インタビュー

2021年02月12日

あらゆる競技において全身のパーツを治療する 順天堂大学医学部附属浦安病院のスポーツ医学センター

2020年4月、順天堂大学医学部附属浦安病院(以下、浦安病院)はスポーツ医学センターを開設。整形外科、救急診療科、脳神経外科、栄養科、放射線科、薬剤科が連携し、最高レベルのスポーツ診療ができる体制を整え、プロアスリートから一般のスポーツ愛好者まで幅広くスポーツのけがや予防に対応しています。センター長の糸魚川善昭准教授が同センターの特徴や提供できる医療について語ります。

「スポーツの順天堂」がスポーツ医療の拠点をオープン

70年もの歴史を持つスポーツ健康科学部、箱根駅伝での過去11回の総合優勝など、順天堂は長くスポーツと関わりが深い大学として知られています。私たちは以前よりプロサッカーチームやラグビー日本代表、プロテニス選手などをサポートし、スポーツに特化した治療に関わってきました。さらに2019年から、プロ野球球団・千葉ロッテマリーンズのメディカルサポートがはじまりました。これを機に、20204月、スポーツ医学センター開設の運びとなりました。

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2021年1月に浦安病院で実施された千葉ロッテマリーンズ選手のメディカルチェック

当然のことですが、スポーツのけがや予防は整形外科だけで対応できるものではありません。例えば、野球でデッドボールが頭部に当たれば、脳神経外科で診る必要があります。ドーピング問題があれば薬剤科、選手に不足しがちな栄養素を補給するには栄養科と協力する必要があります。CTMRIなど各種画像の細かな読影についても、放射線科とディスカッションして進めることがあります。もちろん、内科、眼科やリハビリテーション科と連携して取り組むこともあります。このように幅広い診療科が揃う大学病院にあるからこそ、質の高いスポーツ医療を提供できるのが当センターの強みです。

国内の病院で初めて超音波剪断波エラストグラフィ(SWE)を導入

もうひとつ当センターの大きな強みは、国内の病院で初めて超音波剪断波エラストグラフィ(SWE)を導入していることです。SWEは組織の硬さを計測することができる医療機器です。アスリートの肩・肘・ふくらはぎなどに張りがあるとき、SWEを使って数値化すれば、リハビリでほぐすべきなのか、それとも筋膜リリース療法などにより硬い部位にピンポイントで注射して硬さを取り除くべきなのか、適格に判断ができます。

また、SWEでは筋肉だけでなく、腱や靭帯などの組織まで詳しく診ることができるのも大きなメリットです。サッカー選手の半月板のけが、ラグビーやアメフト選手のタックルによる肩関節唇のけが、野球のピッチャーによる肩腱板や肘内側側副靭帯のけがなど、このようなアスリートのよくあるけがに対応できるのです。

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全身のパーツを診れる専門医が在籍し、最先端の保存療法や手術療法に対応

トップアスリートから一般の方々まで、スポーツをする人はできれば手術を避けたいという気持ちをお持ちでしょう。そこで、当センターでは事前のけが予防や、前述のSWEを用いた筋膜リリース療法などに加えて、多血小板血漿(PRP)治療や対外衝撃波治療などの保存療法を提供しています。PRP療法は患者さんご自身の血小板に含まれる成長因子を利用した再生医療です。体への負担が少なく、とくに肩、肘、膝などの痛みに効果があります。対外衝撃波治療は皮膚の上から患部に衝撃波を照射することにより、組織再生因子を増加させて血管の再生を促し、慢性的な痛みを取り除くものです。テニス肘や足底腱膜炎、アキレス腱炎などに効果的です。

こうした保存療法でも改善されない場合は、手術になります。当センターや浦安病院の整形外科には全身のパーツを診ることができる専門医が揃っていることも強みです。手術は関節鏡と呼ばれる内視鏡手術が中心で、傷が小さくすみ、低侵襲であることが特徴です。一般的に膝の内視鏡手術を行う医師はたくさんいますが、肩や肘を関節鏡で手術できる医師はそう多くありません。この点において、野球、アメフト、テニス、水泳など上半身のけがをしやすい競技のアスリートに貢献することができます。もちろん、野球選手のトミー・ジョン手術にも対応しています。

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米国メイヨー・クリニックに留学。日本でのSWE臨床応用の先駆者に

