リポート

2021年03月24日

新たな医療を求めて世界へ! 全学を挙げて米国医師免許取得を目指す順天堂の挑戦

国内で医学教育を受け、医師免許を取得した医師が米国で医療行為を行うためには、USMLE(United States Medical Licensing Examination:米国医師国家試験)を受験し、「ECFMG certificate」を取得する必要があります。順天堂大学医学部では2010年代より学生の「ECFMG certificate」の取得を奨励し、「順天堂ECFMG対策コース」を設置。2020年度よりさらに対策を強化する一方で、取得に向けた学びの場として学生の間でも「国際医療同好会」が発足するなど、世界へ羽ばたくための環境が整いつつあります。

順天堂大学医学部で「ECFMG certificate」の取得を目指す

「ECFMG certificate」(以下、ECFMG)はUSMLEの以下のSTEP1~3に合格した者に与えられます。

STEP1:基礎医学
医学部で履修する科目が中心。

STEP2:Clinical Knowledge(CK)臨床医学
医学部で履修する科目が中心。外国語試験として今後、OET(Occupational English Test)のスコア取得が必要。

STEP3:医療知識と実践に関する総合的な試験

試験はすべて英語で実施され、最初の受験から7年以内にすべてのSTEPに合格することが求められます。これは、国内の医学部で教育を受けた学生にとってかなりの難関です。2010年代からECFMG対策コースを設置してきた順天堂大学では、現在、医学部消化器・低侵襲外科学講座の折田創准教授(写真左)、英語教育を担当する浅野恵子教授(写真中央)、自身もECFMGを取得した健康総合科学先端研究機構の内田浩一郎准教授(写真右)が中心となり、学部4年次でのSTEP1合格、医師国家試験後のSTEP2合格を目標に設定し、同コースのプログラムの再構築を進めています。

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左から折田創准教授、浅野恵子教授、内田浩一郎准教授

ECFMGを取得するメリット:
米国の医師と同じ土俵に立ち、最先端の医療を経験できる

日本の医師が米国の大学や医療機関に留学し、研究に携わる事例は数多くありますが、医師として臨床で治療を行うことは認められていません。自身も米国ジョンズ・ホプキンス大学へ3年間の留学経験がある折田准教授は、その際の経験をこう振り返ります。
私はECFMGを持っておらず、ジョンズ・ホプキンス大学病院で大学が定める研修やテストを経ても、採血・点滴・胸水穿刺や内視鏡生検の手伝いしかできませんでした。手術室での見学は許されましたが自分が手術することはできず、"自分ならこうするのに..."と、もどかしい思いや悔しい思いもたくさんしました」(折田准教授)
また、「多様な人種や民族が暮らす米国には、日本ではなかなか出会えない疾患があり、治療方法もダイナミックです」と折田准教授は話します。実際に治療に携わることができれば、いろいろな意味で日本にはない医療を体験でき、医師自身の技術向上やキャリアアップにもつなげられるでしょう。米国発の新しい医療を日本へ持ち帰ることもできます。
日米の医療レベルの差を一概に論じることはできませんが、折田准教授は米国の臨床を経験する意義を次のように表現します。
今のままでは米国の医師と同じ土俵に立つことができません。同じ土俵に立ってこそ初めて見えることがあるはずで、これから医師になる若い世代にぜひ、その光景を見てもらいたいのです」(折田准教授)

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折田創准教授

ECFMG取得者・内田准教授の体験談:
日本では機会が少ない移植医療に携わるため、米国へ

2020年度より「順天堂ECFMG対策コース」で実行委員を務める内田浩一郎准教授は、ECFMGの取得者であり、米国の大学病院での勤務経験を持っています。
「私がECFMGを目指そうと思ったきっかけは、順天堂大学6年次の海外病院実習です。心臓血管外科で花形だった心臓移植医療を見たくて、米国イェール大学で2か月ほど過ごしました。当時、日本国内では心臓移植や肝臓移植はベテランの先生方が担当されるものでしたので、米国なら若いうちからトレーニングを積むチャンスがあるのではないか、と考えたんです。米国での病院実習では、ECFMGを取得してアジアや南米からトレーニングのために渡米している医師が多いことも印象的でした」(内田准教授)
そこで内田准教授は初期研修医時代の2年間にECFMGの受験勉強に打ち込みました。勉強時間は主に出勤前の早朝の時間帯と、勤務後の夜9時から深夜まで。平日は1日5時間、週末はほぼ終日受験勉強に費やしたと言います。
「これは私の持論ですが、受験勉強の効率を上げるためには一定の勉強量が必要です。私は国内の医師国家試験後すぐにECFMGに取り組んだので、勉強量の多さに慣れていました。ECFMGで大変なのは、数多い問題を決められた時間内に解かなければならないこと。しかも英語で読み書きしなくてはなりません。私も何度もあきらめかけたのですが、勉強は一度リズムに乗るとぐんと進みますし、モチベーションも上がるものです。受験を考えている方には、その状態に自分自身を持っていけるまでぜひ頑張っていただきたいです」(内田准教授)

