リポート

2019年07月26日

医療看護学研究科の大学院生が地域と連携。浦安市に暮らす外国人のための健康相談会を開催。

近年、日本に住む外国人人口が急激に増加する一方で、言葉や文化の障壁から充分な保健医療サービスを受けられないことが課題となっています。2019年7月13日、順天堂大学大学院医療看護学研究科の岡本美代子准教授は6名の大学院生とともに、千葉県浦安市国際センターにて市内在住の外国人に向けた健康相談会を開催。浦安市で初めての試みから、多くの課題と収穫が見えてきました。【主催:順天堂大学大学院医療看護学研究科、浦安市国際センター】

日本に暮らす外国人に伝わりやすい言葉で
説明できる医療人材の育成が急務

日本で暮らす外国人の数はすでに総人口の2%を超え、2019年4月の改正出入国管理法の施行後、さらに増加すると予想されています。ところが、外国人の方々が日本の保健医療サービスを受けようとすると、日本独自の医療システムや言語の障壁が大きな課題となっています。このような場合、医療通訳が対応するのが理想ですが、英語や中国語などの主要言語でも人材が不足しているのが現状で、希少言語となると医療通訳を望むべくもありません。

グローバルイメージ2.png

一方、日本で暮らす外国人の場合、簡単な日本語を理解する人が6割を超えると言われています。最近では日本語を母語としない人にも伝わりやすい「やさしい日本語」が注目を集め、普及活動が始まっています。さらに医療の現場では日本人でも難解な医療用語が頻出するため、相手の日本語レベルに合わせて医療用語を説明できる人材が求められています。

また、健康や病気の捉え方には、その国の文化・風習・宗教などが複雑に影響します。今後、日本が多文化社会へと発展していく中で、医療従事者も多文化理解を深め、相手に合わせて柔軟に対応できるスキルが必要となります。

看護師・保健師・助産師の資格を持つ大学院生が
「やさしい日本語」や得意言語で対応

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2019年7月13日、JR新浦安駅前にある「浦安市国際センター」にて、市内在住の外国人を対象とした健康相談会が開催されました。企画したのは順天堂大学大学院医療看護学研究科の岡本美代子准教授。同研究科で公衆衛生看護学を専門に教育・研究を行っています。
千葉県浦安市の人口はおよそ17万人。同市にはその2%弱に当たる約3000人の外国人が暮らしており、平均的な外国人人口を持つ自治体といえます(2019年6月現在)。この日相談に訪れた人は計6人で、出身地はフィリピンとタイ。3つのブースに分かれ、長い人では30分以上話し込んでいく姿が見られました。

相談会の様子.png相談の対応をする大学院生たち


ブースで相談業務に対応するのは順天堂大学大学院医療看護学研究科の大学院生で、いずれも看護師・保健師・助産師などの有資格者。普段は医療機関に勤務し、それぞれが専門分野の知識やスキルを高めるため、仕事の合間を縫って大学院に通う医療従事者です。今回参加したのは、同研究科で「国際保健論」を受講する大学院生と、グローバル社会における保健医療に興味を持つ学生たち。一人ひとりが英語や中国語を得意としていますが、まずは「やさしい日本語」で相談者へ説明し、意思の疎通が難しくなると英語を駆使しての対応となりました。

相手に寄り添いながら
時間をかけて丁寧にお話を聞く

当日、寄せられた相談の一部をご紹介しましょう。


「採血検査後のデータを渡されたが、検査項目が日本語で書かれていて意味がわからない」
「子どもがかぜをひいたが、どの診療科目を受診すればいいのかわからない。母国とは診療科目の分け方が異なる」
「がん家系なので、将来がんにならないか心配。自分に合う医療保険を紹介してほしい」......

