順天堂グローバル教養論集第一巻20160325
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39現象の多面的理解を支援する「コンテクスト間の移動」に関する一試論職種が同一である場合、「組織タイプ」から「職務グループ」へ視点を移動して、組織タイプから引き出される自他の間にある差異に加え、「職務グループ」における共通点を見いだし、理解の多面性につなげるのである。 最後に、ミクロ・コンテクストは、CS実践者の直近のコンテクストを指す。人びとが現象を理解する際には、自分の周囲にいる他者の存在、他者と自己の関係、場所、場面、そこでの役割などのコンテクストが影響を与える。本論考の読者は、この論考をどこで、いかなる役割で読むかといったミクロ・コンテクストの影響を受けながら、論考の内容という「現象」の意味を理解する。 以上のように、マクロ、メゾ、ミクロというコンテクストを意図的に移動することによって、自然に前景化されてしまった特定のコンテクストに依拠した現象理解からいったん離れ、現象をさまざまなコンテクストから理解するのである。CSの特徴は意図性(intentionality)であり、無意識に自己の認識を条件づけるコンテクストを相対化するため、いったん他のコンテクストへ意図的に移動し、現象の多面的理解を実現する。 CSにおいては、多様なコンテクストを指し示す言語・非言語記号(コンテクスト化の合図, Gumperz, 1982)をミクロなコンテクストにもち込んで、多様なコンテクストに移動しながら、現象の理解を動的に生成していく。 3.3. CSの限界と成功の基準 ただし、この動態性がCSの有効性に関して次のような疑問を呈することになる。CSの有効性について考える材料として、たとえば、「テロリズム」という言語記号(概念)を一つの概念的コンテクストとしてもち込めば、テロを実行する人びと、すなわち、多面的理解を拒み、一元的に自他を理解し異質な他者を攻撃する人びとの認知活動をCSがはたして変えることができるのか、という深刻な疑問が出てくる。つまり、CSの有効性はCSを用いる者がもつ認識の一元化・硬直化の度合いとの関係性で変化することがわかる。 では、CSの成功をどのように測定できるのかといえば、CSの実践により、一時的に前景化された理解を相対化でき、新しい理解を得た時点で、CSは一応成功したといえるだろう。CSの図式的フレームワーク(図1)によって想像力が喚起され、さまざまなコンテクストを想起し、そのコンテクストについて調べたり、そのコンテクストにいる人から話を聞いたりする視点も生まれてくる。したがって、自分が何を知らないか、見ていないかという「無知の知」のような理解を得られ、それが、まだ見えていないものを見ようとするという多面的現象理解への好奇心を育む。 Ishiguro(2015)では、メディアで報道された日中間の歴史・政治の問題(マクロ・コンテクスト)の影響で、友人関係を解消した、カナダへ留学中の中国人と日本人の留学生の事例(実話)が紹介されている。そこでは、この二人がCSによって喚起される多面的な理解をベースに相互の関係を見直していれば、友人関係が壊れるという帰結ではなく、場合によっては友人関係が維持されるだけでなく、さらに深まり、歴史や政治についても自由に意見を交換できる関係へ発展した可能性もあったと述べられている。 この事例分析からCSの本質的成功について敷衍して考えれば、それは、CSの使用者が、CSの実践以前に持っていた、より限定的な理解を相対化し、現象の多面的理解を達成したうえで、他者の異質性を尊重したり、自他の価値観に矛盾しない形で他者と共有可能な新たなアイデアや関係の在り方を創発したりすることによって、他者との協力関係を築くための理路を発見することであるといえるだろう。上記の事例分析では、メディアによって枠づけされた歴史・政治というマクロ・コンテクストを、友人関係を破綻させる文脈として用いず、友人関係

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