インタビュー

2021年02月22日

アレルギーのメカニズムを解明し、世界初の治療薬開発に挑む

花粉症、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は、現代人特有の病気として、多くの人の関心を集めています。順天堂大学には、アトピー疾患研究センターがあり、そこではアレルギー疾患に関するさまざまな研究が行われています。ここで、アレルギーに関する基礎研究に取り組む北浦次郎先任准教授に、最新の研究事情について伺いました。

アレルギー・炎症を制御するメカニズムを解明

私が所属する順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センターでは、さまざまなアレルギー疾患・炎症性疾患の研究を行っています。その中で私の研究グループは花粉症、食物アレルギーなどの即時型アレルギー疾患を主な対象として、「アレルギー・炎症性疾患の制御」を目標に研究に取り組んでいます。よくニュースで取り上げられるアナフィラキシーも私の専門分野になります。

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研究グループの目的のひとつは、生体内外の分子に着目して、アレルギー・炎症を促進、あるいは抑制するメカニズムを解明することです。いろいろな細胞や分子がどのようにアレルギー・炎症性疾患に影響しているかがわかれば、病態を制御することが可能となり、診断や治療法の開発につながると考えています。私の専門は免疫学ですが、さまざまな手法を用いて研究を行っています。

花粉症患者の体内では何が起こっている?

アレルギーには、いくつかの種類があり、私の研究対象である花粉症や食物アレルギーは、「Ⅰ型アレルギー」「即時型アレルギー」などと呼ばれています。これらのアレルギーのメカニズムを簡単に説明すると、身体を守る役割を持つ免疫細胞が本来敵ではない異物を攻撃することで、炎症が起きている状態だといえます。

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体内に入ってくる細菌やウイルスを攻撃し体に悪影響を及ぼすのを防ぐのが本来の免疫の役割です。現在、衛生環境の改善や現代医療の進歩によって、寄生虫など多くの病原体は排除されています。しかし、この平和な状況下で、免疫細胞が花粉や食物といった本来無視すべき対象を敵だと勘違いして過剰反応しているのがアレルギーです。

キーワードは「アレルゲンとIgE」「マスト細胞」「IgE受容体」「CD300ファミリー分子」

では、即時型アレルギーのメカニズムを少し詳しく説明しましょう。キーワードは、「アレルゲンとIgE」「マスト細胞」「高親和性IgE受容体(以下、IgE受容体)」「ペア型免疫受容体CD300ファミリー分子(以下、CD300ファミリー分子)」です。

まず、花粉などのアレルゲンを認識するIgEと呼ばれる抗体ができます。マスト細胞は、生体内に数ある免疫細胞のうちのひとつで、即時型アレルギーにおいて主要な役割を担います。IgE受容体はIgEの結合する受容体であり、マスト細胞の表面でシグナル伝達の役割を果たす分子です。マスト細胞上でIgE受容体に結合するIgEがアレルゲンを捉えるとマスト細胞は活性化し、細胞内に蓄えている顆粒を放出(脱顆粒)します。顆粒に含まれる分子(かゆみを引き起こすヒスタミンなど)がアレルギー症状を引き起こします。

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一方、CD300ファミリー分子は、マスト細胞の表面に発現する受容体分子で、マスト細胞の活性化を促進したり抑制したりする機能をもちます。CD300ファミリー分子は、少なくとも8種類以上存在していますが、同じような構造なのに、活性化型と抑制型の機能を持つ分子が連なっていることから、「ペア型免疫受容体」と呼ばれています。

受容体CD300f分子のリガンドを同定する

私はずっとCD300ファミリー分子の研究に取り組んできました。特に着目したのは、マスト細胞の活性を抑制する「CD300f」と呼ばれる分子です。マスト細胞の表面で受容体CD300fは、なんらかの物質と結合することによって、抑制シグナルを発します。受容体と特異的に結合する分子は「リガンド」と呼ばれますが、CD300fのリガンドは不明でした。

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私たちは、マスト細胞の活性化を抑制するCD300fのリガンドを同定するために、幅広いスクリーニング(選別)を行いました。多くの場合、生体内の蛋白質がリガンドの役割を担います。世界中の研究者たちがリガンドを同定するために蛋白質のスクリーニングを進める中、私たちは対象を脂質に広げて研究を続けたところ、脂質セラミドをリガンドとして同定することに成功したのです。そして、動物を使った検証実験等を経て、CD300fと細胞外セラミドの結合がマスト細胞の活性化シグナルを抑制し、アナフィラキシーなどの即時性アレルギー反応を抑えることを世界に先がけて明らかにしました。これが2012年のことです。

CD300ファミリー分子の研究は次のステージへ

この研究成果を引き金として、CD300ファミリー分子が特定の脂質(セラミドなど)を認識して、アレルギー・炎症を「正」または「負」に制御することが明らかになりました。そして、このメカニズムの解明が現在、私の研究室のメインテーマのひとつになっています。特に、CD300fは、アナフィラキシー、食物アレルギー、喘息、アレルギー性鼻炎などの病態形成を抑えることも明らかになり、これを標的としたアレルギー・炎症性疾患の治療法開発への期待も高まっています。今後は、適応疾患を定め、臨床応用に向けた検討を積み重ねていく予定です。

