順天堂グローバル教養論集第一巻20160325
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83中学校英語科における協働的な対話の検討学習の可能性を論ずる。なお、上掲書はいずれも、小集団による協働・協同学習を「一斉授業の弊害を打破する学びのスタイル」(江利川, 2009, pp. 64–65) と同定している。しかし教師の中には、授業内容や学習者の理解度に応じて協働学習と一斉指導を即興的に交え、調整しながら授業を遂行する者も少なくないと考えられよう。また協働的な対話は教師が介在する学級単位でも生起することから、協働的な学習を支える教師の認知のあり方を含め、多様な教育実践がどのように展開され、学習者による授業内容の理解がどのように促進されるのかを、実証的に明らかにすることが求められている。  なお、授業中の協働的な学習に関する議論をめぐっては、SLAや英語教育研究の領域よりむしろ教育学の分野で、数多くの知見が認められる。例えばSawyer (2013) は、伝達・獲得型学習と協働的な学習の相違について、前者は教師による明示的な教授法を伴う一方、後者はより即興的で授業の流れが予測不能となり、全参加者の行為を介して生起する (p. 126) と述べる。またSawyer は、集団での即興的で創発的な過程を協働的な創発 [collaborative emergence] とみなし、4つの特徴を示している:(a)活動の結果が事前には予見されない;(b)時々刻々の偶発性を備え、参加者の行為はその直前の行為の影響を受ける;(c)相互作用の効果が、後継する他者の行為によって変化し得る;(d)参加者の対等な貢献により過程が協働的になる (p. 126)。事前の筋書きにはない、集団による創発的で動的な即興性を協働の奥義とみなすSawyerによれば、協働的な学習は結果が未定で予測不能な偶発性を包摂する。したがって公教育における参加者間での対話の考察に際しては、授業の各場面における教室談話の様相を、発話生成の文脈と共に詳細に検討することが望ましいと言えよう。 上記の議論は総じて、授業での協働的な対話構築をめぐる教師の働きかけを捉え、予測不能な偶発性を有し参加者の発話により変幻自在となる、協働的な学習における教室談話の様相を精査する重要性を示唆している。このことをふまえ、本稿では2009年11月には生徒間対話のあり方に殆ど留意していなかった教師が、2011年12月には学級での生徒間対話を促すために、新たな学習課題を設定して授業実践に臨んだ点に着目する。そして縦断的な事例研究を通して、学級全体での教室談話のあり方を、協働的な創発 (Sawyer, 2013) における (a) 予見不能な偶発性;(b)参加者による変幻自在で対等な貢献、への視座に即し検討する。これらの試みにより、文法授業で学級を単位とする協働的な対話がどのように生起し機能するのかを捉えることが本研究の目的である。4. 調査方法4.1. 授業観察の手順と方法 教師は既述のように、2001年~2009年に3年次英語を担当した5回に亘り、関係代名詞導入の際に犬の写真を用いた。教師によればこの授業は、「自身の教え方がルーティン化され、子どもの認知と既習事項の関連への配慮を欠いた、教師主導の知識伝達型授業」であったという。しかし本稿冒頭の体験を経た教師は、2011年度以降は生徒主体の授業を志向し、異なる方法で関係代名詞を指導するようになった。本研究ではこの事実に倣い、2009年10月・11月に実施された教師主導の授業の一環にある教室談話録(表1事例ⅰ・表2事例ⅲ)と、2011年11月・12月の生徒主体の授業模索期における教室談話録(表1事例ⅱ・表2事例ⅳ)を、比較し検討する。具体的には、教師と筆者による2007年~2011年の共同研究期間に、観察が実施された授業 (全114日合計226校時:5年間に亘り平均週1日の観察校訪問)の中から、2009年度・2011年度の関係代名詞の導入時と総括時の教室談話録を、教師によるIC録音と観察者のメモを基に作成し、各5分間分を事例として抽出した。なお、事例選択に際しては、質的研究における「目的志向のサンプリング」

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