リポート

2019年05月09日

正確な知識とスキル、そして少しの勇気で一つの命を救える可能性があるから... ~医療看護学部新入生を対象にBLS講習を実施~

「全人教育」に基づき、身体だけでなく「心を癒す看護」を実践する看護職者の養成をめざす順天堂大学の看護教育。千葉県浦安市にある医療看護学部では4月11日、新入生全員を対象にBLS(basic life support:一次救命処置)講習を実施しました。今回の講習は、学生に医療従事者としての心構えを早くから身につけてもらうこと、また大きなテーマパークを抱える浦安市の地域特性も踏まえ、大規模災害発生時などに率先して行動できる人材を育成することを目的としたものです。

県内初の試みとなる
入学直後、200人規模でのBLS講習

看護系大学でBLS講習を入学直後に200人規模で一斉に実施するのは県内初の試み。注目度も高く、地元テレビ局など複数の取材が入りました。
4月11日の朝、会場の浦安市総合体育館「アリーナ」に集まった医療看護学部の新入生約200人。どの顔にも前向きな思いがあふれています。

開始を待つ学生たち.png体育館に集まり開始を待つ学生たち


BLSとは、心停止など生命の危機的状況に陥った傷病者に呼吸と循環をサポートする一連の処置のこと。胸骨圧迫(心臓マッサージ)および人工呼吸による心肺蘇生とAED(automated external defibrillator:自動体外式除細動器)の使用が含まれます。そばにいる人(バイスタンダー)によるBLSは、心停止傷病者の社会復帰に大きな役割を果たします。
開会式では工藤学部長から「専門職業人となる皆さんが正確な知識とスキルを身につけ、少しの勇気を持てば一つの命を救える可能性があります。この講習をスキルアップにつなげてください」と激励の言葉がかけられました。

工藤学部長2.png開会式で挨拶をする工藤学部長

いよいよ講習がスタート!

講習前半は「一般市民としての一次救命処置」
バイスタンダーの行動が命を救うカギに

講習前半は、BLSの基本動作を人工呼吸なしの心肺蘇生法であるハンズオンリーCPR(cardio pulmonary resuscitation)でトレーニング。3~4人のグループにわかれ、大型スクリーンの映像を見ながら行います。
交通事故死が年間約4000人であるのに対し、心臓突然死は約7万人。その原因は心室細動(心臓の痙攣)です。心臓は胸の中央にある胸骨の下にあり、ここを押して心臓の蘇生を促すのが胸骨圧迫。バイスタンダーがこれを行うことで救命率が2倍に、AEDも使用すると救命率はさらに2倍になるのです。
講習の進行は浦安市消防署救急隊の町山さん。映像操作担当の工藤さんとともに学生のスキルアップに力を貸してくださいます。
「皆さんは将来の医療従事者としてBLSの習得が必須です。質の高いCPRができないと患者さんを救えません。しっかり学んでいきましょう」という町山さんの言葉で講習スタートです。

町山さん.png

講師を務めた浦安市消防署救急隊の町山さん

画面を見つめる学生たち.png
冒頭のメッセージ映像を学生たちが真剣な表情で見つめる

急病人を想定したシナリオトレーニングで
BLSの流れをつかみます

映像に出てくるのは心臓震盪が原因の心室細動。ユニフォーム姿の男性の胸に打球があたり、その衝撃で心室細動が発生。男性は意識を失います。
まずは周囲の安全を確認し「大丈夫ですか」と呼びかけます。反応がないので周囲の人に「119番とAEDお願いします!」と依頼します。
そして呼吸を確認。通常の呼吸はなく死戦期呼吸(心停止直後に見られるしゃくりあげるような呼吸)が見られるため、胸骨圧迫を開始します。人形を使ってグループ内で交代しながら1分間に100~120回、約5cmの深さでしっかり押してしっかり戻すという動作を、脳に血流を届けるイメージで行っていきます。良質な胸骨圧迫を継続することが重要なので、周りの人は「手の位置もうちょっと下!」「体まっすぐ!」「素早く交代して!」と声をかけ、胸骨圧迫の質を保ちます。