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ECFMGを取得したからこそわかった
日米の医師のあり方、求められる能力の違い

ECFMG取得後、内田准教授は米国マイアミ大学で2年半勤務。目標だった臓器移植の手術を朝から夕方まで毎日施術し、米国式トレーニングを受けることができました。
「上司とディスカッションしながら治療方法やリカバリー策を考える機会が多く、その考え方や判断に学ぶことが多い日々でした。米国では医師は"治療マネジメント"をする存在。1件の移植手術には、医師・看護師・研修医だけでなく、移植コーディネーター・移植薬剤師・移植ソーシャルワーカーなどが関わっており、医師はリーダーシップを発揮して多職種チームをまとめなければなりません。これはECFMGを取得しなければ経験できなかったことです」(内田准教授)
他にも、米国で医師として働いたからこそ、米国の医療経済や病棟運営の仕組みを理解することができ、医師がMBAを取得して医療ベンチャー企業を立ち上げたり、病院運営に手腕を発揮する様子を目の当たりにすることができたと言います。
「私自身が現在、順天堂大学で奥村康特任教授とともに免疫寛容プロジェクト(https://www.juntendo.ac.jp/co-core/research/meneki.html)を立ち上げ、ベンチャー経営や医師主導治験事業に関われているのも、米国での経験が大きいと思っています」(内田准教授)

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内田浩一郎准教授
<関連リンク>
肝移植後の免疫抑制剤をゼロに オールジャパンで臨む医師主導治験
https://www.juntendo.ac.jp/co-core/research/meneki.html

英語力向上のためのカリキュラムで
学生の英語力は国内トップクラスに!

ECFMG取得に向けて、避けて通れない関門が英語でしょう。順天堂大学では以前より英語教育に力を入れており、2008年度以降、1年次に2回TOEFLを受験して1年間でどれほど英語力が向上したのかを測定し、学生の英語力強化の指針としています。2013年度には英語ネイティブスピーカーによる長文リスニングを取り入れた「Academic English for TOEFL」や日本人教員による学習相談も兼ねた「TOEFL演習」など、必修3科目・選択10科目以上を設置。1年次で英語の必修科目が終わる大学も珍しくない中、2019年度からは4年次まで英語を必修科目として義務づけました。
浅野教授によると、「順天堂の学生の英語力は国内トップクラス」。入学試験に国際臨床医枠や留学生枠が設けられてから、その傾向はさらに顕著になったと言います。「英語のクラスはTOEFLの点数によってクラス分けされますが、どのクラスでも、学生の基礎力は十分です。トップクラスに関しては、日常会話も英語で交わされています」(浅野教授)
論文を英語で読み書きし、働き始めてからもつねに新しい情報をアップデートしなくてはいけない医師にとって、英語は一生必要なツールです。浅野教授は、「国内で暮らす外国人やインバウンドの方々に英語で診察する機会も増えており、今の学生は英語の必要性をよく理解しています」と話します。その結果、順天堂では選択科目にも関わらず、80名もの学生が1年次前期の「ECFMG英語」のクラスを受講しているほどです。

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浅野恵子教授

大切なものは英語力よりも医師としての診断能力。
英語に関して心配は不要!

浅野教授によると、「英語上達の極意は強い信念と継続力」。モチベーションがあれば必ず上達する能力であり、話す機会が多ければ多いほど上達のスピードが加速します。順天堂ではそのための環境を用意し、学生がシャワーのように英語を浴び、英語力を定着させられるようサポートしています。
また、実際に米国の大学病院で勤務した内田准教授も「英語力に関しては心配する必要はない」と断言します。ECFMG取得前の内田准教授の海外経験は、学部1年次に米国での1か月間のホームステイのみ。それでも「大学の授業をしっかり受けていれば大丈夫」だと言います。
「私の経験では外来も手術も専門用語が多いので話しやすく、病院では英語がよく通じました。むしろ、アパートを借りたり、車を購入する時のほうが会話に苦労したぐらいです。また、米国でトレーニングを受ける分には、ネイティブ並みの英語力は必要ありません。英語力よりも医師としての診断能力のほうが重要。今の学生さんの英語力なら充分通じると思っています」(内田准教授)

ジョンズ・ホプキンス大学との国際交流協定により、
さまざまな取り組みが加速中

ひとりでも多くの医学生にECFMGを取得してもらうため、「順天堂ECFMG対策コース」では、さまざまな取り組みを行っています。1人の教員が2~3人の学生をサポートする担任制もそのひとつ。月1回学生と話す場を設け、悩みを聞いたり、アドバイスを送ったりしています。また、米国の著名な医師免許受験対策予備校であるKaplan Medicalのオンライン授業を10分の1の受講料で受けられる制度も整備。学生の間でも自主的に勉強を進めるために「国際医療同好会」が立ち上がり、教員を巻き込んだ勉強会を月2回開催しています。

