インタビュー

2021年04月16日

治療法の確立を視野にパーキンソン病の発症メカニズムを解明

手足のふるえなどの運動機能障害が特徴的なパーキンソン病は、転倒しやすくなったり、声が出にくくて表情が乏しくなるなどQOLが著しく低下する神経変性疾患です。生命予後に影響しにくいとはいうものの、現状では対処療法しかなく、根本的な治療法は確立されていません。そんなパーキンソン病の病態解明に向けて研究を続けているのが大学院医学研究科パーキンソン病病態解明研究講座の今居譲先任准教授です。国内で他の研究者に先駆けてショウジョウバエを使った研究に着目し、多くの成果をあげている今居先生に、ご自身の歩みや最近の研究について語ってもらいました。

発症20年前から異常が起きているパーキンソン病

脳内のドーパミン神経が変性することで手足のふるえや体のこわばりなどの運動障害があらわれるパーキンソン病は、ドーパミンの原料を補充する治療により一時的に症状を改善することができます。しかし、何年にもわたって治療を続けなければいけないこの病気にとってドーパミン補充は対処療法に過ぎず、コントロール状態を維持することは非常に困難です。

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さらに、典型的な症状である運動障害があらわれたときには、すでにパーキンソン病の発症に関わる異常が起こり始めてから10年以上経っているということが研究によりわかってきました。パーキンソン病の疫学調査では、運動障害によりパーキンソン病だと診断される20年ほど前から便秘などの自律神経障害が出現していると報告されています。

α-シヌクレインというタンパク質の凝集により発症

近年の研究では、アルツハイマー病をはじめとしたほかの神経変性疾患と同様に、脳内の神経細胞にあるタンパク質の凝集が発症に関わっていることが明らかになっています。パーキンソン病では、α-シヌクレインというタンパク質の凝集が発症の約20年も前から起こっており、長い年月をかけて凝集化が進んで発症に至ると考えられています。また、加齢が発症リスクとしてかなり高いという点でもアルツハイマー病と共通しています。

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このようなタンパク質の凝集が起こるのはなぜか。その発症メカニズムを明らかにすることで、溜まってしまったα-シヌクレインを除去する、または凝集化が起こらないように阻止するという形でパーキンソン病の予防や治療に貢献することを目指して研究を進めています。

理学研究科からパーキンソン病研究へ

パーキンソン病という病気の研究をしていますが、私自身は医学研究科ではなく、理学研究科を修了しています。大学院では生物科学を専攻し、細胞死のひとつであるアポトーシスなどの研究をしていました。パーキンソン病研究に携わるようになったのは、理化学研究所で博士研究員として研究するようになったときからです。

当時は、順天堂大学の神経内科がパーキンソン病原因遺伝子であるパーキン(parkin)を世界に先駆けて発見したと発表したばかり。分子生物学が一気に花開き、DNAシーケンスが一般的になってきた時期でもあり、脳の中でどんなことが起こっているかを遺伝子によって調べられるということが当時の私にはとても魅力的でした。そこで、パーキンの解析をし始めたことから、この病気と関わるようになりました。

ショウジョウバエの使い方を学ぶためにアメリカへ留学

そうしてパーキンソン病研究を始めて数年経った頃、ショウジョウバエというモデル動物に出会ったことで私の研究は大いに前進しました。それまでは一般的な医療系研究と同じようにマウスを使って実験を行っていました。しかし、何年もかけて遺伝子操作によりパーキンを欠損させたマウスを解析しているというのに、神経変性が見られずに落胆する日々。そんなときに、パーキンを欠損させたショウジョウバエでミトコンドリア変性が見られたという海外の研究者からの報告を目にしたのです。

この報告を機にモデル動物としてのショウジョウバエに関心を持った私は、ショウジョウバエモデルの作り方、使い方を学ぶためにアメリカのスタンフォード大学に留学。マウスではあんなに苦労したというのに、ショウジョウバエでは短期間でさまざまな成果が得られました。パーキンソン病発症のメカニズムの多くが、ヒトとハエで共通しているとわかったことも私にとっては大変衝撃でした。

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ショウジョウバエの実験室

加えて、留学中にパーキンソン病原因遺伝子のひとつであるPINK1が発見されたことが、研究のブレークスルーにつながりました。発見されたばかりのPINK1の働きを阻害したショウジョウバエモデルを作ってみたところ、パーキンを阻害したショウジョウバエと同じようなミトコンドリアの症状がでました。

この発見から、パーキンとPINK1が協同してミトコンドリアの維持に働くという分子関係を明らかにすることができたのです。以来私はショウジョウバエをモデル動物として活用していますが、私が知る限りでは、当時の日本でショウジョウバエのパーキンソン病モデルを作っている研究者はいなかったと思います。

