インタビュー

2020年03月12日

データから日本社会と世界を読み解く。時代の転換点にこそ活きる「社会学」とは―?

外国人材の受け入れ拡大、進む少子高齢化......日本社会は今、大きな転換点を迎えています。順天堂大学国際教養学部・グローバル社会領域の大槻茂実講師は、「社会学ゼミ」を担当。人間関係の多様性から社会を考える「社会学」の楽しさを学生たちに伝えています。時代の転換点にこそ活きる「社会学」とは何か、大槻先生に聞きました。

社会学とは「人間関係の多様性」から
社会を考察する学問

社会学とは、ひと言でいえば「人間関係の多様性から社会構造を明らかにする学問」です。ここでいう人間関係には、家族・親族、学校、友人、職場、地域社会など、あらゆるものが含まれます。学生によく冗談交じりで言うのですが、社会学の対象にならないのは「無人島」ぐらい(笑)。この研究領域の広さが社会学の魅力のひとつでもあります。
現在、日本社会はグローバリゼーションと少子高齢化という、とても大きな変化が同時に進んでおり、社会や行政のあり方も「公助」から「共助」への変換が迫られています。つまり、人間関係から社会のあり方まで、洗いざらい調べ直す必要があるのです。その中でも外国にルーツを持つ人々とそうでない人々の関係性を研究する「多文化共生」を、私はメインテーマのひとつにしています。

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かつてない大きな変化を迎えた日本社会

2019年6月末現在、日本で暮らす外国人人口は約283万人。2019年4月の改正出入国管理法施行を受け、前年末に比べて10万人近く増えて、過去最高となりました。各種報道によると、2025年までに50万人の増加が見込まれています。
こうしたグローバルレベルで起きている社会の変化を構造的に学ぶためには、国内の情報を集めるだけでは不十分です。例えば、過去何十年も移民を受け入れてきた欧米諸国では、国の首脳が「多文化主義は失敗だった」と語り、人々の間でも移民排斥感情が高まっています。多文化主義から後退した国々と比較した場合、多文化共生を進めようとする日本は真逆の状況にあると言えます。しかも、歴史的に多民族が交わることが多かった欧米に比べて、日本は単一民族ではないものの民族的同質性が非常に高い社会。外国から新たに人材を受け入れるのは非常に大きな社会的変化ですので、今後、日本社会がどう変わっていくのか、各種データから読み解いていく必要があります。

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学生が「社会調査法」を使って
国内外の人々にアプローチ

「社会学ゼミ」の中では、「社会調査法」を実践しています。「社会調査法」とは、収集したデータから社会で起きていることを明らかにする手法で、大きくは量的調査と質的調査に分けることができます。量的調査なら調査票を用いた郵送調査や面接調査、質的調査なら聞き取り調査が代表的です。また、質的調査の中には、調査対象地域の中に入り込み、地域の人々と生活をともにして調査する「参与観察」という方法もあります。
社会学は、今まさに社会の中で現実に起きていることを調査対象とするため、大学の中だけで完結する学問ではありません。例えば私のゼミには、離島で暮らす約200人を対象に質問紙調査を実施し、持続可能な地域社会の可能性を検討している学生もいれば、従来の研究で主流だった日本人側の意識だけでなく、在日コリアンの意識調査を行っている学生もいます。なかには国外で調査を行っている学生まで。この学生は「トビタテ!留学JAPAN」を活用してスコットランドに留学しています。スコットランドは、近年急速にLGBTフレンドリーな社会に変貌した国。その要因を調べるために、その学生は留学・研究をしています。今はデータ収集の難しさに直面しているようで、スカイプで相談を受けることも多いです。その他にも、郊外社会における共助の可能性を実証的に捉えようとしている学生もいます。

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社会学ゼミの様子

このように「社会学ゼミ」にいるのは、卒業論文という枠を超えた素晴らしい研究を進めている学生ばかり。学生の視点でも、政策提言につながるような実践的な答えが導き出せるように、私も指導しています。そして私自身、分析結果の予測がつかないものも多く、今から楽しみで仕方ありません。