胸骨圧迫.png
人形を使った胸骨圧迫のトレーニング

胸骨圧迫2.png

音声ガイドにしたがってAEDを操作
正しい使い方を習得します

学校や公共施設、イベント会場など人が集まるところで目にするAED。いざという時どのように使用するのかわからないという人も多いでしょう。AEDは痙攣している心臓の筋肉に電気ショックを与え、規則正しい動きを取り戻させる機械。電気ショックが1分遅れると救命率は10%低下すると言われています。電源を入れると音声ガイドが流れるので、それにしたがって操作します。
胸骨圧迫を続ける学生たちのもとにもようやくAEDが到着。電源を入れ、音声ガイドにしたがってパッドを装着します。これで心電図を解析して心室細動か否かを調べてくれるのです。周囲の人には「解析をしています。離れてください!」と声をかけます。
「電気ショックが必要です」と音声ガイドが流れたら、周囲に「電気ショックをします。離れてください!」と注意を促し安全を確保。電気ショックボタンを押します。

AED.png
グループで協力しあいながらAEDのパッドを装着する

医療社向け一BLS.png

救急隊が到着するまで平均8.6分
勇気をもって行動を

救急隊が到着したところでシナリオトレーニングは終了。頬を紅潮させた学生たちに先生方から「頑張ったね!」というねぎらいの言葉が送られ、自然と拍手が湧きました。
町山さんからは「救命措置の結果で責任を問われることはないので、勇気をもって行動してほしいと思います。しかし救急隊が心肺蘇生法をしても助かる人は10%未満、バイスタンダーで30~40%というのが現実です」というお話が。救急医療の現場で活動する町山さんの言葉に、学生たちの表情も引き締まります。また、人の生死をわける現場に立ち会ったことでストレス反応が出ることもあるそう。そのような場合には、信頼できる人に相談するか専門医療機関を受診してほしいとのお話もありました。

講習後半は「医療者としての一次救命処置」
チーム蘇生の重要性を学びます

後半はBVM(バッグバルブマスク)を用いた上級者向けの一次救命処置のトレーニング。医療従事者として良質なCPRが求められます。前半に学んだ技術を使いながら、12人のチームで協力して目の前の急病人を救うべく行動する訓練です。
はじめに救急隊員が行うBLSを映像で確認。30回の胸骨圧迫の後、直ちに気道を確保しBVMを使って人工呼吸を2回行うという動作を繰り返していきます。
学生たちはグループを2つにわけ、片方が胸骨圧迫とAEDの操作を、他方がBVM換気を担当。準備ができたら町山さんの合図でスタートです。「体が斜めにならないようにね!」「30対2だよ!」などと先生からも声が飛びます。BVMの装着に手間取るグループもある中、「顎を引いて入れてあげるんだよ!」「しっかり気道を確保して!」とアドバイスが送られます。
AEDの操作では、音声ガイドにしたがって冷静に行動する学生の姿が。パッドもスムーズに装着し、周囲への注意喚起もしっかりできています。先生同士が「上手になってきましたね」と話す声も聞こえてきました。

操作法指導.png

後半はバッグバルブマスクを用いた上級者向けの一次救命処置を学ぶ

医療者向け.png胸骨圧迫とBVMによる人工呼吸、AEDによる電気ショックを組み合わせたトレーニング

講習の最後はグループ対抗で蘇生率を競います

「実際の現場では、救急車到着までもっと長い時間がかかります」と町山さん。良質なCPRを提供するためには互いに声をかけ合いチームで協力することが何より重要です。
講習の最後は、胸骨圧迫の精度を評価する機能を持った人形を使いグループ対抗で競います。正しい深さ、正しいスピードでなければ減点。皆で協力して大切な患者さんを助けます。
「よーい、開始!」4分間、どのグループも手拍子とかけ声で胸骨圧迫のペースを維持。「頑張れ!」と声をかけ合い、交代もスムーズにできているようです。