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一方で、他のCD300ファミリー分子のリガンド同定も進めています。現在、科学研究費助成事業の支援を受け、取り組んでいるのがこの研究です。CD300ファミリー分子は、セラミドなどの生体内脂質のみならず、細菌・真菌やアレルゲンなどに含まれる類似の生体外脂質を認識することもわかってきました。この認識機構はアレルギー・炎症性疾患の病態を制御する可能性があります。今後、CD300ファミリー分子の認識する生体外脂質の同定とともに、その生理的意義を明らかにする予定です。

「あらゆる病気の治療に携わりたい」と考え小児科医に

ここまでずっと研究の話をしてきたわけですが、もとから研究医志望だったわけではありません。大学の医学部に入った頃は、ありとあらゆる病気を理解したいと思い、臨床医として治療の現場で患者さんの役に立ちたいという一心で学んでいました。卒業後もその考えは変わらず、「あらゆる病気の治療に携わりたい」という考えから、小児科医としてキャリアをスタートしました。

成人を対象にした医療は、内科だけを見ても細分化されています。一方、小児科ではいろんな臓器の疾患が対象になります。そこで、幅広い疾患を経験しながら、いずれ専門を持つようなビジョンを描いていました。しかし、4〜5年、小児科医として勤務すると、医療の限界を感じることも多くなりました。医師として、その時点で最新・最善とされる治療をするのですが、心のどこかでもっといい治療方法があるのではないか......と思うことも多々ありました。最初は、「教科書通り」の治療をするわけですが、5年ほど経つと疑問点も多くなってきます。それは誰もが経験する悩みだと思います。

研究経験ゼロからアメリカでの研究留学がスタート

そろそろ何か専門を持つものいいかもしれない......そんなことを考えていたときに、「アメリカで、免疫・アレルギーの基礎研究をしないか」という誘いを受けました。それが、アメリカ留学時代の師にあたる川上敏明先生からの声かけでした。私はその誘いを受け、1997年にアメリカ西海岸のラホヤ免疫アレルギー研究所の研究員として着任します。そして、数年と思っていた海外生活は、6年半に及ぶことになります。

その当時、私は何かに特化して研究を経験する必要があると考えていました。「免疫」は、どんな病気を語る上でも重要なので、研究対象として申し分ありません。ゼロから研究をして、まだ世界の誰も知らない新しいことを見つけたい。アメリカに行くからには、必ず何かやり遂げたい。そんな思いで渡米したことをよく覚えています。

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アトピー疾患研究センターでの研究の様子

しかし、当時の私は、臨床医ひと筋で、研究経験がまったくなく、まさにゼロから基礎研究の手法を学ぶことになりました。欧米に研究留学の経験がある同僚にこのことを話すと必ず驚かれます。日本で研究医としてキャリアを積み、研究テーマを持って留学するのが通例です。現地では、知らないことばかりで、言葉も満足に通じません。留学当初は本当に苦労しましたが、少しずつ環境に慣れ、基礎研究の面白さに目覚めました。基礎研究は必ずしも臨床応用に直結しないこともあります。それでも現状の医療の課題・問題点を解決するために不可欠であると実感しました。

日本人がアメリカで研究室を維持する大変さを痛感

また、異国で研究所を立ち上げた師である川上敏明先生から多くのことを学びました。当時も今も同じですが、日本人がアメリカで独立して研究室を維持するのは、並大抵のことではありません。毎年、グラント(研究資金)獲得のために、何十ページにも及ぶ英文資料を作成し、厳しい審査をクリアする必要があります。ただ、グラントさえ獲得できれば、国籍も年齢も関係なく、研究者仲間から尊重される環境は、自由の国アメリカらしいと思いました。

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川上先生からは、「よく考えた上で、とにかく手を動かして実験をすることが大事」と繰り返し言われました。研究資金が少なければ、それなりのやり方を自分で考える。結果が出るまで体力勝負......といった生活を送った時期もありました。研究費を主体的に獲得し、その研究成果を次の研究費獲得につなげ、獲得した研究費を計画的に効率よく使うことの重要性を学んだことは、現在も大いに生かされています。

若手研究者の育成も自分の新たな使命

2004年に帰国し、東京大学医科学研究所を経て、2014年から順天堂大学で研究に取り組んでいます。今は、若い大学院生と一緒に実験や分析をすることで、研究が大きく発展していく可能性を感じています。彼らを刺激し、ユニークなアイデアを引き出せるような研究チームを構成し、若手研究者の育成を行うことが、現在も基礎研究を続ける私の使命だと思っています。今は、若手研究者を助成する制度もたくさんあります。それを獲得するためにインパクトのある論文を研究室から発信していくのも私の役割です。

今後の目標は、CD300ファミリー分子の研究成果を診断や治療薬開発につなげることです。今でも臨床医を目指したときの志は変わりません。最終的には、アレルギー・炎症疾患で悩む患者さんの役に立ちたいと思っています。

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研究グループのメンバーたちと

北浦次郎(きたうら・じろう)
順天堂大学 大学院医学研究科
アトピー疾患研究センター 先任准教授


1992年、東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部付属病院にて小児科臨床研修医を経て、東京都青梅市立総合病院、東京大学医学部付属病院で小児科医として勤務。1997年、米国ラホヤ免疫アレルギー研究所に研究員として留学。現地で約6年半、研究生活を送る。2004年に帰国し、東京大学医科学研究所 細胞療法分野助手、2007年に同助教、2013年に同准教授を経て、2014年より現職。