インタビュー

2021年04月09日

すべては患者さんのために!パーキンソン病の治療・研究をリードする順天堂の神経学講座

アルツハイマー病に次いで多い神経変性疾患であり、高齢化の進展とともに患者数が急増しているパーキンソン病。順天堂大学の神経学講座(脳神経内科)は年間約4,000名の患者さんが来院する、世界屈指のパーキンソン病の臨床・研究拠点といわれています。医学部長・医学研究科長を兼任する服部信孝神経学講座教授に、臨床・研究・教育面における方針や現状についてお聞きしました。

次々に最先端の治療を提供する
順天堂のパーキンソン病外来

パーキンソン病は脳の神経の変性により引き起こされる難病です。1,000人中1~1.5人が罹患すると推定され、高齢になるほど発症率が高まります。順天堂医院の脳神経内科には年間約4,000名のパーキンソン病患者さんが来院されており、日本一の患者数を誇ります。そこで得られたデータや検体をパーキンソン病の新たな治療法の研究などに活用できることが、順天堂の最大の強みです。2017年には世界初のパーキンソン病オンライン診療システムの導入を開始し、2019年9月から国内初のデバイス治療外来(※1)を開設しました。2020年10月には最新のDBS治療機器を世界に先駆けて導入するなど、最先端の治療を提供しています。

※1 薬剤を持続的に空腸内または皮下に注入するレボドパ・カルビドパ経腸療法(LCIG)と、脳深部に電極を挿入し、脳内回路の異常信号を電気的に調整する脳深部刺激療法(DBS)がある。

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パーキンソン病は「天寿を全うできる病気」。
患者さんの満足度を引き上げることが重要

ひと昔前までパーキンソン病といえば、「徐々に進行する難病」「将来は寝たきりになる」などと言われ、悲観的に捉える風潮がありました。しかし今、患者さんを取り巻く状況はかなり改善されています。治療面ではどんどん新しい治療薬が開発されており、いかに上手く薬を使いながら治療を続けていくかが重要です。生活面を見ると、例えば当院では2017年よりICTを使った生活サポートを始めています。社会面ではバリアフリーの環境が広がりつつありますし、インターネットの普及で患者さんも情報収集が以前より容易になりました。今では治療面・生活面・社会面のどの局面においても、天寿を全うできる病気になったことは間違いありません。

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ただ、私たち医師から見てパーキンソン病を巡る現状が改善されたと思えても、本当に患者さんたちが満足されているかどうかはわかりません。そこで、PRO(Patient Reported Outcome:患者報告アウトカム)という考え方が今、重要視されています。我々医師はどれほどデータが改善されているかだけでなく、患者さんのPROがどのように改善されたかを見ていかなくてはいけません。今、私が患者さんたちと計画しているのは、医師主導のガイドラインの策定に患者さんにも参加していただくことです。トイレのときはどうするのか。不眠のときはどうするのか。患者さんが中心となりQOLに関わる部分までガイドラインを作ることで、満足度が上がると考えています。

いつもそばに寄り添っていることを
患者さんに伝えたい

そもそも私が医師を志したのは、高校時代に黒澤明監督の映画『赤ひげ』を見たことがきっかけです。『赤ひげ』に描かれた「患者を診る」「患者の心を診る」「患者の家族を診る」という姿勢にとても感銘を受けました。パーキンソン病は、医師が患者さんと生涯にわたりおつきあいをする病気です。そのため、医師が上から話すのではなく、患者さんとフラットに語るコミュニティや関係性を私は目指しています。その一環として私は普段から数種類のSNSやメールを利用して患者さんとやりとりしています。私もさまざまな役職を兼任していますので応対できる時間は限られていますが、「患者さんが頼りにしている」と思い、できる限り患者さんのご質問やご相談には直接お返事をするように努めています。アカデミアに身を置く立場ではありますが、「臨床医としてのスタンスをもっとも大切にしている」といっても過言ではありません。

パーキンソン病の患者さんはメンタルの影響がとても大きいもの。そのため、私は「いつもあなたのそばに寄り添っているよ」という意味を込めて、自分の似顔絵シールを作って患者さんに配っています。患者さんがつらい状態のとき、私のシールを見て「自分はひとりではない」と思っていただきたいですし、そう思うだけで気持ちが楽になることもあるでしょう。ちなみに、患者さんたちはこうしたメンタル効果を「服部マジック」と呼んでいるそうです。

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「世界の優秀な病院ランキング」で
脳神経内科が国内1位、世界10位に!

