インタビュー

2020年09月29日

的確な手術により、健康児と変わらない暮らしへ。新生児を先天性の病から救う順天堂医院小児外科

順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下、順天堂医院)の小児外科・小児泌尿生殖器外科(以下、小児外科)は、1968年、日本で最初の小児外科学講座としてスタート。大学病院としては日本最多の手術件数・症例数・病床数を誇り、小児への負担が少ない内視鏡手術やダ・ヴィンチロボット支援手術にも積極的に取り組んでいます。今回は、新生児外科を専門とする越智崇徳准教授が新生児外科治療の最前線を語ります。


【順天堂大学】動画2020:「的確な手術により、健康児と変わらない暮らしへ。新生児を先天性の病から救う順天堂医院小児外科」(越智 崇徳 准教授/小児外科・小児泌尿生殖器外科)


整備された環境で小児に最適の手術を

順天堂医院では、昨年、周産期センターをリニューアルし、胎児診断された赤ちゃんが出生前から出生後までスムーズかつ安全に、高度な医療が受けられる設備と体制を整えました。同じ時期に小児医療センターも開設し、小児科ならびに小児外科・小児心臓血管外科・小児脳外科・小児眼科などの小児の外科系診療科が、その専門性を活かして総合的に小児の治療に当たっています。

順天堂医院の赤ちゃんや子どもへの手術件数は、大学病院としては国内最大規模。一概に小児外科疾患と言ってもその病態は一人一人異なるため、教科書的な知識だけではなく、経験もとても重要です。順天堂医院小児外科には山髙篤行教授のもと、指導医・専門医の資格を持つ経験豊富な医師が多く集まっています。さらに、いち早く内視鏡手術にも取り組んでおり、適応があればダ・ヴィンチロボット支援手術も行っています。当院は、赤ちゃんや子どもたちに最適な治療を提供できる環境が整っています。

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新生児外科は初動が重要

新生児外科は小児外科の専門領域のひとつで、出生から28日未満の赤ちゃんに対する手術を言います。新生児は病態の変化が早く、とくに出生体重が1,500g未満の新生児では余力が限られるため、あっという間に状態が悪くなることがあり、術前・術中・術後において、ち密な管理と迅速かつ的確な判断が欠かせません。小さな赤ちゃんでは手術を行うタイミングも重要で、全身状態を見極めて最適なタイミングで手術をしないと、手術を乗り越えることができません。各種データの把握はもちろん大切ですが、私は新生児をよく観察することを心がけています。お腹が張っていないか、呼吸が苦しそうではないか、活気があるかなど、診察所見を大切にしています。おかしいと思ったらすぐに必要な検査をして、適切な処置を行う必要があります。赤ちゃんの変化は速いですから、とにかく初動が大切。何も話すことができない赤ちゃんだからこそ、その変化を見逃すわけにはいきません。

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私たちの手術により、その後の長い人生を元気に過ごせるように

新生児外科で取り扱う疾患は、食道閉鎖症、腸閉鎖症、横隔膜ヘルニア、臍帯ヘルニア、腹壁破裂など、その多くが先天性の疾患です。先天的な病気は胎児診断で発見されるケースが多いため、生まれる前から産科・小児科・麻酔科と協力して治療計画を立案することができます。一方で、胎児診断ができない疾患もあります。例えば、腸が正常なかたちでおなかの中に納まらなかったために起こる腸回転異常症は、生まれた後に腸がねじれて、小腸が広範囲に壊死してしまうことがあるため、緊急手術が必要になります。

こうした新生児の疾患は昔なら外科的処置ができず、亡くなってしまうことが少なくありませんでした。しかし、医学の進歩とともに赤ちゃんを手術で救えるようになり、先天性の外科疾患を持って生まれた子どもたちも治療後は普通に過ごせるようになりました。例えば、腸閉鎖症は閉鎖した部分を切除して腸を繋ぐことで普通にミルクが飲めるようになりますし、横隔膜ヘルニアも集中治療と手術を乗り越えて普通に暮らしている子がたくさんいます。的確な治療ができれば、治療後の赤ちゃんの多くは健康な赤ちゃんと同じように成長していくことができます。

