順天堂グローバル教養論集第一巻20160325
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35現象の多面的理解を支援する「コンテクスト間の移動」に関する一試論は、リンゴを手にとって、その色、形、大きさ、重さといった諸側面からリンゴを測定し、理解する「論理科学モード」的な営みがある。さらに、リンゴの社会・文化的意味、個人的な経験や好み(好き嫌い)によって、ある関心・目的から「リンゴ」に付与される「物語モード」的な意味を捉えることができる。 以上の2つのモードを介した、自己が理解する意味(意味1)と他者が理解する意味(意味2)があり、また、意味1と2の間にある関係性(類似性、差異)の意味(意味3)も人びとの認識に立ち上がる重要な意味である。これら3つは「リンゴ」を理解するうえで介在しうる意味である。 加えて、上述した意味(意味1、2、3)はコミュニケーションを介して人びとの間で社会的に交渉され、変容される動態性を含んでいる。コミュニケーションにおいて、眼前にあるリンゴが「青森産である」という新情報が追加されると、リンゴの色や形に変化はないが、日本における果物の産地と品質に関する共有知識(コンテクスト)と目の前のリンゴとが瞬時に接合され、眼前のリンゴの意味づけが「ただのリンゴ」から「品質が良く」「おいしい」リンゴといった意味に変化しうる。以上のように、現象の多面的理解は、コミュニケーションを介した社会的な関わりのなかで生成される動的な側面をもつ。2.2. 多文化関係理解のための4つの視点 ここで、多文化関係学会(Japan Society for Multicultural Relation, JSMR)という学会が提示している4つの視点から、人びとが日常的に実践できる「現象の多面的理解」のあり方についてさらに考察したい。多文化関係学会(2004)は、その学会誌『多文化関係学』第1巻の「投稿規程」(p. 31)において、(1)「文化性の視点」(文化の対比・比較にとどまらず、多様な文化の相互作用に研究対象を広げたもの。この場合の「文化」とは国家を単位としたものに限らない)、(2)「関係性の視点」(当該文化の属性や特徴を明らかにするにとどまらず、文化間のダイナミックな関係性に焦点をあてたもの)、(3)「超領域性の視点」(当該領域のみの適用にとどまらず、広く諸領域にわたる視点とその応用により、多文化関係学の構築と発展を示唆する研究成果が提示されるもの)、そして(4)「パラダイムシフトへの配慮」(上記の3視点に加え、パラダイムシフトが学術研究全般に与える影響に留意しつつ研究成果が論じられているもの)という、学会に投稿される論文が満たすべき4つの要件を示している。 まず、(1)「文化性の視点」は、国単位で切り分けられた文化(国民文化)だけでなく、民族、地域、性別、職種、教育レヴェル、健康状態などから条件づけられる多様なレヴェルの文化を前提とする。多様なレヴェルの文化は、価値観、思考様式等の内面的な認知活動に関わる精神文化、言語・非言語のコミュニケーション様式に関わる行動文化、ならびに衣食住に代表される物質文化という三層構造(石井, 2013, p. 165)をもつ。「文化性の視点」を第1の項目に設定し、すべての事象は三層構造をもつ文化がなんらかの形で不可避的に関わる性質をもつという視点から、現象を捉える必要性を示唆している。 また、「多様な文化の相互作用に研究対象を広げたもの」とある。グローバル化が進展する社会では、異なる文化の担い手である人びと同士が実際に出会う機会が増加しており、相互作用のなかで何が起きているのかという観点から現象を捉える必要がある。したがって、複数の文化を対比・比較する営みに加え、文化間の相互作用に着目し、現象を多面的に理解することを重視する。 さらに、文化間の相互作用によって形成される関係性に着目したのが、次の(2)「関係性の視点」である。関係性に焦点を当て、グローバル社会で交錯する文化の担い手がコミュニケーションを介して相互に影響しつつ生成する関係性の意味を理解することを示している。これは、2.1.のリンゴの例で示した、自己のコンテクストで生成される意味1と他者のコンテクスト

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