2020年11月、Newsweek誌に発表された「世界の優秀な病院ランキング(World's Best Specialized Hospitals 2021)」の神経学分野で、順天堂医院脳神経内科が国内1位、世界10位に選ばれました。

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当科では若手研究者が活躍しており、次々に論文を発表して研究成果を挙げています。その理由のひとつに、前任者の水野美邦教授の方針があります。私は水野先生が順天堂で担当された大学院生の第1号。水野先生がパーキンソン病の研究のために私を名古屋大学へ国内留学させてくださったり、学内の研究環境を整備してくださったおかげで、今があります。しかし、研究生活が始まった当初は苦難の連続でした。

ディスカッションはフラットな立場で。
スピードと研究費獲得は教授の目線から指導

名古屋大学で研究していた頃はお金がなく、家具が買えなくてミカン箱を机代わりにしていました。それでも365日研究に打ち込み、ある遺伝子の構造を医学雑誌に発表するつもりで準備していたところ、一歩先に別の研究者に同じ遺伝子構造を発表されてしまいました。このときの悔しさは今でも忘れられません。

その後は研究成果を挙げられないまま順天堂に戻り、分子生物学の教室をゼロから立ち上げました。これが現在の神経学講座につながっています。並行して遺伝子研究を試行錯誤しているうちに、遺伝子に新たな構造を発見したため、当時ヒューマンゲノムプロジェクトの責任者を務めておられた慶應義塾大学の清水信義先生のもとに、データを持参して見ていただきました。ところが、清水先生の答えは「きみ、これは偽遺伝子だよ。うちのシステムを使えば、1日で採れるものだよ」。それを聞いて、すでに4年もの歳月をかけていた私は愕然としました。

こうした経験から、「正確な情報をいかに早く手に入れるか」が大切であると痛感しました。今も若手研究者には仕事のスピードを厳しく指導していますが、それもこれも私自身が論文のスピードで負けた経験があるからです。同分野の研究者は同じようなところを研究するもの。研究は1番でないと意味を成しません。

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もう1点、研究者にとって重要な仕事が研究費の獲得です。だからこそ私自身院生時代から今まで科研費を1度も落とすことなく励んできました。講座のメンバーにも、少しずつでも研究費を獲得できるように働きかけています。みんなで研究費が獲れたらハッピーですしね。今も部下が作成した大型研究費の申請書をチェックし、加筆修正することを自分に義務づけています。学問のディスカッションではフラットな立場で、スピードと研究費のことでは教授という立場から指導するのが教室運営の方針です。

医師だけでなくコメディカル職も含めた
ワンチームでパーキンソン病に向き合う

また、ワンチームで進めることも教室運営のポイントです。普通ですと私のような教授と若い医師や看護師、理学療法士・薬剤師などのコメディカル職との間には、なんとなく距離感があるものです。しかし、私はいろんな職種のメンバーたちの間に互いに距離がないことが、新たなアイデアを生むのだと考えています。
コロナ禍が落ち着き、国際会議に出席できるようになれば、看護師やコメディカル職の方たちを連れていきたいと考えています。英語力があるかどうかは関係ありません。いろいろな国の人が一堂に集まってパーキンソン病のことを語り合う場を見ることも、教育的にとても大切なのです。他にも私が主催している研究会では、理学療法士、薬剤師、看護師に参加してもらい、育成を進めています。それもこれも順天堂全体がワンチームとして成長を遂げたいという想いがあってのことです。

臨床も研究も教育も、
すべては患者さんのためにある

2020年10月、理化学研究所脳神経科学研究センター(CBS)・神経変性疾患連携研究チームのチームリーダー(兼務)に就任し、本学とCBSの2か所で研究室を運営し、パーキンソン病とその関連疾患の研究を推進することになりました。
CBSは日本の脳科学研究の最高峰といわれる研究拠点。これまで大学との連携チームは東京大学の2チームがあるだけでしたから、そこに順天堂大学のチームを作らせていただけるのは大変名誉なこと。お声をかけていただいたときは本当にうれしかったです。

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CBS以外にも、当科には医療機器をはじめとした多業種のメーカーや製薬会社などから、AIからDNAまでさまざまな研究シーズが持ち込まれます。私はそのシーズを部下に振り、研究の進行を見守ります。みんな本当によくやってくれています。

患者さんのために、臨床・研究・教育でやれることは全部やる。それもこれも、すべて患者さんのため。「研究のための研究」ではなく、「患者さんのために研究する」というスタンスを守らないと、どこかで間違った方向へ行ってしまうものです。私たちはすべての患者さんのために、今後も「不断前進」あるのみです。

服部 信孝(はっとりのぶたか)
順天堂大学大学院医学研究科神経学 教授
順天堂大学医学部神経学講座 教授
(医学部長・医学研究科長 併任)


1995年、順天堂大学医学部神経学講座助手。1999年、同講師。2002年、助教授。2006年、大学院医学研究科神経学教授。2008年、順天堂大学大学院医学研究科老人性疾患病態・治療研究センター副センター長(併任)。2019年より医学部長・医学研究科長。他施設の客員教授等も多数務め、2020年10月より国立研究開発法人理化学研究所・脳神経科学研究センター・神経変性疾患研究チームリーダーに就任。財団法人長寿科学振興財団理事長奨励賞、ベルツ賞、日本神経学会賞、文部科学大臣賞、日本神経学会楢林賞など、受賞多数。