順天堂グローバル教養論集第一巻20160325
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88順天堂グローバル教養論集 第一巻(2016)詞を総括する場面である。教師には試験範囲を終えることが必至の、心的余裕がない授業となり、結果、理解が中程度の松田くんが、50分間に19回「わからない」と呟いた(表2左)。事例ⅳ2011年―定期考査2週間後に関係代名詞について総括した場面である。本時には、前時にホワイトボードに記したグループ学習での結論を発表する時間が設けられた。すると教師の予想に反し、英語が最も苦手な生徒の一人である菅沼くんが、7班の代表として立ち上がった。教師はこの時の驚きの胸中について、「どうしてこともあろうに、菅沼くんが発表することになってしまったのだろう、ジャンケンで負けてしまったのだろうか。とにかくできる限り彼に恥をかかせないようにしなくては…」と語り、心配と焦りの念を抱いていたという(表2右)。 5.4. 教室談話録の解釈 事例ⅲ(表2)は、松田くんによる「わからない」に帰する6回の呟きを示している (22), (25), (28) ~ (31)。また、野坂くんも誤答 (21) の後に、質問を発している (23), (24)。教師は松田くんの発話を revoicing した (26) が、彼は「なんでもない」 (27) と応答した。なお、事例ⅲにおける生徒の発話量は教師の発話量に比べ少なく、いずれの発話も単発で終わる傾向にある旨が指摘できる。さらに教師が文法を説明する発話からは、試験直前の慌ただしさもあり、疑問を述べる生徒の認知に即して、時間をかけて彼らと対話を構築する様相は示唆されない。また、既述の事例ⅰ同様にこの事例ⅲでも、生徒間対話が見られないことから、2009年時点では教師自身が認めるように、教師主導の教室談話が主として生起していたと解釈できる。実際に教師は、この授業を含む当時の自身による教え方を述懐し、「お恥ずかしいですが、長年特に文法の授業では生徒の正答を前提に歓迎し、誤答には厳しく…自分の教え方を振り返らず、生徒に責任をおしつけてきた」と述べている。 一方、事例ⅳ(表2)において菅沼くんは、ホワイトボードに記された表に即し、級友全員の前でゆっくりと関係代名詞について語った (32), (33)。いずれの発話も単発で終わることはなく、自身の思考に基づくことばでの説明がなされている。また、菅沼くんが参照した表は、12月2日の授業で教師が副教材の問題集から引用した表とは異なる、班員が独自に考案した誰の目にも新たなものである。教師によると、この授業の2週間前に実施された定期考査での菅沼くんの得点は、通常と同水準にあって、何ら大きな変化は認められなかったという。しかし本授業では、彼による関係代名詞についての説明が可能であったことから、定期考査以降、本事例の冒頭までに関係代名詞に関する菅沼くんによる理解の有り様に、何らかの変化がもたらされた可能性がある。 実際に菅沼くんは、教師が依頼した事後の個別紙面アンケートにおいて、「関係代名詞について、グループ学習前にわかっていたこと」という自由記述欄に、「何もわからなかった」と回答している。そして、「グループ学習後にわかったこと」については、「関係代名詞の活用の仕方がわかった」と記している。さらに、グループ学習について彼は、「わからないことをきけるのでいい」とも記載している。なお、彼が記した「関係代名詞の活用の仕方」という表現は、英文法上は誤記であり、正しくは「関係代名詞の種類の見分け方」である。しかし先行詞の指示内容によって、“who, which, that” と種類を見分ける必要がある関係代名詞の特性に菅沼くんが気づき、直前の主語のあり方によって語形を変化させる「動詞の活用」との類似点を見出し、「関係代名詞の活用の仕方」と記した可能性が示唆される。したがって、前授業時25分間の討議中に、菅沼くんが関係代名詞の理解を志向し、同じ班の級友3人との対話に参加した結果、関係代名詞について「何もわからな[い]」状態から「わからないことをき[いた]」後に、「活用の仕方がわか[る]」ようになり、

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