インタビュー

2020年06月18日

研究開発系ベンチャー×順天堂大学 医療・スポーツに新たな技術の導入を!

我が国のライフサイエンス分野における研究開発の促進と、開発シーズの社会実装促進を使命として、順天堂は2019年7月にオープンイノベーションプログラム「GAUDI(Global Alliance Under the Dynamic Innovation)」を始動させました。 少しでも多くの企業にGAUDIを体感してもらうために、経済産業省関東経済産業局と連携し、医療機器および医療分野の機器開発企業と順天堂大学の医師・研究者を結ぶための支援事業である「架け橋ピッチ」を、公募により採択された合計9社に対して2019年10月から実施しました。 この企画に参加した企業の中には、設立間もない研究開発系ベンチャー企業も含まれています。リサーチコーディネート株式会社は獣医師の資格を持つ橋本雅史代表取締役が、神経科学の研究で利用していた動作解析技術を幅広く実社会へ提供するために創業した企業。今回、リサーチコーディネート社の橋本社長が、GAUDIの「架け橋ピッチ」プロジェクトを統括した奈良環特任講師とスポーツドクター/整形外科学の長尾雅史先生(大学院スポーツ健康科学研究科 准教授)と語り合いました。

架け橋ピッチとは

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(左)リサーチコーディネート株式会社 橋本雅史(代表取締役)、(中)順天堂大学 長尾雅史(スポーツドクター/整形外科学、大学院スポーツ健康科学研究科 准教授)、(右)順天堂大学GAUDI 奈良環 特任講師

予想もしなかったスポーツ分野とのマッチング

――リサーチコーディネート社は2018年5月に設立された、新しい企業ですね。事業内容と「架け橋ピッチ」に応募した経緯について、教えていただけますか?

橋本 私はもともと大学や公的研究機関で動物の行動解析の研究をしていました。研究を続けるうちに、その成果が学術分野だけに留まるのが惜しくなり、もっと社会で実用化したいと考えて、リサーチコーディネート株式会社を起業しました。

現在はAIモーションキャプチャ技術を利用し、人や動物の動きを映像上からトラッキングして可視化し、数値化・定量化するサービスを研究機関やバイオ関係の企業などに提供しています。

「架け橋ピッチ」に応募したのは、この技術を医療分野に応用したいと考えたからです。そもそもこのサービスの原型が神経科学の研究で実験動物を使ったことから始まっており、順天堂大学なら神経科学系の医師がたくさんいらっしゃると思いました。

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奈良 架け橋ピッチに参加される企業の皆さんには、まず私たち事務局が事前ブリーフィングを実施して、その企業の事業内容、シーズの特徴、開発の方向性等を理解するところから始めます。

次に、企業の担当者から順天堂大学の医師や研究者へのプレゼンテーション(ピッチ)を行っていただきますが、その際には私たちも参加して企業の思いが医師や研究者へ適切に伝わるようにサポートします。

最後に、ピッチに参加した医師や研究者の意見、感想を取り纏めて参加企業にフィードバックをするという流れになります。

リサーチコーディネートさんのケースでは、1回目のブリーフィングの際に「モーションキャプチャはスポーツ分野への適応があるのではないか」と議論し、整形外科専門医でスポーツドクターでもある長尾雅史先生に相談しました。長尾先生はプロサッカーチームの現場に行かれる機会が多く、スポーツそのものに精通しているためです。すると、長尾先生が私たち事務局の意を汲み取って、プロスポーツに関わる理学療法士の秋吉さんを連れてピッチに参加してくれました。

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長尾 現場のニーズを深掘りするには医師以外の観点からのアドバイスもあった方がよいと考え、秋吉さんにもピッチに同席してもらいました。

 

――架け橋ピッチを行ってみての感想を聞かせてください。

橋本 おかげさまで、とてもいい出会いをいただきました。現場の率直なご意見と、「もっとこのように改良したほうが良い」という非常に参考になる生のアドバイスをいただきました。実際、ここまで現場の意見をいただけたことは初めてです。当社の中でぼんやりと「医療分野に応用できないか」と考えていただけでしたから。ピッチの雰囲気もとてもフレンドリーなものでした。

長尾 モーションキャプチャという技術は現場のニーズが非常に高まっています。スポーツ分野では選手のプレーの質を数値化し、可視化・データ化することが求められています。プロサッカーチームでは、GPSや位置センサー・加速度センサーなどを使って選手の運動量など測定するわけですが、正確な位置を測るにはカメラを複数箇所に設置しなくてはなりません。これらの機器類がとても高価なため、もっと簡便にできないものかと僕もずっと考えていました。

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奈良 スポーツの現場で活躍している医師ならではの視点ですね。第1回のブリーフィングで、リサーチコーディネートさんは高い技術をお持ちですが、その技術をどのように展開すればよいかを具体的にイメージできていないと感じました。

