順天堂グローバル教養論集第一巻20160325
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72順天堂グローバル教養論集 第一巻(2016)A Basic Textbook for Medical Interpreters”の中で、自分の文化に関しては当然と思っているので普段意識することはないことを指摘し、そうであるからこそ患者の文化を医療者が理解する必要を主張している。Galanti (2008) は、親から子に代々伝わってきた文化に対する信念に、人の健康に対する態度が深く影響されていることを指摘している。(p. 26)また、「外国人が病気になった時、その人を取り巻く社会や育った環境による習慣や期待の違いが顕著に」なり(水野・内藤, 2015, p. 63)、「文化の信念に合わないと、医師の指導に従わない」(Galanti, 2008, p. 27)ため、患者の文化的背景を知ることが必要である。また、Athena (2014)は、文化の違いを認識する必要に関して、健康や病に対する様々な考えがコミュニケーションに影響すると主張し、社会的役割や文化が健康に対する考えを形成する元となり、文化、価値観の相違は医療者-患者間の役割にも影響するため、文化に対する認識が必須であると述べている。日本で長谷川ら(2002)が3県6施設の看護師1,090名に対する質問紙調査でも、日本人看護師が外国人患者のケアの際に不安なことの首位は言語、2位は文化の違いであるという結果を得ている。このように、医療の場における文化理解の重要性は、様々な研究者により主張されている。1.4. ステレオタイプと一般化 Cross Cultural Communication System (2014)、Galanti (2008)によれば、異文化に対する態度には、ステレオタイプと一般化がある。ステレオタイプとは、人や文化、思想に対する決めつけであり、ステレオタイプで文化を理解すると、それ以上理解しようという気持ちがなくなってしまう。各文化において個人の状態は様々なので、ステレオタイプは正しい理解を妨げ結果として誤解の原因となり、コミュニケーションに悪影響を与えることになる。それに対して一般化とは、一般知識や過去の経験による概観であり、その文化を理解するための最初の一歩である。各文化でよく見られる傾向を指すが、それが個人に当てはまるかどうかの判断については、より詳細な情報を求め慎重に検討する必要がある。一般化もときには特定の文化に対する正しい理解を妨げる原因になるが、ある集団に広く当てはまる傾向、信念、行動を理解する助けにもなりうる。1.5. 不安・不確実性調整理論(AUM) Gudykunst (1993)による不安・不確実性調整理論、AUM(Anxiety/Uncertainty Management)理論は、社会学、心理学を基盤とした理論であり、コミュニケーションを図る際に、各場面において決まった筋書きに沿って言動を行えば、次の行動が容易に予測可能である故に不安と不確実性が抑えられると考えられている。異文化コミュニケーションにおいて、相互作用者がそれぞれ有するスクリプトが異なるために、相手の行動が予測できなくなり、不安と不確実性が一定のレベルを超えると、異なる価値観や規範によって引き起こされる不安が異文化接触にマイナスな影響を与えて効果的なコミュニケーションを困難にすると考えられている。Gudykunstによれば、異文化コミュニケーション能力とは不安と不確実性を調整するプロセスであり、不安と不確実を減少させる過程と能力であるとされる。石井(2001)はAUM理論の基礎概念について「新しい未体験の場・状況で、コミュニケーターが経験する不安感と不確実性の高まりを調整(Manage)しなければ、効果的コミュニケーションは期待できない。その実現のためには、コミュニケーターは、自らについても、相手についても、心を集中して気を配り(Mindful)、不安と不確実性の状態に対処し、それらを減少しなければならない」(p. 111)と解説している。Gudykunstは、不確実性と不安に関して6種の仮定条件を設けている。まず、コミュニケーション参加者のうち、少なくとも1名がストレンジャーであること。次に、初め

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