順天堂グローバル教養論集第一巻20160325
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41現象の多面的理解を支援する「コンテクスト間の移動」に関する一試論から物事を考えられる人材、「地球市民」の育成をめざす教育である」(p. 261)と述べている。ここでの「限定的な考え方」は、自分と近接性の高い場所とそこで暮らす人びとを優先する考え方であり、CSを構想する背景となった問題、すなわち限定的現象理解に符号する。 さらに、CSのマクロ・コンテクスト1における「地理的配置」とその項目である「地球」というコンテクストは、こうした近接性に基づく、地元志向の限定的な思考や自然的態度を相対化し、他のロケーションとのつながりを考察させるもので、CSの利用者が、「遠い世界」のモノ・人が自身の生活とつながっており、場合によっては日々の生活を支えている、という事実を見出すきっかけを与えることがある。CSの実践によって、「近接性による優先」を、いったんカッコ(「」)に括って、別の視点から現象の意味を再考するのである。 Ashwill & Hoang Oanh(2009)はグローバル市民性について以下のように述べている。Global citizenship is not just a static mind-set but a dynamic worldview imbued with a sense of commitment to issues of social and eco-nomic justice at the local, national, and interna-tional levels.(p. 141)グローバル市民性は、単なる「静態的なマインドセット」ではなく、地域的、国家的、国際的なレヴェルで生起する社会・経済的な正義の問題に深くかかわっていく感覚にあふれる動的な世界観のことを指す、という。この「地域的、国家的、国際的レヴェル」という箇所は、さまざまな地理的配置へ視点を移動して事象をグローバルに考察するというCSの認知プロセスと整合性がある。 一方で「社会的・経済的な正義の問題」というのはどうだろうか。CSの目的は第一義的に現象の多面的理解であるが、その背景にある志向性は、CSのユーザーが多面的な理解をもって他者とかかわり、可能であればグローバルなスケールで他者と協力関係を形成しようという意識の醸成である。これはグローバル・トピックというコンテクスト指標が概念図に配置されていることからもわかる。また、CSのメカニズムからいえば、「正義」は「形而上学的トピック」の範疇に入るコンテクストである。正義というコンテクストから、社会・経済的な現象を考察することは、現象の多面的理解につながり、上記の「グローバル市民性」が要請する問題意識を育てることができる。 上述してきた論点、つまり、近接性による優先の相対化、グローバル・スケールで考察する能力、社会・経済的問題への積極的関わりというすべてにおいて、CSによる視点の移動と多面的な現象理解が活用できるといえよう。したがって、CSはグローバル市民が有すべき意識、能力、教養を育てるツールであるといえる。4. 結語 本論考の目的は、現象の多面的な理解について詳説し、そのうえで、多面的な理解を支援するCS概念とその概念図を具体例を交えながら説明し、CSが現象の多面的な理解を通してグローバル市民性の養成に寄与することを論じることであった。 上述してきたように、目的は一定程度果たせたと考えられるが、CS概念は未だ発展途上であり、以下の限界がある。まず、各コンテクストを構成する指標の例示が限られている。また、いまだ限られた事例でCSの機能を検証したところであり、より多くの事例において、その機能を検証し、CSをさらに修正し、発展させる必要がある。また、教育の場でCSを活用し、その使用がもたらす効果についてデータを収集する必要があるだろう。 以上の限界や課題があるものの、「コンテクスト間の移動」(CS)という概念および実践は、「国際教養」と呼ばれる実態が見えにくい概念を構成する具体的な一要素であると考えられ、

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