インタビュー

2020年08月25日

IgA腎症による透析導入患者を救え! 順天堂大学浦安病院 腎・高血圧内科の挑戦

生活習慣の変化や高齢化により、近年増えつつある慢性腎臓病。中でも日本人に多く発症し、治療しないまま放置すると約30~40%が末期腎不全に至る難病がIgA腎症です。順天堂大学医学部附属浦安病院 腎・高血圧内科の鈴木仁先任准教授は、IgA腎症の臨床・研究のエキスパート。患者さんを透析へと至らせない早期発見・早期治療を提供しています。

IgA腎症とは?

自覚症状なく始まり、透析や腎臓移植に至る病

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体内の免疫を司る免疫グロブリンのひとつ、免疫グロブリンAIgA)。IgA腎症は異常なIgAが血流に乗って集まり、免疫複合体を形成して腎臓にたまっていく難病です。放置すると腎臓が慢性炎症を起こして腎機能が落ち、透析療法や腎臓移植が必要になります。世界的に見てもアジア圏、とくに日本で多く見られ、30代を頂点に幅広い年代に性差なく発症が報告されています。

ほとんどの場合、IgA腎症には自覚症状がありません。病気が発見されるきっかけは、健康診断や人間ドックでの血尿や蛋白尿。あるいは別の病気で腎機能が低下し、調べてみるとIgA腎症だと判明することもあります。つまり、ご本人が気づかないうちに進行する、厄介な病気といえます。

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【IgA腎症の病因】

 

IgA腎症の検査方法

腎臓専門医による尿検査、血液検査、腎生検を

IgA腎症の検査では、尿検査、血液検査、そして腎生検を行います。尿検査は健康診断やクリニックなどでも行われますが、試験紙を尿に浸して蛋白や血液の反応を見る簡易的なものです。私たちが行う尿検査は、尿中の蛋白量を定量的に測り、血液成分まできちんと見極めます。さらに、血液検査でクレアチニンという腎機能を表すデータを確認し、その値により病気の初期なのか、どれくらいの期間をかけて腎臓が悪くなってきたのかを推測することができます。もっとも重要な検査は腎生検による病理組織診断です。5日ほど入院していただき、背中側から細い針を刺して腎臓の細胞を採取するもので、これによりIgA腎症かどうかを確定診断することができます。こうした検査はどこの病院でも行えるわけではなく、腎臓専門医がいる病院に限られます。さらに、肝疾患、炎症性腸疾患、関節リウマチ等に合併する二次性IgA腎症との鑑別が重要です。当院では、原発性か、二次性かの鑑別に、IgA腎症特異的な腎生検診断試薬(KM55抗体)を用いて評価しています。

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IgA腎症の治療法

扁桃摘出手術+ステロイド薬併用療法が効果的

IgA腎症のもっともスタンダードな治療法は、のどにある扁桃摘出手術とステロイド薬との併用療法です。「腎臓の病気なのに、なぜ扁桃?」と思われがちですが、近年、IgA腎症患者さんの扁桃細胞の中で、異常なIgAを産生する細胞変化が起きることが明らかになってきました。つまり、扁桃摘出手術は異常なIgAをつくる大元である扁桃を切除するもので、成人であれば扁桃を摘出しても、とくに免疫に問題はありません。同時に、血液中や腎臓に存在する異常なIgAをステロイド薬で抑え込みます。

扁桃摘出手術+ステロイド薬の併用療法は非常に有効な治療法ですが、実は日本独自のものだといわれています。IgA腎症を発見するには健康診断などで行われる尿検査が欠かせませんが、途上国はもちろん、欧米先進国でも定期的な健康診断を行っている国はほとんどなく、患者さんは腎生検の段階でかなり腎機能が低下していることが少なくありません。そのため、同じ病気でも相当に進行した状態でしか、医師は患者さんを診ることができないのです。また、ステロイド薬の処方には副作用を見ながら投与量を調整する必要がありますが、日本のようにこまめに通院しない欧米の慣習ではそれも難しいでしょう。ステロイド薬はしっかりと管理して使えば安全かつ有効な治療薬であるだけに、彼我の医療の違いを感じずにはいられません。

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早期発見・早期治療により、透析になる患者さんを減らしたい

扁桃摘出手術+ステロイド薬併用療法がメジャーになったのは、2000年代初期のこと。以来20年近くが経過し、IgA腎症の患者さんで透析に至る方の数は明らかに減少しています。それだけに、透析をされている患者さんから「IgA腎症が原因で透析が必要になりました」というお言葉を聞くと、私はとても残念な気持ちになります。「もっと早く病気に気づき、治療できていれば透析にさせなかったのに...」と思うからです。

