リポート

2018年12月28日

日本で暮らす外国人のための医療関係者向け「やさしい日本語」ワークショップを開催

外国人が日本の病院を受診する際、大きな障壁となる「言葉の壁」。 医療関係者の側から「言葉の壁」を越える試みとして、順天堂大学医学部医学教育研究室の武田裕子教授がNPO法人「街のひろば」とともにワークショップ『医療者のための「やさしい日本語」入門』(後援:一般社団法人東入間医師会、三芳町)を企画し、2018年12月1日(土)に埼玉県三芳町の藤久保公民館で開催しました。順天堂大学医療看護学部の岡本美代子准教授や国際教養学部の大野直子講師、医学部の学生4名をはじめ、地域の医師・看護師、地域で暮らす外国人の方など、総勢約70名が参加。外国人にわかりやすい日本語とはどのようなものか、医療関係者が考えるきっかけを提供しました。

「英語よりも簡単な日本語のほうが伝わる」
――この事実を地域の医療関係者に伝えたい

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順天堂大学医学部医学教育研究室 武田裕子教授

日本で暮らす外国人はおよそ231万人(2018年6月現在)。そのうち英語でコミュニケーションをとっている人は20%くらいですが、簡単な日本語なら理解できるという人は6割を超えると言われています。英語圏の人以外には英語よりも「やさしい日本語」の方がコミュニケーションしやすいことは行政窓口や観光業界では周知の事実であり、成果も挙げていますが、残念なことに医療業界ではまだまだ知られていません。
武田教授は以前より、外国につながりを持つ子どもたちへの学習支援活動をおこなう埼玉県三芳町のNPO法人「街のひろば」と協力し、医療相談を実施してきました。こうした活動を通じて医療関係者がわかりやすい言葉で話す必要性を痛感し、地域の医療関係者も参加する大規模なワークショップの開催となりました。

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NPO法人「街のひろば」と協力して実施した医療相談の様子(2017年6月撮影)

<関連リンク>
NPO法人「街のひろば」との"外国につながりを持つ家族"への支援活動について
https://www.juntendo.ac.jp/admission/real/borderless.html

【インタビュー】医学部医学教育研究室 武田裕子 教授「社会的処方を身につけ、本当の意味で患者さんに寄り添える医師を育成」
https://www.juntendo.ac.jp/co-core/education/yuko_takeda.html

「言葉の壁」「心の壁」を越えて
誰もが暮らしやすい社会に

会場では参加者が6グループに分かれて着席。各グループは8~9名。ファシリテーター1名をはじめ、医師・看護師など医療関係者が3~4名、地域の外国人の方、日本語ボランティア、医学部の学生などが入り、バランスの取れた構成です。
ワークショップのはじめに、NPO法人「街のひろば」梶加寿子理事より開会のあいさつがありました。同NPOで長く外国人家庭の生活支援や生活相談を続けている経験から、医療の現場で外国の方々が困る事例を紹介し、「医療通訳を現場に伴えば、もちろん話は通じるが、それはめったにかなわない。医療関係者をはじめ、私たちがやさしい日本語を習得すれば十分なことが少なくない」と参加者に語りかけました。

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NPO法人「街のひろば」梶加寿子理事

続いて、日本人の多文化共生意識の醸成を目指すNPO法人「CINGA」の新居みどりコーディネーターから、「外国人が日本で困る3つの壁」についてお話がありました。「言葉の壁」「法制度の壁」「心の壁」の3つの壁のうち、法制度は国単位で議論しないと解決できませんが、「言葉の壁」と「心の壁」は一人ひとりが越えていける壁。医療専門職が「やさしい日本語」を使えたら、外国の人々がもっと暮らしやすい社会になるはず、と締めくくりました。

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NPO法人「CINGA」の新居みどりコーディネーター

「やさしい日本語」の答えはひとつではない。
相手や状況に合わせて正解を探る

さらに武田教授から「やさしい日本語」のつくり方について、簡単なレクチャーがありましたので、ご紹介しましょう。

「やさしい日本語」のつくり方

①短く話す。
接続詞を使った長い文章にせず、一文一文を短く切ります。

②最後まではっきりと話す。
日本語は語尾が肝心であるにもかかわらず、会話の中ではあいまいなケースが少なくありません。日本人同士ならなんとなく伝わる内容も外国人には察することが難しいので、最後まではっきりと言い切ります。

③尊敬語・謙譲語の使用はやめて、丁寧語(です・ますの形)を使いましょう。
尊敬語・謙譲語は相手への敬意を示すものですが、外国の方にはかえって不親切な日本語になってしまいます。とくに尊敬語がわかりづらいため、丁寧語で話すように心がけましょう。直截的なものいいに感じられますが、「やさしい日本語」では、分かりやすさが増します。もちろん、相手の日本語レベルによっては尊敬語を用いるのが適切な場合もあります。