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米国留学で腸管免疫の基礎研究にも従事

当科ではグローバルな視点を持つために、医局員の多くが国外留学を経験しています。私も2014年から2年間、米国ミシガン大学に留学しました。留学先での研究テーマは、中心静脈栄養における小腸の腸管免疫の変化について。先にお話した腸回転異常症や壊死性腸炎などで小腸が広範囲に壊死すると、再生することはありません。壊死した小腸は切除する必要がありますが、小腸は栄養を吸収する部位ですから、小腸が短いと赤ちゃんは栄養不足に陥ります。このような病態を短腸症候群と言います。そこで中心静脈カテーテルによる栄養のサポートを行うのですが、短腸症候群の赤ちゃんはおなかを壊しやすく、時には、腸内細菌が血中に入り込むバクテリアル・トランスロケーション(菌の他臓器への移行)という重篤な合併症が起きることもあります。

私の研究では、中心静脈カテーテルを留置して絶食にしたマウスと、普通のエサを食べさせたマウスで、小腸の腸管免疫の違いを調べました。

すると、絶食にしたマウスでは、中心静脈カテーテルから十分な栄養が投与されていたにも関わらず、小腸においてインターロイキン10という炎症を抑制するサイトカイン(細胞から分泌される生理活性たんぱく質)が減少していました。つまり、おなかの炎症が起こりやすい状態になっていたのです。ではなぜインターロイキン10が減少するのか?さらに研究を続けると、アミノ酸の経腸投与が小腸におけるマクロファージからのインターロイキン10の産生制御に重要な役割を果たしていることがわかりました(DOI:https://doi.org/10.1038/srep27634)。

実際の臨床現場で、私たちは経験的に中心静脈栄養だけではなく経腸栄養による生理的な経路での栄養投与の重要性を感じていましたが、この研究により、科学的にその一部を証明することができたのは嬉しいことです。

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米国で身をもって感じた競争の文化

米国への留学は、研究成果はもちろん、さまざまな学びを私にもたらしてくれました。異文化を肌で感じ、多様な価値観を持つことができました。米国で所属したラボは研究のレベルが高く、ボスは人格的にも素晴らしい方でした。また、小児外科の臨床現場を見学したり、米国の小児外科医や外科レジデントと知り合い、彼らの生活や考え方を知ることができたのも、よい経験になりました。今でも連絡を取り合える友人ができたことは私の財産になっています。

また、研究生活を通して、米国に根づいた競争の文化を感じることができました。よい研究をして結果を出して、研究費を獲得しなければラボは存続できないので、隣のラボがある日突然なくなったりします。一方で、結果にはシビアですが、よい研究をしていると、段々周りも認めてくれるようになります。例えば、いくつものラボが集まって、定期的に研究成果のプレゼンテーションを行い、そこから新たなコラボレーションの研究が始まったりもします。競争の文化が根底にあるのだと思いますが、新しいことをしよう、よい結果を出そうという姿勢に、大いに刺激を受けました。

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「ゆっくり早く」 的確な処置により短時間で終わる手術を

小児外科は自分の手術や治療の結果が目に見えてわかるため、責任は重大ですが、その分やりがいのある診療科です。もちろん、命に関わらない手術もありますが、合併症のことを考えると、気を抜ける手術はひとつもありません。

山髙教授は、よく「1滴の水も漏らすな」とおっしゃいます。手術の準備にやり過ぎはありません。あらゆるリスクを想定し、準備した上で手術に臨むよう心がけています。術前準備が完璧にできていないと手術もうまくいかないものです。

私たち小児外科の中には、そのほかに「ゆっくり早く」という言葉があります。いつでも冷静に、焦ることなく、的確な処置をすること。そうすることで、結果的には手術が早く終わります。

すべては小児外科疾患を持って生まれた赤ちゃんに、その後の長い人生を元気に過ごしてもらえるように。子どもたちとご家族のために、私たちはこれからも全力を尽くす覚悟です。

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越智 崇徳(おち・たかのり)
順天堂大学医学部附属順天堂医院 小児外科・小児泌尿生殖器外科 准教授
2008年 東京慈恵会医科大学卒業。初期臨床研修修了後、2010年 順天堂大学小児外科学講座に入局。順天堂医院および関連病院にて研鑽を重ね、2014年 米国ミシガン大学留学、2016年より現職。2018年より同講座准教授・医局長。医学博士、日本外科学会専門医、日本小児外科学会専門医、日本周産期・新生児医学会認定外科医、da Vinci certificate取得者。