インタビュー

2019年01月28日

座談会「順天堂の救急」~地域に貢献する附属病院の救急部門 - オール順天堂としてさらなる飛躍を

救急は医療の最も重要な課題の1つです。順天堂の附属病院の中でも順天堂医院、浦安病院、静岡病院、練馬病院は特に救急医療に力を入れ、地域に貢献しています。4附属病院が連携し、医療の提供のみならず教育システムのバージョンアップも念頭に日本、そして世界への発信力強化を目指す順天堂。今回は代田医学部長と4附属病院の救急の先生方に、それぞれの病院での医療、教育の現状と課題、そして今後の展望についてお話しいただきました。

代田 浩之
順天堂大学医学部卒業
医学部長、医学研究科長
医学部・大学院医学研究科:教授
順天堂医院:循環器内科 科長
健康管理センター長、医療情報センター長

田中 裕
大阪大学医学部卒業
医学部・大学院医学研究科:教授
浦安病院:救急診療科 科長
救命救急センター長、院長補佐
専門分野:救急医学、外傷外科学

柳川 洋一
防衛医科大学校医学部卒業
医学部・大学院医学研究科:教授
静岡病院:救急診療科
専門分野:救急疾患全般、災害医学

橋口 尚幸
大分医科大学医学部医学科卒業
医学部・大学院医学研究科:教授
順天堂医院:救急科
専門分野:救急医学、災害医学、被ばく医療

杉田 学
順天堂大学医学部卒業
医学部・大学院医学研究科:教授
練馬病院:救急・集中治療科
専門分野:救急医学、集中治療学、災害医学、神経救急

  • 代田 浩之 教授
  • (順天堂大学 医学部長・医学研究科長)

  • 杉田 学  教授
  • 練馬病院 救急・集中治療科) 
4附属病院.jpg左上:順天堂医院、右上:順天堂大学医学部附属浦安病院、左下:順天堂大学医学部附属静岡病院、右下:順天堂大学医学部附属練馬病院

4附属病院の現状と救急医療の課題

代田 はじめに各病院の救急医療の現状をお話しください。

田中 浦安病院は三次救急施設(※)として重度外傷、熱傷、心肺停止、敗血症、心筋梗塞、脳血管障害といった重症患者に対応。またプライマリケアセンター(※)、こども救急センターを設置しています。2013年にはラピッドカー(※)を導入し、浦安市、市川市で病院前救急医療(※)も展開しています。また浦安は大きなテーマパークがあり、そちらからの搬送も多いという現状です。


  • ※三次救急:重症患者(集中治療室入院患者)に対する救急医療
  • ※プライマリケア:多様な症状の診断・治療を行う総合医療
  • ※ラピッドカー:医師が救急現場に向かうための緊急自動車
  • ※病院前救急医療:患者さんが病院へ搬送される前の病院外での医療

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柳川 静岡病院は伊豆長岡にあり、静岡県東部の重症患者の多くが当院に搬送されます。搬送数は年間6,000件前後ですが、重症患者の比率は全国トップ20に入ります。ドクターヘリ、ドクターカーによる病院前救急医療にも力を入れています。週末はレジャー客や観光客が増えるため患者数も増加。ダイバーの減圧症、富士登山者の高山病などこの地区ならではの疾患も搬送されてきます。

橋口 順天堂医院の救急診療の主体は一次・二次救急(※)ですが、院内患者の急変時などには三次対応も、また一般外来患者の初期診療も行っています。順天堂医院の救急プライマリケアセンター受診患者数は20,000人を超えており、近年、救急車応需は年間6,000件を超え、7,000件に達する勢いで増えています。かかりつけ患者の救急受診は各診療科と連携し、救急プライマリケアセンターでコーディネートしています。


  • ※一次救急:軽症患者(帰宅可能患者)に対する救急医療
  • ※二次救急:中等症患者(一般病棟入院患者)に対する救急医療

杉田 練馬病院は開院当初から「救急の要請は断らない」という方針で、年間7,000台以上の救急車、20,000人以上のウォークイン(※)の患者さんを受け入れています。診療科の垣根を超えて協力し、集中治療もすべて救急・集中治療科で診る体制が整っています。三次救急ではないので多発外傷は多くありませんが、中毒患者が多いという特徴があります。


  • ※ウォークイン:他の病院からの紹介患者や直接歩いて救急受診された患者

代田 次に救急医療の課題についてお考えをお聞かせください。

田中 全国的な救急搬送依頼の増加の背景には高齢化があります。自力で来院できない高齢者や介護老人保健施設からの搬送が増えており、この傾向は加速することが予想されますから抜本的な対策が求められます。また、今後ますますチーム医療が重要になってきますので、日ごろから各診療科との信頼関係を構築しておくことが必要ですね。

柳川 静岡病院では週末になると患者数が増える傾向があり、またドクターヘリ基地病院として当直に必要な人数も多く必要です。当院のみならずどこの病院でもそれぞれ課題があると思いますが、全国的に言えるのは救急に携わる医師が不足しているということ。私自身は自分の持ち場での魅力ある医局づくりと、救急医療の本質を伝える教育に力を注いでいます。

