インタビュー

抜群の機動力で救急医療に貢献する順天堂静岡病院のドクターヘリ。

近年、ニュース映像やTVドラマなどで目にする機会が増えた「ドクターヘリ」。2018年3月現在、全国で52機のドクターヘリが配備され、一刻を争う救急患者さんの搬送と治療に活躍しています。 2004年3月、順天堂大学医学部附属静岡病院は全国で8番目という早さでドクターヘリを配備。静岡県東部地域で出動件数が累計1万回を超えるなど、地域の救急医療に大きく貢献しています。自らヘリに乗り込み、フライトドクターとしても活動する同院救急診療科救命救急センター長の柳川洋一教授に、日常の業務や活動の成果についてお話を聞きました。

消防の要請を受けて出動!
機内でプレホスピタルケアを実施。

ドクターヘリに搭乗するのは医師、看護師、パイロット、整備士など計5名のスタッフ。平日の日中、スタッフは運航対策室に待機し、消防から出動要請が入ると病院屋上のヘリポートへと走ります。要請から離陸までの平均時間は約3.3分。1分1秒を争う緊急性の高い案件ばかりですので、素早い判断とスピーディな動きが求められます。
私たちがおもに担当するのは、多発外傷・やけどなどの外因性重症救急疾患と、心筋梗塞・脳卒中などの内因性重症救急疾患です。機内には薬剤はもちろん、心電図・血圧などの患者モニター類や人工呼吸器、輸液ポンプ、超音波診断装置などが装備されており、医師はここでプレホスピタルケア(病院前診療)を行います。収容できる患者さんは起き上がれない方なら1名。座位が取れる方なら3名まで搬送することができます。

静岡県東部地域をカバー。
圧倒的な機動力で救急患者を搬送します。

当院が担当するエリアは静岡県東部。伊豆長岡を中心に、半径約50kmの範囲をイメージしていただければいいでしょう。静岡県西部には聖隷三方原病院のドクターヘリがあり、双方が協力しながら静岡県全域をカバーします。要請が重複したとき、広域災害や重大事故で多数の患者さんが発生したときなどは、隣県協定に基づき神奈川県や山梨県のドクターヘリと協力し合うこともあります。
ヘリの機動性は、おそらく一般の方々の想像以上のものでしょう。例えば当院から伊豆半島南部の下田まで、車で移動すると約1時間半。夏の渋滞時期には2時間かかることも珍しくありません。ところが、ヘリならわずか15分。新幹線並みの速度で飛ぶこともできます。このスピードが、従来なら救急車の搬送中に失われていた命を救う可能性を高めてくれるのです。

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市民・警察・消防とのシームレスな連携が登山中の心停止患者の命を救った!

ドクターヘリの活動内容は地域の特性やニーズによりさまざまです。例えば静岡県東部地域の場合、ご存じのとおり、リゾート地ですので夏には観光客が多く、水難事故や持病悪化などによる救急搬送が一時的に増加します。高山病や減圧症の事故も少なくありません。
数年前、富士登山中に心筋梗塞を起こした患者さんがいらっしゃいました。9合目で突然心停止して倒れられたのですが、近くにいらした方が心肺蘇生の講習を受けた経験があり、山小屋からAED(自動体外式除細動器)を持って来て応急対応されました。ドクターヘリは富士山の5合目以上には着陸できないため、クローラーと呼ばれる物資運搬車で5合目まで患者さんを搬送。ヘリがピックアップし、治療を行った結果、その方は無事に社会復帰を果たされました。
この事例は一般市民、警察、消防、医療がシームレスに連携し、一人の尊い命を救った成果として論文にまとめました。登山中の心停止も救うことが可能だと、世界に証明できたと思います。

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静岡市から東の静岡県東部を主に担当しています。静岡県西部は聖隷三方原病院に基地を置く静岡県西部ドクターヘリが担当しています。双方が協力しながら静岡県全域をカバーします。治療の関係上、隣接県へ患者さんを搬送する場合もあります。

ドクターヘリ関連の論文数が全国トップ。
日本独自の取り組みを世界へ発信。

当救命救急センターではドクターヘリを含む救急医療の実践とともに、研修医の教育や研究も進めています。時間が許す限り論文も執筆しており、ドクターヘリに関する論文数は全国の大学・研究機関の中でもトップに位置しています(「ドクターヘリに関連した研究報告における日本の状況」)。
日本では認知度が高いドクターヘリですが、実は世界的には珍しい取り組みです。米国やオーストラリアにもヘリによる搬送はありますが、同乗するのは救急救命士です。ただ、両者を比べた場合、医師が乗って早期医療介入した方が患者さんの予後がいいことは間違いありません。このような早期医療介入の効果を検証していきたいのですが、日々の診療やDMAT活動などに忙殺され、手付かずの臨床テーマを山のように抱えています。
今後はとくに内因性疾患を中心に研究発表を進めていきたいですね。海外ではヘリで運ぶのはおもに外傷の患者さん。仮に脳卒中を疑っても、まずは近くの病院に搬送し、そこから専門病院へ...という流れになります。その点、日本は脳卒中と疑った時点でヘリがピックアップし、まずは当院で診療を実施。脳卒中でない軽症例は別の病院をご紹介する、という早期医療介入の形をとっています。このように患者さんへのアプローチが海外と日本ではまるで違いますし、医療スタッフをヘリに乗せる余裕がない国もありますので、海外の学会で発表すると「日本はいいね」と、よく言われますね。