グループ別競争.pngチームで胸骨圧迫の精度を競い合う

長い長い4分が過ぎました。結果の集計後、先生から成績上位のチームが読み上げられると、各チームからは歓声と拍手が起こりました。町山さんからは「1位チームのパフォーマンスは93%。これでも決して高い数字ではありません。でも、勉強していくうちに完璧に近いパフォーマンスができるようになります。将来、看護師になった皆さんと連携して活動するのが楽しみです。患者さんに寄り添ういい看護師さんになってくださいね」とエールをいただきました。
体育館内に響く大きな拍手!町山さん、工藤さんはじめ浦安市消防署救急隊の皆さま、本当にありがとうございました。

【まとめ】
高い技術と思いやりの心を持った看護師になるべく
第一歩を踏み出した学生たち

最後には学生部長の岩渕先生から「これを機に、改めて将来どんな看護師になりたいか、どう生きていきたいか考えてみてください」とのお話があり、真剣な眼差しでうなずく学生の姿も見られました。
目の前の人を助けたいという強い思いで講習に臨んだ学生たち。今回の講習は、身体だけでなく「心を癒す看護」を実践する看護職者への第一歩になったに違いありません。
実際に目の前で人が倒れたら迷わず行動できるか、と言われればまだまだ自信を持てない人も多いかもしれません。浦安市消防署では年に8回3時間の講習、年に4回8時間の講習を開催しており、市内に通学する学生は無料とのこと。スキルアップのために積極的な受講が望まれます。

講習を終えて

王 迪先生

王先生.png

― 今回の講習の目的をお聞かせください。
新入生の皆さんは看護学部に入学したばかりですので、まずは自分が将来、医療人になるのだと自覚してもらうことが目的です。これからの4年間、一次救命処置も含め多くの看護技術をしっかり学び、卒業後は思いやりの心と確実な技術を持ち、自分の仕事に責任を持てる看護師になってほしいと考えていますので、今回の講習はそのための第一歩と位置づけています。

― 学生たちの様子をご覧になってどのように感じましたか。
私が担当したグループはBLS講習の受講が初めてという学生ばかりでしたが、皆大変強い関心を持ち、講習の目的をよく理解していたと思います。1分でも早く蘇生を始めることで患者さんの命を助けられるということをしっかり認識し、真剣に取り組んでいました。また、仲間と声をかけ合ってチームプレーもできていました。講習が始まった時よりもスキルも意識も確実にレベルアップしていたと思います。

講習を終えた学生たち

学生たち.png
左から木村さん、寺師さん、山﨑さん

木村 早那さん
中学と高校で講習を受けたことはありましたが、AEDは初めてでした。緊急時には皆で声をかけ合って行動すること、そしてチームワークが大切だと感じました。そのような場面に出合った時には十分意識して動きたいと思います。看護師は医療職者の中でも一番患者さんの心に寄り添う職種。思いやりの心を持つのはもちろん、今回の講習のような緊急の場合にも臨機応変に対応できるような知識を身につけていきたいです。

寺師 真優さん
高校時代にAEDまでは経験しましたが、BVM換気は初めてで、将来の医療者の仲間入りをしたのだと実感しました。これからは自分が率先して一次救命処置を行わなければいけないと思います。消防での講習なども積極的に参加して技術を確実に身につけたいですね。看護師は患者さんに一番近い存在で、医療者としての冷静さ、患者さんに寄り添う思いやりの心の両方が大切だと思います。医師と患者さんのよい橋渡し役になりたいです。

山﨑 文乃さん
このような講習を受けたのは久しぶりで開始前はかなり緊張していました。将来、医療従事者になる身としてこのような機会をしっかり活用し、訓練を重ねることで自分のものにしていきたいと思います。今後も機会を見つけて講習に参加したいです。将来は患者さんの心に寄り添い、患者さんのことを知りたいという思いを日々誠実な姿勢で示し、患者さんやご家族の話に耳を傾け、安心して任せていただける看護師になりたいと思っています。