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ほかに擬音語・擬態語を用いない、漢語を和語に言い換えると伝わりやすい、という特徴もあります。重要なのは、「やさしい日本語」の答えはひとつではないということ。相手や状況により伝わりやすい言葉は異なり、「これが正解」というものもありません。大事なのは、相手の様子をみながら言葉を探し文章をつくって、理解を得ようとする姿勢です。
この後、いよいよグループごとのワークとロール・プレイのスタートです。

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グループワークの前にグループ内で役割分担を決めました。写真中央がファシリテーターを務めた医療看護学部の岡本美代子准教授。

やさしい日本語練習問題<単語編>

医療現場で頻出する単語を言い換え

【例題1】次の言葉を「やさしい日本語」に置き換えてみましょう。

「アレルギー」

あるグループでは、医師が「アレルギー」を「体に起きる不都合な反応。食べた後にじんましんができたり、気管狭窄が起きる」と説明しました。しかし、この説明では同じグループの外国人の方は理解できません。そこで、「どんなときになる?→なにかを食べた後、飲んだ後」「どんなふうになる?→体が赤くなったり、かゆくなったりする」など、短い文章に置き換えたところ、わかりやすくなりました。
グループディスカッションの結果、「伝えたい内容を絞り込み、簡単な言葉を使って短い文章にすればいい」という結論に。牛乳アレルギーの患者さんに説明するなら、例えば「あなたは牛乳は飲めません。体が赤くなる。かゆくなる。」などです。また、外国人の方の「写真やビデオで見せてくれたら、わかりやすい」という意見に、全員が納得の表情でした。今では、スマホで様々な画像がすぐに取り出せます。

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グループ内の外国人参加者の意見を聞きながら、伝わる表現を考えていきました

やさしい日本語練習問題<文章編>

医療関係者がよく使う言葉を言い換える

【例題2】次の文章を「やさしい日本語」にしてみてください。

「軽快しましたので、これ以上の通院は不要です」

まず、「軽快」が医療関係者以外にはわかりづらい専門用語のため、「初めて聞く言葉だ」という声が聞かれました。そこで医師が「病気が治りましたから、明日から来なくていいですよ」と言い換えたところ、ファシリテーターから「から」や「ので」などの接続詞を使わずに、文章を短く切るようにアドバイスがありました。ここでファシリテーターが示した回答例は、
「病院は今日で終わりです。明日は来ません」
聞いた瞬間、外国人の方から「それいい!」と賛同の声が挙がりました。日本人の感覚では「敬語で話さないと失礼だ」「もう来なくていい、は冷たい表現」と思えますが、外国の方にはその感覚はありません。必要な情報をピンポイントで伝えることがやはり重要だと、グループ内に共通認識が生まれました。

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グループごとに出た回答内容を発表し合い、お互いの"気づき"を共有しました

ロール・プレイ<シナリオ1>

「捻挫」をどう伝える? 
「安静にする」とは具体的にどういうこと?

【例題3-1】
患者役(外国人の方)と医師役(医療関係者)に分かれて、ロール・プレイをおこないます。

患者は足首を捻挫して病院に来ました。
医師は「骨折ではなくて、軽い捻挫ですね。1週間はなるべく安静にしましょう。横になるときは足を挙上すると、早く腫れが取れますよ」と説明しました。

この医師の言葉を「やさしい日本語」に言い換えた説明を試みました。どのグループも「捻挫」の説明に苦労したようです。そのため、捻挫そのものの説明ではなく、「骨折していないことを伝えるだけの方がわかりやすい」という意見が多く見られました。中国など漢字圏の人には「筆談で『捻挫』と書くと伝わる」という経験も話されました。
「安静にする」もよく使われる表現ですが、外国人の方が「なるべく具体的な説明のほうがわかりやすい」と反応したところ、「外へは行かない」「走らない」「1週間はゆっくり歩く」などの表現を医師から引き出しました。また、「足を挙上する」はジェスチャーで実際にして見せるのが一番わかりやすいようです。

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医者役を務めた参加者たちは"捻挫"の説明に苦戦...

 

薬の種類や服用方法の説明のしかた

【例題3-2】
例題3-1の続きです。

医師が薬について説明します。
「湿布と鎮痛薬を処方します。鎮痛薬は毎食後1日3回内服してください。座薬も出しますので、痛みがひどいときには使用してください。鎮痛薬で胃が荒れる人もいるのですが、胃薬は必要ですか?」

あるグループでは、湿布を「貼る薬」、鎮痛薬を「痛みをとる薬」、座薬を「おしりから入れる薬」と表現し、外国の方にも伝わっていました。「毎食後」は「朝・昼・晩のごはんの後」。例えば「晩ごはん」は「夕ごはん」「夕食」「晩めし」「夜ごはん」など、いろいろな表現がありますが、どの単語がわかりやすいかは相手次第です。そのため「豊富なボキャブラリーが必要」という声が多く聞かれました。さらに外国の方から「胃」よりも「おなか」のほうがわかりやすい、「おくすり」といわれると全く別の新しい言葉に聴こえるという指摘もありました。