そこで、企業からの提案に耳を傾け、結果として現場のニーズとのマッチングができるよう、長尾先生にピッチの対応をお願いしてよかったと改めて思います。

橋本 スポーツの最先端でどういうことをされているのか教えていただき、当社で何ができるのかを考える上で、非常に役立つ情報でした。

私たちのモーションキャプチャ技術には特別なデバイスは必要ありませんので、GPSよりはるかに価格を抑えることができます。例えば小学生のサッカーチームなら、親御さんがホームビデオやスマートフォンで試合を撮影しますよね。その映像を解析することができるのです。

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長尾 医師の立場からも、この技術がけがの予防につながるのではないかという期待があります。

けがを予防するためには、まずどんな時にけがが発生しやすいのかというデータを集めなければなりませんが、割安で簡便なシステムがこれまでありませんでした。私たちは若い世代のけがを予防したいのですが、小学生のチームが高価なGPSを使用するのは無理があります。また、GPSは細かな手の動きなどを捉えることが難しいので、そのあたりの動作解析ができると、さらにけがの予防につなげることができるのではと考えていました。

フィードバックを受けて技術課題が明確に

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――橋本社長はスポーツドクターとお会いするのはGAUDI「架け橋ピッチ」が初めてですか?

橋本 初めてです。順天堂大学にスポーツ系のイメージはありましたが、まさかピッチに来ていただけるとは思ってもいませんでした。

私はもともと神経科学を研究していましたので、なんとなく神経科学系の先生がいらっしゃるイメージでおりました。

奈良 動作解析技術は非常に広い適用範囲を持っていますが、既存の医療事業分野に参入するには医療機器・システムとしての承認や保険収載など、医療特有のハードルを越えることを事業として考慮に入れなければなりません。第一回目のブリーフィングの会議で、まずは予防医療も含めて医療以外の分野で始める方法も選択肢としてあるのではないかという議論がありました。

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――先生方からフィードバックを受けられて、現在の状況はいかがですか?

橋本 おかげさまで当社の技術的な課題が浮き彫りになりました。

当社は映像をいただいて、解析のコンピュータにかけてデータを提供する受託サービスを実施しているのですが、現場では結果がすぐに出るリアルタイム解析が求められていることが分かりました。

現在、スマートフォンなどで撮影した映像をクラウド上にアップロードして解析し、再びスマートフォンに戻すというシステムの構築を目指しています。遅くとも1年以内には完成する手応えがあります。

長尾 リサーチコーディネートさんの一番の売りは、柔軟性があり、細かな部分まで見ることができて、現場で汎用性が高いところでしょう。

橋本 確かに、既存のソフトウェアにはない柔軟性やオリジナリティがあると思います。ただ、すぐに真似をされてしまう可能性があるので、精力的に開発を進めていきたいです。実はソフトウェア自体は特許化できないのですが、解析を含めると特許化が可能になるのです。

特許化などの専門性が高い分野も、GAUDIでは丁寧にサポートしていただけると伺っています。今後も力になっていただけると期待しております。

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自社技術の新たな可能性に気づいて

奈良 他に医療用ナビゲーションシステムのお話も出ましたね。

長尾 医療用ナビゲーションシステムにはいろいろなものがありますが、私たち整形外科医がよく使うのは、人工関節の手術です。人工物の設置位置や角度などをナビゲーションで決めると、手術がより安全・確実にできるようになります。例えば傷口が小さな手術の場合、器具の位置や内部の様子を目で見ることはできませんが、ナビゲーションならCT画像なので俯瞰して見ることができます。リサーチコーディネートさんの技術はナビゲーションシステムに活用できるのではないでしょうか。

橋本 私は長尾先生からお話を聞いて、初めて医療用ナビゲーションシステムという存在を知り、当社の技術にそんな可能性もあるのか、と気付かされました。

長尾 かなり以前からあるシステムなのですが、医療の世界以外ではあまり知られていないかもしれません。現在のナビゲーションシステムの課題は高価で簡便ではないこと。もし、簡便化できたら大学病院以外にも導入でき、今以上により安全な手術ができるようになります。

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奈良 それは素晴らしい社会貢献になりますね。医療の世界での技術開発は決して簡単ではありませんが、確実に世の中に貢献ができます。よく山登りに例えられ、1度登ったら、また登りたくなる、と。

橋本 私自身、大学や研究機関で研究をしていた頃は、動物の行動解析がただただ面白くて、社会貢献まで考えが及びませんでした。しかし今後、研究開発が進めば、いろいろな分野の方にご利用いただけるかもしれませんね。

 

――最後に、橋本社長からGAUDIへの要望をお聞かせください。

橋本 私たちのようなベンチャー企業で、もっとも胃が痛くなるのが資金調達です。そのあたりのサポートもGAUDIには期待しています。

奈良 何をするにもまず資金が必要ですからね。GAUDIは会員制ですが、会員になられた場合は、資金調達も支援していくプログラムがあります。

長尾 僕たちは研究ベースで物事を考えがちですが、リサーチコーディネートさんの研究開発の先にどのようなメリットがあるのか、一緒に考えていきたいです。「論文を発表して終わり」では社会的にもメリットがあまりありませんから。ぜひこれからもお手伝いできればと思います。

橋本 ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。

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*本対談は、緊急事態宣言の前(3月18日)に実施されました。


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