順天堂グローバル教養論集_第二巻_2017年3月(ISSN2424-0001)
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47医療通訳システムに関する海外先進地域の取り組みと日本との比較1. 背景1.1. はじめに 近年のグローバル化の流れにより、来日観光客は増加の一途をたどっている。2013年に2020年の東京五輪開催が決まり、ますます多くの外国人の訪日が見込まれている。外国人の訪日に加え、アジア各地における医療観光(西村、2011)がますます盛んになり、日本でも、一部の医療機関で外国人患者の受け入れを始めている(川内、2011)。外国人医療の問題としては、言語習得が不十分である場合、同一言語での診療に対して、誤解やコミュニケーション不全に陥りやすいなどの点がある(Harmsen、 J. A. M.、 Meeuwesen、 L.、 Wieringen、 J.、 Bernsen、 R.、 & Bruijnzeels、 M.、 2003)。更に、言葉の壁が原因で、治療に対する積極性に差が生まれ、健康格差につながるという報告もある(Schouten B. C.、 and Meeuwesen. L.、2006)。健康格差を防ぎ円滑なコミュニケーションを実現するために、在日、訪日外国人と日本の医療をつなぐ存在が医療通訳であり、その重要性はますます高まっている。 在日・訪日外国人の増加に伴い、彼らが日本で医療機関を受診できる環境を整備するための様々な取り組みがなされている。医療機関の申請に基づき第三者機関が外国人受入体制等について審査・認証する仕組みを作成中であり、2016年には医療通訳等の配置及び院内資料の多言語化等の整備事業を実施する医療機関の公募、外国人患者受入れ医療機関認証制度推進事業の公募を実施し、日本の病院における外国人患者受け入れを推進した。2020年の東京オリンピックを前に医療通訳システム整備が進んでいるが、体制が整うためには道半ばである。 日本における医療通訳の歩みを概観すると、1980年代後半、日本ではバブル経済による労働力不足から非正規滞在の外国人労働者の問題が発生し、労働災害や病気のために医療機関を受診する外国人労働者の数が増加した。1990年に入管法が改正され、日系南米人が多数労働者として在住するようになってから、日本各地で医療通訳の実践が活発化した。(沢田、p341)。当初はボランティアが外国人患者からの個人的な依頼に応じて医療通訳を行っていた。 医療現場では正式に訓練を受けたプロの通訳者が少なく、医療関係者や外国人の相談員など、通訳とは関係のないバックグラウンドの人がアドホック(にわか)通訳者として医療通訳を務めることも多い。Flores et al.(2003)によれば、プロの医療通訳者とアドホック通訳者の違いは、「プロの医療通訳者が医療機関に雇用されている通訳者であることに対して、アドホック通訳者は、専門的な通訳技術の訓練をうけていない、患者の家族、友人、臨床に関係しない病院職員、待合室にたまたま居合わせた他人などである。」これまで、アドホック通訳者と呼ばれる人たちが、医療通訳を担うことが殆どであった。しかし、アドホック通訳を介したコミュニケーションは、誤診やコミュニケーション不全を生み、病状の悪化につながる恐れがあると問題視されてきた(Flores et al., 2003)。石崎ら(2004)は、上記の通訳者の利点欠点を述べたうえで、プロ通訳者は理想だがコストがかかるとしたうえで、ボランティア通訳者を「望ましい方法ではあるが、やはり専門的な知識、能力を習得するための正規の通訳教育を受ける必要がある」としている。 現在の日本国内における医療通訳養成プログラムは、大きく自治体またはNPO、NGO等が主催のプログラムと、教育機関主催のプログラムに分類される。自治体またはNPO、NGO等が主催のプログラムの代表的なものとしては、長野県の北信外国人医療ネットワーク(1992年設立)、山形県の特定非営利活動法人国際ボランティアセンター山形(1994)、滋賀県のMEDICOF滋賀(1999)、京都府の多文化共生センターきょうと(1999)、神奈川県の特定非営利活動法人多言語社会リソースかながわ(1999)、宮城県の財団法人宮城県国際交流協会(2001)、兵庫県の医療通訳研究会(MEDINT)

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