相手の言語レベルを最初に確認。
短い文章で、ゆっくり話す

一連のロール・プレイを終えて、各グループから次のような感想と意見が出されました。
まず、「相手の表情を見ながら、短い文章で、ゆっくり話すこと」。そのうえで相手が首を傾げたり、わからなさそうな様子を見せたら、もう一度ゆっくりと繰り返します。医師は多くの情報を伝えたいため、つい早口になりがちですが、ここは注意したいところです。
また、相手が外国の方だとわかったら、最初に「英語、わかりますか?」「ひらがな、わかりますか?」「漢字、わかりますか?」と確認するとスムーズです。漢字圏の方には漢字で筆談すると伝わりやすいですし、漢字圏以外でどうしても伝わらない場合は、「Google翻訳」アプリを利用すると適用言語数も多くて便利です。ちなみに、アプリで翻訳する場合も「やさしい日本語」で入力すると、驚くほど正確な外国語に翻訳されるケースが少なくありません。

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グループワーク後には、多くの参加者が「これから"やさしい日本語"を使ってみたい」と感じてくれました

「やさしい日本語」は
ご高齢者や子どもにも有効

その後、NPO法人「CINGA」の新居コーディネーターが「初めてやさしい日本語を使われるのに、みなさんとてもスムーズになさっていた。それは普段から地域でご高齢者やお子さんに接しておられるからでしょう」と総括。参加者の間から「やさしい日本語」は小さい子どもたちや認知症の方にも理解しやすいという声が聞かれました。
最後に、東入間医師会副会長の日鼻 靖医師が、「改めて日本語の難しさがわかった。言葉は相手を理解するための大切な道具。医療を通じてコミュニケーションし、いろいろな人が共生できる地域にしたい」と話され、ワークショップは終了しました。

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東入間医師会の日鼻 靖 副会長

参加者の声

順天堂大学医学部3年 高梨 航輔さん

「私はつい長文で話してしまうのですが、本日のセミナーで短い文章を重ねていくことが重要だとわかりました。実際にロール・プレイで外国の方とお話をする機会があり、普段の生活で相手に合わせた日本語を使った経験がないことを実感。英語に頼り過ぎてしまうのも問題だと感じました。今後もこのようなセミナーがあれば、ぜひ参加したいです」

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医学部3年生の高梨 航輔さん

参加者アンケートより

ワークショップに参加いただいた方からのコメントをご紹介します。

日本語を分かりやすく話すことがここまで大変とは思わなかった。今後この経験を活かしたいです。
医療者にとって「やさしい日本語」は、外国の方だけでなく、日常業務にも必要なことと思いました。
日本人の高齢者への説明にも通じる。グループワークは大変よかった。
日本語が話せる人なら誰でも出来るとのことなので、慣れていきたいと思います。
これ以上くだけないと思っていた表現が他にもあることを学んだ。
日本人が考える「やさしい」とは相違があると感じました。「やさしい日本語」を話すことは、患者さんをよくみる(表情や生活背景含め)ということだと感じました。これをマスターすれば、どんな層の患者さんでも応用が出来ると思いますので、職場で共有したいと思います。
とても勉強になりました。ワークショップで、いろいろと他の人やグループの意見を聞けて、考えが広がりました。
頭の中ではもう少し伝えられるかと思ったが、とても難しかった。話そう、伝えようとすればするほど、早口になったり、言葉が多くなったりしてしまった。短い文章、ゆっくり、理解を確認しながら、が大事と思った。医療者の固定観念をはずさなくてはと思った。
相手のことを思うことが、まず大切なことだと思いました。

最後に...

武田裕子教授コメント

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医療者を対象にした「やさしい日本語」のワークショップを地域で開催するのは、たぶん日本で初めての試みであったと思います。医師、看護師、薬剤師、医療事務、日本語ボランティア、地元の国際交流センターと様々な立場の方々がともに学び合うことで、より多くの気づきを得ました。ご協力下さった日本語を母語としない方々が、楽しかったと笑顔を見せてくださったのが本当に嬉しかったです。

一人ひとりが健やかに生きるには、「居場所」「役割」「つながり」が必要といわれます。これから、様々な地域でこうしたワークショップが開催されていくことを願っています。日本人の私たちは「やさしい日本語」のスキルや姿勢を得られますし、外国から来られた方々に先生役をお願いできれば、地域のなかでつながりが生まれます。医療機関や医師会、医療系の教育機関が主催すれば、自らの学びになるとともに、日本語を母語としない方々の医療アクセスの改善につながり、さらには共生する地域づくりに貢献できるチャンスとなります。

今後は専門家と共に研究会を立ち上げ、身近な医療機関で"医療×「やさしい日本語」ワークショップ"を開催するとともに、広く利用して頂ける教材の開発やマニュアル作成を行っていく予定です。