α-シヌクレイン凝集に関係するPLA2G6に着目

最近の研究では、α-シヌクレインが凝集するリスク因子として、パーキンソン病の原因遺伝子のひとつであるPLA2G6に着目しています。PLA2G6は細胞膜のリン脂質代謝に関わる酵素で、この遺伝子に変異のあるパーキンソン病患者さんはα-シヌクレインが特に溜まりやすいことが報告されています。そこで、ゲノム編集によりPLA2G6が働かなくなるショウジョウバエをつくり、脳内の脂質膜を調べたところ、リン脂質膜が薄くなりシナプス小胞が80%程度まで小さくなっていることがわかりました。

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プレスリリース「脳内の脂質変化がパーキンソン病の原因となるメカニズムを解明 ~特定の脂肪酸を与えることで神経細胞死の予防に成功~」

シナプス小胞とは、神経細胞の先端で神経伝達物質を溜めておく脂質膜でできた袋で、神経細胞の刺激があれば神経伝達物質を放出してシナプス伝達を行います。このシナプス小胞を覆っているリン脂質膜は脂肪酸の疎水基と親水基から構成され、α-シヌクレインはリン脂質膜表面に結合しています。ところが、PLA2G6がなくなると疎水基が短くなり、シナプス小胞が小さくなる。つまり膜表面のカーブが急になり、リン脂質膜表面に結合していたα-シヌクレインが外れやすくなります。

食事によってパーキンソン病を予防・治療する可能性を追求

リン脂質の組成が変化して疎水基が短くなることがリスクだとわかると、次に私たちはPLA2G6をノックアウトしたショウジョウバエにリン脂質の原料になるリノール酸を混ぜたエサを与えました。その結果、短くなっていた疎水基が長くなり、シナプス小胞のサイズが回復。α-シヌクレインの凝集が抑えられたのです。

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これはショウジョウバエでの実験ですから、そのまま臨床応用できるわけではありません。しかし、シナプス小胞を覆う膜のリン脂質の組成の変化がパーキンソン病の発症に関わること、疎水基を長くすることでα-シヌクレインの凝集化を防ぐことを発見したことはパーキンソン病の発症予防につながる可能性を持ちます。今後さらに研究を進めていく中で、食事でのパーキンソン病予防の可能性についても追求していきたいと考えています。

パーキン遺伝子を発見した順天堂大学での研究

2011年に順天堂大学に来てから、ショウジョウバエに加えてiPS細胞が使えるようになりました。順天堂の脳神経内科は年間約4,000名の患者さんが来院する、世界屈指のパーキンソン病の臨床・研究拠点といわれています。それもあって、臨床と基礎研究の距離が近く、臨床科から基礎研究を始める大学院生も多数います。臨床での情報をベースにディスカッションを繰り返し、ショウジョウバエと同じことがヒトでも起こりえるかどうかまで見据えた、より深い実験などができます。また、パーキンソン病の一研究者として、パーキンを発見した順天堂大学で研究できることに感慨深いものを感じています。

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2019年に論文を発表した研究グループ

パーキンソン病はミトコンドリアの機能不全との関わりが大きいことがわかっていますが、パーキン遺伝子がうまく働かないとミトコンドリアの品質管理に関わるマイトファジー(ダメになったミトコンドリアを選択的に除去して良いものを残す)が起こりにくくなり、結果としてミトコンドリア全体の質を下げるという新たなシナリオが見えてきました。このように多彩な原因遺伝子と発症メカニズムを探りつつ、例えばミトコンドリアを活性化するような手法の開発(※)、薬剤探索など、具体的な治療法も見据えて研究を進めようとしています。

高齢になることがリスクであるパーキンソン病は、誰もがかかる可能性のある病気です。今はまだ治療法のないこの病気についての理解を深めることは、認知症など加齢関連疾患の病態解明にもつながり、ますます高齢化が進む社会に貢献するものと信じています。

今居 譲(いまい・ゆずる)
順天堂大学大学院医学研究科
パーキンソン病病態解明研究講座 先任准教授


1994年、京都大学農学部卒業。1999年、同大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)。理化学研究所運動系神経変性研究チーム研究員、東北大学加齢医学研究所准教授を経て、2011年より現職。2004年から米国スタンフォード大学に留学。専門とする研究分野は分子遺伝学、神経化学、病態医化学。パーキンソン病原因遺伝子の機能解析から神経変性のメカニズムを研究。パーキンソン病のモデル動物として、ショウジョウバエ、マウスを使っている。