私自身は若い頃にテニス競技を10年以上続け、肩や肘の治療に興味がありました。ところが整形外科分野の中で肩や肘の治療は比較的歴史が浅く、当時は研究も少ない状況でした。そこで東北大学大学院医学系研究科(整形外科学)に国内留学し、肩を専門分野とする先生に師事しました。その後、2012年より2年間、米国ミネソタ州のメイヨー・クリニックに留学しました。メイヨー・クリニックはUSニューズ&ワールドレポート誌の「全米の優れた病院ランキング」で第1位を獲得し続けている大規模医療機関です。そこでSWEを使った研究に取り組みました。筋や腱の伸張性とSWEから得られる値の相関性を調べていくにつれSWEの有用性に気づき、帰国後に浦安病院で導入しました。

診療のかたわら、さまざまな部位の研究が進行中

現在、当センターでは治療はもちろん、研究や学生の教育も並行して行っています。おもな研究テーマは、腱と骨のつなぎ目が老化して切れるメカニズムを解明するための酸化ストレス研究、SWEを利用しての手術プランニングや術後の成績予測、肉離れからの復帰時期予測など。ご存じのとおり、肉離れはクセになりやすいので復帰時期を見極めるのが難しいけがです。現在、肉離れからの復帰予測はMRIで行っているのですが、これをSWEの数値で見極めることで、クセにならず、かつ早期に復帰できるようになればと考えています。ほかにも、野球の投球傷害においてどの部位に負荷がかかっているのかSWEで計測することで、けがをする前に予防できないか、研究に取り組み始めたところです。

今後はジュニアアスリートの傷害を予防するための教育・啓蒙活動にも力を入れていく予定です。華やかなプロスポーツの影には、けがが原因でプロになれなかったジュニアアスリートが数え切れないほど存在します。彼らにけがをさせないためにも、早い段階での教育の必要性を感じています。

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スポーツドクターを支えるのは「情熱」。時間をかけて信頼を獲得せよ!

スポーツドクターを志す学生や研修医は多く、私たちのセンターにもよく見学希望が舞い込みます。これからスポーツドクターを目指す人に私が伝えたいのは、「最後は情熱がものをいう!」ということです。チームドクターを務めると、通常の診療をこなしつつ、試合があれば3日に1度はスタジアムに足を運ぶことになります。週末でも夜でも関係ありませんし、キャンプや遠征に帯同するには自分の休暇も使わなければなりません。ですから、単に「スポーツが好きだから」という気持ちだけで続けられるものではありません。

また、私たちは医学面から傷害を見ていますが、選手はスポーツ面から傷害を見ています。2つの視点の差を埋めるのがトレーナーであり、監督・コーチ陣です。トップアスリートとは命がけで競技に取り組んでいます。彼らと直接接することができるのはスポーツドクターの醍醐味ですが、信頼を獲得するためには時間をかけてコミュニケーションする姿勢が必要です。

もちろん、トップアスリート以外の一般の方々のスポーツのけがも積極的に治療しています。浦安病院には最先端の医療機器があり、大学病院として研究も幅広く行っています。浦安病院整形外科の手術件数は年間2,000件近くあり、当センターのスポーツ関連手術でもすでに年間200件を超えています。どんな競技でも対応可能ですので、どの病院に行っても治らなかった方に、ぜひ来院いただきたいと願っています。

2021石垣島春季キャンプ_井口資仁監督.jpg千葉ロッテマリーンズの石垣島春季キャンプに帯同(右:井口 資仁 監督)

糸魚川 善昭(いといがわ よしあき)
医師・医学博士

順天堂大学医学部附属浦安病院 スポーツ医学センター センター長
順天堂大学医学部整形外科学講座 准教授
プロ野球 千葉ロッテマリーンズ チームドクター
日本整形外科学会 専門医・指導医
日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS) 評議員
日本肩関節学会 代議員

2001年 順天堂大学医学部卒業、順天堂大学医学部整形外科学講座入局
2006年 東北大学大学院医学系研究科(整形外科学)特別研究生
2011年 東北大学病院整形外科 医員
2011年 順天堂大学医学部整形外科学講座 助教
2012年 米国Mayo Clinic Biomechanics研究所へResearch fellowとして留学
2018年 順天堂大学医学部整形外科学講座 准教授
2020年 順天堂大学医学部附属浦安病院スポーツ医学センター センター長