順天堂グローバル教養論集第一巻20160325
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82順天堂グローバル教養論集 第一巻(2016)を考え始めた矢先に、自身の授業でも生徒間対話のあり方を再考せざるを得なくなった。2010年2月に授業者が3年生にSVOについて説明したが、生徒の理解を得られなかった。そこで教師生活で初めて生徒にチョークを渡し、SVOの説明を請うた結果、生徒間対話が生起し、生徒の理解が促される経験を得た。教師にはできないことが生徒間では可能になることを実感し、以後生徒間対話のあり方を追究するようになったのである。3. 実践及び分析に関する理論的概観3.1. 協働的な対話 [collaborative dialogue] に関するSLA研究 外国語学習を含む広義の第二言語習得 [Sec-ond Language Acquisition: SLA] 研究では、近年、教室内における協働的な対話のあり方に関心が寄せられている。協働的な対話とは、「知識を構築する対話であり、少なくとも二者間の一方、または両者にとっての新たな知識構築に関わるもの」(Swain, Kinnear and Steinman, 2011, p. 150) と定義される。なお、言語を媒介的な道具とみなすVygotsky (1978, 1986) の思想に基層を置く社会文化理論 [Sociocultural Theory: SCT] の提唱者は、入力と出力を対極とみなすことなく、双方が話者間における対話の一環にあると主張する。Swain (2000) は、認知的活動と社会的活動の双方を兼ねる協働的な対話の有り様に着目し、発話と応答を包含する知識構築が言語学習であると説く。そして全ての対話が協働的にはならないことから、その差異を生む要因を明らかにすることを求めている (Swain, 2000)。実際に、一斉授業での教師による発話量の過多が指摘され(Ellis, 2008, pp. 792–793)、小集団学習への注目が集まる中 (p. 818)、Lyle (2008) はグループ活動、学級単位での協働的な対話と教師の関わり方を検討する必要性に言及している。 Kim & Lee (2012) はSCT に依拠し、うまくいっている [successful] 授業 (p. 122) での教師による働きかけを明らかにした。韓国の大学で、英語でのCommunicative Language Teaching が義務づけられている必修授業で、必要に応じて韓国語の使用により学習者の認知負荷を避ける、カナダ人教師の授業のあり方を観察し分析した。当該教師は、学習者の既有知や経験、風俗習慣に配慮した授業を実施しており、この授業に対する学習者の満足度は相対的に高く、言語能力の向上が見られた (Kim & Lee, 2012)。さらに、教室での対話的な相互作用 [dialogic inter-actions] の機能を検討したTocalli-Beller & Swain (2007) は、(a) 学習者と学習者の間、(b) 各学習者と自己との間、(c) 学習者と人工物 [artifacts] の間における相互作用の重要性を認め、これらを促進する教師の役割が看過されてきたと論ずる。また、協働的な対話を主導する教師の役割を捉えるために、Martin-Beltrán (2012) は英語とスペイン語併用の小学校における授業を、1年間観察し事例研究を行った。そして教師が、教案にはない活動へ児童を即興的に誘った結果、知的好奇心が刺激された2人の児童が相互作用を介し、自発的にスペイン語の新たな語彙を学習する様相を捉えた。さらに先行研究の蓄積が多くはない、協働的な対話に関する指導のあり方をめぐり、今後ますます多くの事例研究が待たれると総括する(Martin-Beltrán, 2012)。 3.2. 協働的な学習 [collaborative learning] に関する教育研究 日本国内でも同様に、公教育における生徒間の対話と協働的な学習のあり方に注目が集まっている(江利川, 2012; 津田, 2013)。津田は、一斉授業を教師主導の授業とみなし、生徒4人の小集団学習における談話の特徴を検討した。そして自律的な学習者の育成に際しては、談話の様式が固定化されないことが重要で、このことを小集団学習の意義と結論づけている。また、江利川は全国の英語教師と共に著作を上梓して、英文読解や英作文、英文法やスピーチ発表等、多岐に亘る学習内容を網羅する実践報告と授業案を提示し、公教育での授業における協同

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