順天堂グローバル教養論集第一巻20160325
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84順天堂グローバル教養論集 第一巻(2016)(フリック, 2013, p. 148)の概念をふまえ、「決定的な事例」(p. 149)に焦点をあてることに主眼を置いた。既述のように、事例ⅳが教師の31年の授業経験において、「理想に近く忘れ難いもの」となったことから、「経験の結晶化」 (箕浦, 1999, p. 95)の概念に照合させ、5分程度の事例であっても「記録に価する…『妥当なデータ』」(p. 95)とみなした。事例研究により一個人を深く理解すること(メリアム, 2004)を志向し、同一教師が異なる志向性の下に2年ぶりに教えた、3年生対象の関係代名詞の授業過程を照射したのである。また、教師を対象に談話録を参考にしながら実施された、対話形式による非構造化インタビュー調査 (やまだ・麻生・サトウ・能智・秋田・矢守, 2013, p. 299)の回答と、談話録上に後日教師が記したコメント、及び2011年12月11日に菅沼くんに対し教師が依頼した、任意の紙面アンケート調査の回答も部分的に抜粋し参照する。4.2. 分析手法 本研究では、縦断的な教室談話の様相を明らかにするために、Sawyer (2013)による協働的な創発への視座に着眼する。Sawyerは既述のように、協働的な創発における4つの特徴を導出しており、本稿ではこれらを統括し、(a)予見不能な偶発性;(b)参加者による変幻自在で対等な貢献、の二点を分析枠組みとする。そして同一の教師による教師主導の授業と、生徒主体の授業模索期における教室談話の様相がどのように異なるのかを、教師の信条と認知をふまえ、(a) と (b) の概念に依拠し分析する。生徒主体の授業では、教師主導の授業以上に、生徒による主体的な授業参加の様相が認められ、授業内容に関する教師と生徒、ならびに生徒間における活発で複雑なやりとりが生起するであろう。次節では、協働的な創発の概念に基づき、時系列に沿った4つの教室談話事例を検討する。5. 結果と考察5.1. 教室談話録 最初に発話生成の文脈について記し、2009年と2011年の関係代名詞導入時と総括時の談話事例を各々転載する。事例の解釈においては、教師に対するインタビューの回答も部分的に参照する。〈事例ⅰ2009年と事例ⅱ2011年の関係代名詞導入時における発話生成の文脈〉 事例ⅰ2009年―様々な犬種を示すカレンダーの写真を用いて、教師が関係代名詞節を紹介している (表1左)。事例ⅱ2011年―前週までの学習事項である形容詞句を復習した後に、学級内のムードメーカーで歌が好きな健一くんに関する関係代名詞節を提示している(表1右)。 5.2. 教室談話録の解釈 事例ⅰ(表1)2009年の授業で教師は、「飼い犬について当時話題にしていたこと」から、犬の写真3種を提示し、関係代名詞節を導入した (6) ~ (10)。すると、塾で既に関係代名詞の学習をしていた生徒が応答した (1) ~ (3)。しかしこの場面では、関係代名詞の理解を志向する、生徒の自発的な質問は発せられず、生徒間での対話も生起しなかった。教師は、生徒にとって既習となる形容詞句 (4), (5) について述べた後に、3つの関係代名詞節 (6) ~ (10) を提示した。なおこの場面では、新出文法項目としての関係代名詞のみならず、生徒にとっての新出語彙である “fur” (9) と “uffy” (10) も用いられている。 一方、事例ⅱ(表1) 2011年の授業で教師は、前課の文法項目が現在分詞の形容詞的用法であることに着目し、このことの復習に始まり、関係代名詞節の導入へ進んだ。事例ⅱの授業は校内合唱コンクールの直後に実施され、英語は苦手だが歌が得意な健一くんに焦点をあてた文章が提示された。教師は形容詞句を含む①の英文と、関係代名詞節を含む②の英文の意味が「ほとんど同じ」 (11) であることを示唆し、生徒に

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