データ分析におけるロジカルなプロセスの習得が
実社会で必ず役に立つ

学生はさまざまな問題に関心を持ち、卒業論文にそのエネルギーをぶつけていますが、まだ分析方法が身についていないため、どう形にすればよいのかわからず、私に相談してくることが少なくありません。こうした能動的な相談は大歓迎。意欲的な学生には、調査法や分析法を手取り足取り指導しています。
当然のことですが、研究では収集したデータを科学的な方法で分析しなくてはなりません。基本統計量や基礎的な推測統計は学部生レベルでも十分理解できますし、時には2変数間の関連をとらえるクロス表、t検定、相関係数、分散分析、単回帰分析に加えて、多変量解析などの統計学的手法を扱うこともあります。
ですが何より私が学生に身につけてもらいたいのは、データ分析以前のデータクリーニングの技術です。現場で収集してきたデータは回答ミスなどが多く、そのままでは分析に進めないものが少なくありません。これを1件1件洗い直し、分析できる状態にする技術がデータクリーニング。この技術は経験者から教わらないと身につかないため、私も指導に力を入れています。
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授業で学生たちに向かって話をする大槻先生

データクリーニングにしても、データ解析にしても、非常にロジカルなプロセスです。卒論を材料にロジカルなプロセスを経験すれば、実社会でもさまざまな場面で応用が効くもの。このようなプロセスを繰り返すことでロジカルシンキングを身につけることは、学生にとってまたとない財産になるはずです。

学生時代に社会調査の面白さに目覚めて

私自身のお話をしますと、社会学にのめり込んだのは大学3年生のとき。所属していたゼミで、郊外社会に住む住民を対象とした質問調査を実施しました。私たち学生が調査票を作成し、1軒1軒郊外のお宅を訪問して回るのですが、それはそれは苦労しました(笑)。このとき、1軒でも多くのお宅から話を聞くために何をすればいいのか、ずいぶん考えました。
研究とはデータに則して物事を考えること。そのデータがどうすれば多く集まるのか。どの時間帯に訪問すればいいのか。調査票の文章をどう工夫すればいいのか。非常に実践的な経験を積み、「調査って面白いな」と思ったことがそもそもの始まりでした。さらに人の意識・思想・信条をデータ化し、読み解く面白さ。その面白さにハマって現在に至っています(笑)。
ですから、学生にも小規模でいいので自らの問題関心に沿った社会調査を自分自身の手で実践してほしいと思っています。データを取る難しさと面白さを、学生のうちにぜひ実感してもらいたいです。

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東京都羽村市で活動するボランティア日本語教室『翼の会(夜の部)』での授業風景(2020年1月21日撮影)

数学や語学は道具に過ぎない。
データを読み解く力が共通語になる

もちろん、統計学的分析には数学も必要です。しかし、恥ずかしながら、私も高校時代の数学は赤点レベルでした(笑)。ですから、数学が苦手でもまったく心配する必要はありません。データを読み解くために必要だとわかれば、自発的に勉強するようになるものです。
語学力ももちろんあるに越したことはありません。しかし、語学力が全てではありません。データを読み解くスキルもある種の共通言語のようなもの。中国人だろうがアメリカ人だろうが日本人だろうが、平均値は平均値ですし、標準偏差は標準偏差です。データを読み解くスキルが必ず語学力をサポートしてくれます。私はいつも「片言の外国語でいいから世界へ飛び出してほしい」と学生に伝えています。
統計学も語学力も、あくまでも道具であって目的ではありません。道具を使って何ができるか、何をするべきか、学生一人ひとりに考えてほしいです。

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世界の人と議論ができる「知識」と「洞察力」を

国際教養学部での4年間の学びを通じて、私は、学生に世界の人と議論ができる「知識」と「洞察力」を持つ人になってもらいたいと考えています。グローバリゼーションも、少子高齢化も、移民排斥問題も、すべて世界中で議論されている問題で、国内だけで結論を出すことは不可能です。世界中の人々と同じテーブルについて、ディスカッションしたり、データを検討しながら語り合うのが、今や世界の常識。そうでないと、考え方の違う相手を説得することはできません。学生たちには、データを通して自分自身をプレゼンテーションできる人材になってほしいと思っています。

大槻 茂実(おおつき・しげみ)
順天堂大学国際教養学部 グローバル社会領域 講師
東京都立大学人文社会学部社会学科を卒業。同大学大学院を経て、首都大学東京大学院(人文科学研究科)にて博士号を取得(社会学・論文博士)。首都大学東京都市教養学部都市政策コース(組織再編により2018年度は都市環境学部都市政策科学科)助教を経て、2019年より順天堂大学国際教養学部講師。首都大学東京での助教在職中に、リーディングサイエンティスト賞を受賞。また、客員研究員としてカリフォルニア大学アーバイン校で在外研究を行う。
専門は社会学、特に多文化共生、社会階層論、都市・地域社会学、社会調査法に関心をもつ。主な業績として、『郊外社会の分断と再編―つくられたまち・多摩ニュータウンのその後』(共著・晃洋書房)、『現代の階層社会-流動化の中の社会意識』(共著・東京大学出版会)などが挙げられる。