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担任の教員の研究室で行われている勉強会の様子

さらに2020年8月、順天堂は米国ジョンズ・ホプキンス大学と国際交流協定(MOU)を締結。これは2003年に折田准教授が同学へ研究留学して以来、研究交流を深めてきた成果で、今後は研究・留学・授業など、さまざまな面で交流が加速すると考えられています。
公衆衛生分野で世界一と評されるジョンズ・ホプキンス大学との交流は、無限の可能性を秘めています。いずれはECFMG対策コースの学生を見学に連れていくことも計画していますし、医学部のみならず本学の保健医療学部や国際教養学部などとの連携も視野に入れています。学生のみなさんには、この環境を最大限に利用していただきたいのです」(折田准教授)
ECFMG取得に向けた様々な取り組みが展開される中、順天堂大学では今年、医学部6年生の学生2名がUSMLEのSTEP1に合格しました。
「私は、学生にはいつも "目の前に高い山があるのだから、とにかく登ってみようよ"と話しかけています。ECFMG取得も同じです。その先(取得後)の光景はまだわかりませんが、登らないとその光景を見ることもできないのです」(折田准教授)

<関連リンク>
医学生たちにグローバルな学びの場を。米国で出会った二人の医師が広げる大学交流の輪。
https://www.juntendo.ac.jp/co-core/education/global.html
学生インタビュー

「国際医療同好会」のメンバーである学生2名にお話を聞きました。

先生方の手厚いサポートと仲間との切磋琢磨が
難関試験に挑むモチベーションに!

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<国際医療同好会>
部長:山田さん(医学部3年:写真右)
副部長:八木さん(医学部3年:写真左)

国際医療同好会の活動について教えていただけますか?

八木 2週間に1度、先生方を招いてセミナーを開催しています。毎回6問の問題を解くと決めていて、事前に予習したうえで、セミナーで発表しています。

山田 医師国家試験並みのボリュームのある試験ですので、セミナー以外にも週1回先生方の研究室へ伺い、勉強もしています。

ECFMGの取得を目指したきっかけは?

山田 私は発展途上国で無償の医療行為を続ける国際医療NGOの小児外科医の方に憧れ、医師を目指すことを決意しました。途上国支援の前のステップとして、ECFMGの取得を目指しています。

八木 僕は同級生に誘われてこの同好会に参加しました。それまでは正直なところ、ECFMG取得を全く考えていませんでしたが、周囲に高い志を持つ仲間が多く、すっかり感化されました(笑)。今は「自分も高いフェーズに辿り着きたい!」という想いです。

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山田さん

現在、どのように勉強を進めていますか?

山田 大学が提携しているKaplan Medicalのオンライン授業を受けています。勉強すべきことが膨大にあり、今は過去問題を解き続けているところです。大学を通して、とても割安に受講できるため、助かっています。

八木 先輩からアドバイスをいただいて、参考書と問題集を同時進行で進めています。疾患予想ができるかどうかがポイントで、あらゆる知識を体系的に理解できていないと解けない問題が多いです。なかなか正解に辿り着けず、苦戦しています。

同好会に所属したことで「気づき」や「刺激」はありますか?

山田 同好会には1年生も参加しています。まだ基礎医学しか学んでいない1年生が積極的に取り組んでいるのを見ると、臨床医学まで学んだ3年生も負けていられない!と思います(笑)。

八木 ECFMGは生半可な気持ちで手を出してはいけない試験です(笑)。でも、仲間の存在がとても大きくて、わからない問題は素直に仲間に質問し、互いに教え合うことができるんです。自分にはない視点の答えも多く、視野が広がります。

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八木さん

山田 研修医時代にECFMGを取得された先輩にお話を聞く機会もいただき、勉強のコツを教えてもらうこともできました。折田先生をはじめ先生方に密に相談し、同好会に真面目に参加した学生には米海軍横須賀病院やジョンズ・ホプキンス大学病院の見学を計画中です。医学の知識も英語力も求められるので、軽い気持ちでは参加できませんが(笑)。

八木 山田さんは国際臨床医枠で順天堂に入学して英語が堪能ですが、僕はTOEFLクラスでは真ん中ぐらいの英語力です。それでも、最近になって英語を日本語に変換せずに参考書が読めるようになりました。できれば、在学中にSTEP1に合格したいです。

ECFMG取得後の目標は?

山田 まず米国へ臨床留学し、その後に途上国での医療ボランティアに取り組みたいと考えています。米国は人口も人種も多いので、日本では出会えない症例に出会えると聞いています。女性医師の活躍も目覚ましいですし、ぜひその環境に身を置きたいです。

八木 医療の本場・米国で臨床を体験してみたいです。その上で「米国の医学的思考とはどのようなものか?」「本当に必要な医学とは何か?」など、自分自身で改めて考えてみたいと思っています。

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国際医療同好会の学生たち。医学部長(前列中央)を囲んで。
<関連リンク>
卒業後にアメリカで医師免許を取得し、現地で活躍を続ける卒業生たちを紹介しています。

医師として世界で活躍する順大生! ~アメリカで医師免許を取得した卒業生たちの今~
https://www.juntendo.ac.jp/co-core/consultation/juntendo_ecfmg2.html