順天堂グローバル教養論集第一巻20160325
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36順天堂グローバル教養論集 第一巻(2016)で生成される意味2が相互に作用するなかで生成される意味3を捉えることに該当する。 (3)「超領域性の視点」から、多面的理解について考えると、本論考における「コンテクスト間の移動」(CS)の文脈でいえば「領域」は「コンテクスト」にあたり、現象理解に適用する「コンテクスト」を少数に限らず、論理科学モードや物語モード双方を含む多様なコンテクストへ視点を意図的に移動させることで、現象の多面的理解を達成するのである。 最後に「パラダイムシフトへの配慮」という観点から現象の多面的理解について考えたい。「コンテクスト」はあるパラダイム(その領域、分野における思考の枠組み)から引き出されるものであるため、パラダイム自体を変えることが現象の理解をダイナミックに変化させるために必要となる。「学術研究全般に与える影響に留意」とあるが、論理科学モード重視の世界観から物語モード重視のそれへシフトする例を想起すると、現象の多面的理解におけるパラダイムシフトは、人びとによる現象の捉え方が大きく変わることを意味し、結果、「生活全般」に影響を与える。 以上4つの視点では、多面的な現象理解において、人びとの生活全般に不可避的に影響を与える文化を重視し、文化の捉え方を、国民文化に限らず地域や性別等による諸文化も視野に入れたより細かなものに切り替え、多様な文化間で生起する相互作用とそれによって生まれる関係性を捉える動的な視点が示されていた。次節では、文化をさらに柔軟に捉え、社会や個人が複数の文化が合わさった構成物であることを示す議論を紹介し、現代社会で求められる現象の多面的理解についてさらに考察を展開したい。2.3. トランスカルチュラリティ グローバル化する現代社会は、1つの国の内部でも文化的に多様化しており、もはや一様なものではない。そのため、均質的で一様な文化観のみでは現実にある社会の複雑性を説明できない。この状況に対応する知見として、Welsch(1999)が構想する「トランスカルチュラリティ」(transculturality, 文化横断性)概念がある。それは、文化が相互に浸透し合い、混ざり合うものであり、お互いに結びついてネットワークを形成している、という見方を示すものである。 多様化した社会の実態があるにもかかわらず、日常生活を日本で暮らす多くの人びとがもつ認識世界で機能する文化観は、混交的で動態的な文化ではなく、画一的で静態的な文化概念であることの方が多いのではないだろうか。もちろん、この古典的文化観には、人びとや社会をひとまとめに説明するうえで一定の有用性を見出せるとしても、異質な他者に対する排他的な見方を助長することもあり、多面的な現象理解を醸成するうえで、有用性を上回る弊害がある。 Welsch(1999)によれば、多文化主義といった文化に関わる多くの用語は、相互理解、相互尊重を促す規範的側面をもつ一方で、「古典的文化概念」を前提とすることが多いため、相互理解・尊重をスローガンとして掲げながらも、他者と自己の境界化を促す原理が隠されており、実は多様な文化の影響をうけた社会や個人の諸側面を見えなくしてしまう。つまり、自己と他者との境界を明確化し、社会や個人の内部を一様化する「閉鎖系」の文化概念である。 トランスカルチュラリティは、より「開放系」の文化概念であり、文化的な混交体として社会や個人を微細かつ動的に捉えようとする志向性は、古典的な文化観の境界化作用を超えて、現象の多面的理解を促すものであり、グローバル社会で要請される微細な現象理解に対応するものである。次に、その要請に応える形で、多面的理解を支援するCSについて説明する。3. コンテクスト間の移動3.1. 定義 コンテクスト間の移動(context shifting, CS)とは、その実践者が、自己、他者、自他の関係

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