順天堂グローバル教養論集第一巻20160325
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77医療の場における異文化理解4. 考察 本稿では日本における外国人患者の代表的な所属民族に関して、医療に関する文化と、医療における異文化に直面した際の具体的対処法を、文献検索により得た。医療における文化的特徴に関して人種間の文化的差異が見られたと同時に、社会経済的階層が低い者が現在志向であること、アジアの人々は地域を問わず痛みを我慢する傾向があることなど、共通する傾向も見られた。しかし、これらの傾向を確認するためにはさらなる調査が必要である。Campinha-Bacote (2002)は、異文化対応能力を構成するものとして「文化的気づき」、「文化的知識」、「文化的技能」、「文化的接触」、「文化的欲求」という5つの概念を挙げ、これらの概念が相互依存の関係にあると述べている。医療の場での異文化対応能力を考える際には、文化的知識、文化的技能に特に注目する必要がある。文化的知識および文化的技能を獲得するには、文化的気づきが重要である。Cross Cultural Communication System (2014)では、自分がどのような価値観、偏見をもって他者を見ているかを理解し、他者の価値観、偏見も意識することと、自分を含めて、皆が思い込みや偏見を持っていることを認めることを推奨している(p. 141)。文化的気づきとは、異文化に属する対象者に向き合うとき、自分の思い込みや偏見などに気づくことである。文化的気づきがなければ自分の思い込みの枠の外にある異文化に思い至らないため、誤解や紛争、押しつけの危険が生じる。個々が自己の文化に気づき、他者のそれとは違うことに気づくことが、文化的知識の獲得につながり、異文化対応能力の修得につながると考えられる。多忙を極める医療従事者にとって、文化的知識の獲得そのものが必ずしも容易ではない。そこで、文化的気づきを得た医療従事者が文化的知識の獲得を比較的容易に行い得る本論文の内容のような情報が、今後ますます価値を持つと考えられる。医療の場における異文化対応能力は、医療者が異文化に属する患者の背景を理解し、対象者の文化に合致したやり方で対応するための能力を獲得するプロセスである。その過程の中で、文化的気づき、文化的知識、文化的技能、文化的接触、文化的欲求といった概念が相互に作用し合い、不確実性が減少され不安が解消されていく。本稿の限界としては、英語と日本語の情報のみの検索であったことと、異文化に関する情報が主に米国の著者の文献に偏ったことである。他国の研究者からの視点を加えると、より厚みのある情報になると考えられるため、これを今後の課題としたい。5. 結論 本稿では日本における外国人患者の代表的な人種属性に関して、医療に関する文化と、医療における異文化に直面した際の具体的対処法を、文献検索により考察した。医療系大学において異文化への対応能力に関する教育はまだ十分とはいえず、さらなる発展が期待される。異文化への対応能力の養成は、特定の文化に対しての知識を付けることを起点としつつ、あらゆる異文化に対して柔軟に対応できる態度、スキルを獲得することを目指すうえでの過程となる。異なった文化、多様な文化を尊重し、共に暮らす多文化共生社会を目指して、医療に関する異文化理解の重要性が認識され、教育が発展することが望まれる。引用文献Du Pre, A. (2014). Communicating about Health. Fourth edition: New York / Oxford: Oxford University Press.Schouten B.C., Meeuwesen L. (2006). Cultural dif-ference in medical communication: A review of the literature. Patient Education and Counsel-ing, 64, 21–34.Schouten B.C., Meeuwesen L., Tromp, H.A.M. Harmsen F. (2007). Cultural diversity in pa-tient participation: The inuence of patient’s characteristics and doctor’s communicative be-

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