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杉田 救急の分野は情熱をもって仕事をされる先生が多く、頑張りすぎて燃え尽きてしまうことも少なくありません。当院ではやりがいを持ちながらうまくワークシェアできる体制づくりに努めています。加えて女性医師が安心して長く働けるよう、出産などでブランクが生じても仕事を続けられる環境づくりも重要です。

田中 救急科の平成30年度の新専門医は267名でした。全国に救命救急センター(三次救急医療機関)が289施設あるので1施設に1人入るかどうか。継続的な人材確保に向けて、オール順天堂として魅力あるプランをつくっていかなければなりません。

代田 おっしゃる通りですね。それを具体化するためにはどうすればいいのでしょうか。

橋口 海外研修も含め、幅広い経験をしながら修了していく教育システムをつくることが必要だと思います。

田中 ロールモデルがいると具体的にイメージしやすいのではないでしょうか。以前当院に、毒入り餃子事件などに救急医として携わり、マスコミにも取り上げられた角由佳先生(現 順天堂大学医学部救急・災害医学研究室 非常勤講師、WHOに出向中)が在籍していましたが、当時は彼女に憧れて救急を志す女性が増えましたね。

杉田 インターネットでレクチャーの動画などを配信するといったことも効果的でしょう。また、練馬病院では若い先生方がメディアに出たり、本を書いたり、研修医向けの講習会で講師をやったりと積極的に動いています。

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代田 インターネットやSNSなども上手に使っていく必要がありそうですね。魅力あるプログラムやロールモデルを積極的にアピールしていくことも大切だと思います。

順天堂が目指すべき教育と研究のあり方

代田 続いて、我々が目指すべき教育のあり方についてお話しいただけますか。

田中 初期研修では「プライマリケア」「ジャッジメント(診断)」「蘇生」といったベースラインのところを徹底的に教えることが重要です。また、私は研修医が入ってくると最初に「初期救急は易しいか」と疑問を投げかけます。初期救急というと発熱や頭痛、腹痛といった主訴で来院され、大体パターンが決まってくるので100人中99人は簡単な診察、検査で診断がつきます。でも中には重篤な疾患が隠れていて、急変するケースは日々あるわけで、初期研修中でそこを学ぶことが大切だと考えています。

杉田 学生や研修医の全員が必ずしも救急への意欲が高いわけではありません。しかし、彼らが将来各診療科に行ったときに我々と連携する機会が必ずありますから、彼らに全身を診ることをしっかり教えることはお互いにとって大きな意味があることだと考えています。

柳川 静岡病院では、まず我々の強みである重症患者のマネジメントと病院前救護の部分を鍛えていきたいと考えています。病院前救護には日常的な消防、行政、警察、地域住民とのつき合いが不可欠ですから、そういう部分も肌で感じてほしいですね。

代田 新専門医制度に向けた取り組みはどうなっていますか。

橋口 「JURRIET計画(※)」がすでに動いています。順天堂医院が基幹病院となり、4附属病院プラス全国10機関を回ってそれぞれ特色ある研修ができる仕組みで、2年間で6人の救急科後期研修医が参加しています。


  • ※順天堂大学総合救急医育成プログラム(Juntendo University, Resident & Researcher, Intensive care, Emergency medicine, and Trauma surgery course)

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代田 順天堂全体としての救急に関する研究について、どのようにお考えですか。

柳川 4附属病院合わせるとかなりの救急の症例を診ていますので、共通のデータベースをつくって共同研究するということが考えられます。

田中 そういう意味では4附属病院での多施設共同研究は必要だと思います。また、浦安病院では環境医学研究所で、留学を経験したスタッフが基礎研究をやっています。何年か臨床をやった後に留学して、また新たな視点で研究に携れるというのも励みになりますよね。

橋口 順天堂医院では201810月に設置されたマイクロバイオーム研究講座(※)において、臨床でとったサンプルを解析しており、将来的には4附属病院で協力して研究を深めていければと思っています。


  • ※マイクロバイオーム:ヒトの細菌叢

代田 最後に救急医を目指す人たちにメッセージをお願いします。

田中 救急は医療の原点です。救急医は究極のジェネラリストであり、急性期医療・集中治療の専門家です。将来どの領域に進むにしても、救急専門医を取ればどんな状況にも対応できます。飛行機内での「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか。機内に急病人が発生しております。」のドクターコールにも自信をもって手をあげることができます。救急医療はさまざまな場面で力を発揮し社会に貢献できるやりがいのある仕事です。

代田 ぜひ救急の分野に挑戦していただきたいですね。

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<後記> 「救急は医療の原点である」との信念のもと、4附属病院がそれぞれの特性を活かし地域の救急医療に尽力されている様子が強く伝わってきました。また、各附属病院での教育とともにオール順天堂としての新たなプログラムを通じて、将来の救急医療を担う優れた人材が輩出されることが期待されます。さらに積極的な情報発信の必要性、情報共有や共同研究についても実現に向けた前向きな議論が交わされ、今後の順天堂の飛躍を確信した座談会でした。