相談の様子.png外国の方からの相談ではありますが、いずれも日本人の患者さんに共通する悩みです。こうした相談に、岡本准教授は「①大学院生2名で対応。②時間を気にせず、納得できるまで話をしていただくこと」を基本に臨みました。
「大学院生は現役の医療従事者ですので、ご相談内容自体は日常業務で慣れているものがほとんどです。問題は言葉や文化の壁。そのため2名で臨み、それぞれの専門知識と得意な言語を活用することで、対応しました。また、医療の現場では、一人ひとりの患者さんのご相談に、医師や看護師がなかなか時間を割くことができません。言葉の壁がある外国人なら、なおさら対応に時間がかかり、よくわからないまま帰られる方が多いでしょう。その点を考慮し、ご本人が納得できるまでじっくりお話をさせていただきました」(岡本准教授)
実際、相談に訪れた外国人家族はお子さんを遊ばせながらさまざまな質問をしたり、「どこに聞けばいいのかわからなかったことを自分のペースで質問できた」と満足な様子で感想を述べる姿が見られました。

自治体と連携し、3言語ポスターなどで事前に告知

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大学院生・学生たちと打ち合わせをする岡本准教授(中央)

岡本准教授は自身も看護師・保健師の資格を持ち、東南アジアで地域医療システム構築のプロジェクトマネージャーとして活動した経歴の持ち主。2014年より順天堂大学大学院医療看護学研究科で大学院生を指導するなかで、外国人居住者の保健医療サービスへのアクセスに障壁があることに着目。かつて自身が過ごした東南アジアの人々が日本で働き、言語・文化・宗教の違いに苦労している姿を目の当たりにし、さまざまな国の人をケアできる保健医療人材を育成する必要性を痛感するようになりました。
「今回、医療看護学部のキャンパスがある浦安市と連携し、外国人健康相談会を開催することができました。『国際保健論』を受講する大学院生全員がボランティアとして参加し、学部4年生2名も相談会を知って手伝いを名乗り出てくれ、大きなマンパワーとなりました」(岡本准教授)
今回の相談会は浦安市の広報紙やホームページ、順天堂大学医療看護学部ホームページ、Facebookのほか、大学院生が作成したポスター3種(英語版、日本語版、やさしい日本語版)で告知。来場者からは「これからも年2回程度続けて」という声が聞かれたそうです。

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大学院生が作成したポスター(左から日本語・やさしい日本語・英語)

日本で暮らす外国の方のニーズに応えたい!
そのために必要なものとは?

振り返りの様子.png

終了後の反省会では互いに意見や感想を共有した

相談会終了後の反省会では、参加した大学院生・学部生から、次のような意見や感想が出されました。
「やさしい日本語を心がけたが、丁寧な日本語を話そうとすると難しくなる。改めて話し方が難しいと感じた」
「診療科目の違いは今後、外国の方が増えてくればますます把握する必要がある」
「自分の勤務先の病院でも、どんなサービス窓口や人間ドックのサービスがあるのか、実は詳しく知らない。もっと院内のことを知っておきたい」
「がん患者さんの精神的不安は日本人も外国人も同じ。看護師として患者さんのフォローに力を入れたい」
「あらかじめ相談内容を募っておけば、もっと的確に対応できるのでは?」
など、どうすれば在日外国人のニーズに対応できるのか、真剣に考える内容ばかりでした。

岡本准教授からのメッセージ

「全ての人に健康と福祉を」
グローバル社会の共通のゴールを目指して

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「今回の取り組みなどを通じて、グローバル社会に対応できる保健医療の専門職を増やしていくこと。そして身近な地域社会において、ともに生活する者として寄り添い、これからの豊かな多文化社会の創造につながる活動へと発展させることが私たちの目標です。さらに国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)であり、グローバル社会が目指す共通のゴールでもある"全ての人に健康と福祉を"を実現できる未来へつながることを願っています。最後になりましたが、今回は浦安市国際センターさまの多大なる協力によってこのような有意義な活動機会をいただき、大変感謝しております」

浦安市国際センター・渡辺靜雄センター長からのメッセージ

安心の医療を提供するためには
行政と医療機関の連携が不可欠

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著名なテーマパークがあり、多くの外国人観光客が訪れる浦安市のキャッチフレーズは「多文化共生のまち」。近年ではご家族で暮らす外国人居住者が増えており、教育・医療などの面での課題が浮上しています。とくに医療面においては、日本の保健医療システムは独自のものであり、行政と医療機関の連携が欠かせないと感じます。
今回、初めて健康相談会を開催することができたのは、順天堂大学の岡本先生との出会いがあってこそ。浦安市役所にも外国人のための相談窓口はありますが、交通の便のよい本センターで開催できたことを感謝しています。今回の開催により、ニーズが確実に存在することがわかりました。今後も互いに連携しながら、外国人居住者に向けた相談会を定期開催していけたら良いと思います。