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研修医がドクターヘリで現場を経験
院内にはないプレホスピタルケアを学ぶ。

教育面では、救急診療科の研修医に必ず1度は搭乗の機会を用意しています。
ただし、ヘリで現場に飛んでも土地勘がなかったり、地域の医療事情がわからないようでは、とっさの判断ができません。フライトドクターは患者さんの状態を診て、「これなら当院まで搬送しなくても、地域の〇〇先生がいい」などの判断をその場で下さなくてはなりませんから。
さらに私たちは消防の要請を受けて現地に飛ぶわけですが、そこは消防や警察が安全を担保してくれる場。例えば化学工場の爆発現場などでは消防や警察の管理下に入り、自分たちの身を守りながら医療活動を行うわけです。こうした現場は、安全が確立された病院の中とはまるで違います。そういう意味でも、ドクターヘリへの搭乗はプレホスピタルケアを学ぶ絶好の機会といえます。

リーダーシップとコミュニケーション力を発揮し、幅広い患者さんと疾患に向き合う。

フライトドクターになるには、まず救急医の道を選んで、救急科専門医の資格を取得していただくこと。そして赤ちゃんからご高齢者まで、内因性疾患から外因性疾患まで、複数の患者さん・様々な疾患治療をマネジメントできる力を身につけなくてはなりません。
同時に、ドクターヘリのマネジメントも学んでいただきます。ドクターヘリは消防・警察・行政とタッグを組んで活動するもので、決して医療スタッフだけでクリニカルケアを行っているわけではありません。ですから普段から地域の消防・警察・他の医療機関の方々と顔を合わせ、人間関係をつくっておくことが重要です。日頃から人間関係ができていればシームレスに連携しやすくなり、前述の事例のような難しい人命救助に成功する可能性が高まります。
フライトドクターとして一人立ちするには卒後4~5年かかります。当院では若手ドクターが飛ぶときはベテランナースと組ませ、バランスを取るようにしています。とにかくフライトドクターにはリーダーシップとコミュニケーション能力が必須ですね。

急性期疾患で県内最高水準の治療を提供。
地域の人々の安心と信頼を担って。

2004年3月の導入以来、当院のドクターヘリは年々出動回数が増え、2017年には1,178回。年間運航件数は全国3位、搬送した患者数は全国2位になりました。累計すると1万回以上出動しており、地域の方々に心強く思っていただいていることと思います。
急性期疾患において、順天堂大学医学部附属静岡病院は静岡県東部だけでなく、県内でも最高の治療をご提供しているという自負があります。実際、静岡県東部地域の方は「なにかあったら順天堂へ」とおっしゃいますから。救急車に乗るとき、「順天堂へ運んで」と指定する方もいらっしゃるほどです。
救急診療科は24時間365日休みがありませんし、地方では医師不足が深刻です。しかし、順天堂は系列4病院に救急診療科があり、人事交流も活発です。私もドクターヘリに乗ったり夜勤をしたり、行政の依頼を受けて地域の他の病院にも支援に行くなど大変忙しいですが、日々充実しています。

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順天堂静岡病院 ドクターヘリ運航対策室

最後にフライトドクターを目指す受験生へ――
現場は若い人の力を求めています。

近年、フライトドクターを目指す若い方が増えています。実際、非常にやりがいのある仕事であることは間違いありません。
ただし、フライトドクターはやわな人には務まりません。医療面の知識や技量だけではなく、コミュニケーション力も体力も求められます。コミュニケーション力は消防・警察・医療機関との連携に必要ですし、走って移動することが多いので基礎体力ももちろん必要。私もいまだに時間を見つけてはランニングをしていますから。いずれにせよ、研修で1度ヘリに乗れば、自分にフライトドクターの適性があるかどうか、自ずとわかると思います。
院内での診療よりも体力が必要な仕事ですから、若い人の力が必要です。ぜひ、一人でも多くの若い方に志していただきたいですね。

柳川 洋一
順天堂大学医学部救急・災害医学研究室 教授

防衛医科大学校を1988年に卒業。2011年4月から順天堂大学医学部附属順天堂医院。2013年5月から順天堂医学部附属静岡病院。2018年現在、順天堂大学医学部附属静岡病院 救急診療科 救命救急センター長、災害対策委員長のほか、静岡災害医学研究センター 副センター長、静岡県東部ドクターヘリ運行対策室長を務めている。