガバナンス推進室室長。