前述のように、IgA腎症は30代を中心とした若い世代に発症が多いですし、なかには小児の患者さんもいらっしゃいます。とくに治療を急ぎたいのが、妊娠・出産を控えた若い女性です。妊娠中はただでさえ尿蛋白が出やすく、腎臓の状態が悪いままでの妊娠・出産は低出生体重児の確率を高めます。さらに妊娠高血圧症候群なども起こしやすく、母体の全身状態も悪化しやすくなるからです。扁桃摘出手術+ステロイド薬併用治療は高い効果が期待できるうえに、その後に内服治療を継続しなくてもよいケースが多いので、とにかく早期発見・早期治療し、安心して出産を迎えていただきたいですね。IgA腎症の新規分子標的治療薬の治験が現在進行中であり、今後、扁桃摘出手術+ステロイド薬併用療法に加えて治療の選択肢が増えることが期待されます。健診施設や開業医の先生方にも患者さんの尿蛋白や血尿を発見されたら、ぜひ当院にて精密検査をさせていただきますので、ご紹介いただければと思います。

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すべての患者さんに適切な治療を提供する順天堂大学浦安病院のトータルマネジメント

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順天堂大学医学部附属浦安病院

当院ではIgA腎症・血尿の専門外来を立ち上げています。当科(順天堂大学浦安病院 腎・高血圧内科)の強みは、腎機能低下がほとんど見られない方から透析治療を受けられている方まで、いかなる病期においても正確に診断し、適切な治療を行えること。IgA腎症に限らず早期診断・早期治療を実現させ、「トータルマネジメントにより、患者さんを透析にさせない」ことが私たちのモットーです。

さらに順天堂大学浦安病院の強みは、全診療科が揃っていて診療科間の連携に優れていること。扁桃摘出手術における耳鼻咽喉科と当科の連携は、その典型例でしょう。三次救急まで対応する充実した救急診療科があることも、患者さんにとっては安心材料となります。

また、当院は指定難病医が在籍する指定医療機関のため、指定難病医療費助成制度の新規申請などに必要な診断書を作成することができます。私たちもIgA腎症と確定診断した時点で難病申請をお勧めし、その後の入院治療費などを経済的に済ませられるようサポートしています。

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グループリーダーとして、IgA腎症診療ガイドラインの普及を介して難病治療の標準化を目指す

臨床以外にも、私は厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「難治性腎障害に関する調査研究 診療ガイドライン分科会」のIgA腎症ワーキンググループリーダーとして、診療ガイドラインや患者さん、ご家族向けの療養ガイドの作成統括も務めています。IgA腎症の治療に取り組む全国の先生方が参加し、分科会全体会議などを定期的に行っています。ちなみに、診療ガイドラインの2020年改訂版がちょうど発行され、ダイジェスト版の作成もすすめています。その後は、一般の患者さん向けのコンパクトな冊子の作成や、世界へ向けて日本の治療法を周知していくための英語版の刊行も計画されています。もちろん、今後の治療や診断で新たなエビデンスが出てきたら改訂を行います。厚生労働科学研究難治性腎障害に関する調査研究班での活動を通じ、新たな治療戦略やエビデンスについていち早く皆様にお届けしたいと考えております。

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「エビデンスに基づくIgA腎症 診療ガイドライン 2020」監修:成田一衛、編集:厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難治性腎障害に関する調査研究班(東京医学社/2020年8月発行)、「IgA腎症の病態と治療」監修:富野康日己、編集:川村哲也、編集:鈴木祐介(中外医学社/2019年11月発行)

 

これからの医師はフィジシャン・サイエンティストを目指せ!

私が腎臓内科を志したのは、「全身の病気を診ることができるから」です。腎臓に関連する病気は腎炎だけでなく、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、多臓器連関など、生活習慣病を網羅しています。また、腎臓は多彩な働きをしているため、薬を使うときも腎機能を見ながら量を調節する必要があります。つまり、さまざまな場面で専門的なコメントを求められる、やりがいある診療科といえます。

これから医師を目指す高校生や学生の皆さんには、ぜひ「フィジシャン・サイエンティスト」を目指していただきたいです。ただ患者さんを診るだけのフィジシャンに留まらず、サイエンスの裏付けを持って新しい治療法をどんどん取り入れること。そして医学の発展に貢献し、日本から世界へ情報を発信する医師になっていただきたいです。

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順天堂大学大学院医学研究科 腎臓内科学/順天堂大学医学部附属浦安病院 腎・高血圧内科 先任准教授
鈴木 仁(すずき・ひとし)
1996年3月:順天堂大学医学部卒業
2005年3月:順天堂大学大学院医学研究科腎臓内科学、医学博士
-IgA腎症の発症と進展に関わる因子(遺伝因子と骨髄由来細胞の役割)について研究
2005年7月~2009年8月:University of Alabama at Birmingham, Microbiology教室へ留学
-IgA腎症における糖鎖異常IgA1の糖鎖構造および産生機序の解明(骨髄および扁桃由来B細胞において)
-IgA腎症における免疫複合体形成メカニズムの解明(糖鎖異常IgA1特異的IgGの同定)
2009年9月~:順天堂大学医学部腎臓内科学講座 助教
2015年4月~:順天堂大学医学部腎臓内科学講座 准教授
2020年4月~:順天堂大学医学部腎臓内科学講座 先任准教授

<専門医・指導医・学術評議員資格>
日本内科学会:総合内科専門医・指導医
日本腎臓学会:専門医・学術評議員・指導医
日本透析医学会:専門医・指導医
日本高血圧学会:専門医・指導医
日本成人病学会:学術評議員